62 / 263
システィアーナの婚約者
32.初めての花
しおりを挟むフレック夫妻は、何かを納得、満足した顔で自分達の予定に向かった。
ユーフェミアも、勉強会の下準備と、個々の自室で待たせている妹達を迎えに行く。
侍女を呼びにやればいいというアレクサンドルの言葉は流され、ユーフェミアは今にもスキップをしかねないほどの機嫌の良さで、妹達の控えている私室へ向かった。
侍女やメイドが数名壁際に控えているので誰もいなくなったわけではないが、貴族の屋敷や王宮で働く使用人というものは、目と耳を閉じて気配を絶ち、姿は見えるがいないものとして扱われる。
ということで、王女達に与えられた勉強部屋ではあるが、残されたのはシスティアーナとアレクサンドルだけになった。
「ユーフェミアがあのような事を言って、恥をかかせてすまなかった⋯⋯いや、あのような事を言わせるような行動をとった、わたしが悪かったのだね。許してもらえると嬉しい」
「いいえ。お気になさらず。ミアも本当にそう思って言った訳ではないでしょうから。それに、こんな子供じみた事をしてしまった、わたくしの方こそ、ご迷惑をおかけしました。わたくしが困っているのを見かねて、まわりから隠そうとしてくださったのでしょう? 驚きましたけれど、わたくしのために動いてくださったことは嬉しいですわ」
システィアーナの嬉しいとの言葉に、アレクサンドルから言葉での返事はなかったが、今までに見たこともない、得意のアルカイックスマイルではない心からの笑みを見て、システィアーナは息が詰まるような、息苦しさを感じた。
(王族の方々は、整われた容姿をなさっている方が多いけれど、特にユーフェミア様とアレクサンドル殿下は、ご両親に負けない美しさだから⋯⋯)
頰が熱くなるのを誤魔化すように俯いて、腰元に挿した薔薇を抜いていく。
「あ⋯⋯ 似合っていたのに。でも、仕方ないね。目立つし『女王の薔薇』だから意味深にとられかねないか、ら⋯⋯? そうか。色も形も似合うし香りもそんなに強くないから、見舞いにもちょうどいいかと思ったのだけれど、同じ温室の薔薇でも『女王の薔薇』を贈った事も、わたしが悪かったのか」
システィアーナとしては、量も考えて欲しいと思ったけれど、口には出さなかった。
「とても慰められましたわ。昨日一日、素敵な薔薇を眺められて、幸せな気分で過ごさせていただきましたもの」
それは、嘘じゃない。ジャムを作ったり、湯に浮かべて入浴し、寝室に飾って眠るまで、本当にいい気分だったのだ。だから、ショールにひっかかった薔薇を見て、自らを飾ってみたくなった。
ただ、王家保存の、女王のための薔薇であったために、誤解を生みかねないと言うだけで。
「女性に花を贈るのは初めてでね。妹達にも花は贈ったことがないんだ。初夏の母への感謝週間の定番の花一輪と、冬の慰霊祭の白百合は数に入らないだろう?」
「そうですね⋯⋯ アレクサンドル殿下の初めての見舞いの花を頂けるなんて、光栄ですわ」
王太子という特別な地位が、女性に花を気軽には贈れなくしている。
それなりの理由があっても、女性に花を贈ると、特別な意味があるのか邪推されたり、相手に期待させるかもしれないからだ。
「だが、システィアーナ嬢なら、再従叔母だし、祝いや行事のものではないのだし、ちょっとした思いつきなのだけれど、贈ってみたくなってね」
男性にしては綺麗すぎる笑顔で「不思議と、人に花を贈るだけで、自分の胸も温かくなれるのだね」そう言って、アレクサンドルは公務に戻っていった。
2
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】すり替えられた公爵令嬢
鈴蘭
恋愛
帝国から嫁いで来た正妻キャサリンと離縁したあと、キャサリンとの間に出来た娘を捨てて、元婚約者アマンダとの間に出来た娘を嫡子として第一王子の婚約者に差し出したオルターナ公爵。
しかし王家は帝国との繋がりを求め、キャサリンの血を引く娘を欲していた。
妹が入れ替わった事に気付いた兄のルーカスは、事実を親友でもある第一王子のアルフレッドに告げるが、幼い二人にはどうする事も出来ず時間だけが流れて行く。
本来なら庶子として育つ筈だったマルゲリーターは公爵と後妻に溺愛されており、自身の中に高貴な血が流れていると信じて疑いもしていない、我儘で自分勝手な公女として育っていた。
完璧だと思われていた娘の入れ替えは、捨てた娘が学園に入学して来た事で、綻びを見せて行く。
視点がコロコロかわるので、ナレーション形式にしてみました。
お話が長いので、主要な登場人物を紹介します。
ロイズ王国
エレイン・フルール男爵令嬢 15歳
ルーカス・オルターナ公爵令息 17歳
アルフレッド・ロイズ第一王子 17歳
マルゲリーター・オルターナ公爵令嬢 15歳
マルゲリーターの母 アマンダ・オルターナ
エレインたちの父親 シルベス・オルターナ
パトリシア・アンバタサー エレインのクラスメイト
アルフレッドの側近
カシュー・イーシヤ 18歳
ダニエル・ウイロー 16歳
マシュー・イーシヤ 15歳
帝国
エレインとルーカスの母 キャサリン帝国の侯爵令嬢(前皇帝の姪)
キャサリンの再婚相手 アンドレイ(キャサリンの従兄妹)
隣国ルタオー王国
バーバラ王女
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
第18回恋愛小説大賞で、『奨励賞』をいただきましたっ!
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる