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システィアーナの婚約者
19.議会のあとに
しおりを挟む翌朝ロイエルドは、システィアーナに約束した通り朝議の最後に、解散して、職務に就く者、帰路につこうと立ち去る者などでざわついた議会室で、
「私事で些か恐縮だが、この場を借りて断りを述べさせてもらうよ。
我が娘にたくさんの婚約打診、ありがとう。
しかし、娘はまだ、婚約解消に至った心痛から立ち直っておらず、公務を疎かにしない性質ゆえ、休まる事もなく日々を過ごしている。今しばらくはそっとしておいて欲しい」
と、誰に向かってでもなく軽く頭を下げた。
公爵家(王族)を除き最高位の侯爵家の当主で、若いながらも国政の舵取りに手腕を見せる、国王の信頼も篤い宰相が、非公式ながら頭を下げた。
異論を唱えられるはずもなかった。
「従叔父上」
「エルネスト。来ていたのか」
「はい。兵役で軍に入るまでの間、一時的にですが、フレキシヴァルト殿下の私設秘書官としてしばらくついていますので」
「そうか。どうだ? 兵役が済んだら、正式に就任しないか?」
返事をせずに苦笑いで返すエルネスト。
「なぜ、拒むではなくても、素直に了承しない?」
「私のような若輩者に務まりますか、心配ですし、どちらかと言えば、騎士として身体を動かして人に使われる方が向いているのではないかと⋯⋯」
自信なさげに視線をそらすエルネストに、ため息のあと、ロイエルドは、おそらくエルネストが今最も言われたくないであろう言葉のひとつを口にした。
「それでは、オルギュストと変わらないよ」
息苦しさを感じるエルネスト。
「この先、どんな縁があるにしても、現状、君はサラディナヴィオ公爵家の次男坊で、可能な限り、領民のために尽くさねばならない。兵役が明けた後、どんな職に就くにしても、国土でも領地でも、その管理に全く携わらない訳にはいかないだろう?」
「はい」
「自分で考えて民のために動けなければならない。他人に使われて甘んじるなどあってはならないことだ」
「申し訳ありません。浅慮でした。肝に銘じます」
羞恥に頰を染めて頭を下げるエルネストに、優しい目を向けるロイエルド。
「君の正義感と素直で優しいところは、私も買っているよ。出来れば、領政でも国政でもいいから、民のために役立てて欲しい」
「⋯⋯ありがとうございます」
下げたエルネストの頭を撫で、数人の執事や文官を連れて、執務室へ帰っていくロイエルドを見送る。
「僕としては、公務を手伝って欲しいけれどね。今の期間限定の仮の役目ではもったいないくらい、君のことを頼りにしているよ」
後ろで話を聞いていた第二王子フレキシヴァルトに腕をとって握られる。
その手は、とても温かかった。
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