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婚約破棄宣言した愚か者を許さない人達
10. 阿呆の父親はやはり馬鹿
しおりを挟む──どうしよう。
システィアーナは、僅かに動揺を隠せなくなりそうであった。
昨夜の夜会で、迎えにも来ず会場内でもエスコートもせず、別の女性を伴って登場し、王命での婚姻契約にも関わらず、一方的に婚約破棄を宣言した婚約者。
その婚約破棄に正当な理由もなく、婚姻契約を解消せぬ内から別の女性と婚姻を結ぶといい、契約締結からの九年間、全く歩み寄ろうという姿勢も見せなかったオルギュスト本人が謝るならともかく、その親が床に這いつくばっても、それを見て愉快と溜飲を下げる性質はしていない。
「もっともだよね。あんなオジサンに土下座されても気持ちよくないし、本人が反省して謝らなきゃ、謝罪になってないよね」
現国王エスタヴィオは、システィアーナの父ロイエルドと一つ違いの若い王で、ロイエルドとは学友であり親友であり、兄弟のように育った幼馴染みでもある。
親友の娘であるシスティアーナの事は、自分の娘のように可愛がっていた。なんなら、側妃の産んだアルメルティアと母の違う双子くらいには。
もっと言えば、従妹叔母でなければ、ドゥウェルヴィア公爵家のひとり娘でなければ、妻に娶りたかったくらいにはシスティアーナの母エルティーネを想ってもいたのだ。
エルティーネを娶ったのがロイエルドで、自分の三人の妃達が良い妻であった事には感謝しかない。そうでなければ、王太子位を棄てて婿入りすると言い出しかねないほど思い詰めた時期もあった。
そのエルティーネが産んだ、あの時感情のままに愚行に走っていれば自分の娘であったかもしれないシスティアーナを蔑ろにされて、エスタヴィオの中で、オルギュストを許すと言う選択肢はない。あんな阿呆を育てた公爵然り。
「僕は、充分、猶予期間は与えたつもりだよ? セルディオ」
「はい。この5年間、高名な騎士の従騎士としてつけて、学ばせたのですが⋯⋯」
「じゃあ訊くけど。騎士道って何だと思う?」
「は、その、騎士の名に恥じない行動をとる事でしょうか」
見てて気持ちが悪くなるくらいの大汗をかきながら答えるも、なんともファジーで曖昧すぎる、答えになってないピンボケな回答であった。
エスタヴィオは、「騎士道とは何か」と訊ねたのに対し、「騎士の名に恥じぬ行い」とは、その騎士の名に恥じぬ行いそのものを理解しているのかと問うたのに、答えになっていなかった。
「ああ、阿呆の父親はやはり馬鹿なのか」
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