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婦人活動

8.『紳士』の心構え

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 子供がローゼのドレスの後ろに伸びたスカート部分を強く引いて、昼寝の伴をねだる。

 銀髪の公子に気を取られていたので、強く引かれることに対しての対応が出来ていなかった。

「きゃ⋯⋯」

 斜め後ろの子供を確認しようとしてそのまま上半身を捻ったまま、後ろへ傾いていき、数秒後には床に転がるかと思われた。

 が、いつまで経っても、肩も尻も打ち付けないし、痛みも来ない。

「お姉ちゃん、ごめんなさい」
「転ばすつもりじゃなかったんだ」

 目を開けると、銀のさらさらの薄いレースのカーテンが見え⋯⋯たのではなく、公子の銀髪がカーテンのように目の前に下がっていたのだ。

 肩は打ち付けなかったし痛まなかったが、腰には硬いものがあたっているような気がする。

 カーテンもとい、銀髪を公子が耳の後ろに掻き上げると、ブルーグレーの双眸は柔らかく細められ、「怪我は?」と訊いていた。

「あ、あの、ありごとうございます。大丈夫ですわ」

 ダンスのリードのように、腰に添えた腕で支えてくれていたらしい。
 腰に感じる硬いものは、公子の腕だったようだ。

 ぐいっと引かれて立たせてもらう。一瞬、公子の胸に飛び込むようになるが、すぐに両手で押しやって離れる。

 上質な衣装に白粉おしろいが付いてないか確認してホッとする。
 外に出るので、日焼け止め、化粧直しの都合などから、しっかりと丁寧に肌に馴染ませてもらっていたようで、メイク担当の侍女に感謝する。

「君たちも、ローゼフラウ嬢が大好きなのは解るけれど、女性は乱暴に扱ってはいけないよ? 紳士は、か弱い女性を優しくそっと扱うものだよ」
「僕たち、お貴族さまじゃないよ?」
「そうじゃないよ。『紳士』は、貴族男子の事を言うのではない。礼儀正しく、女性を大切にする心構えのことを言うんだ。それは、どんな生まれにも共通する、誰もがなれるものだよ」

 子供達の目線に会わせてしゃがみ、優しい表情で言って聞かせる姿は、平民に偉そうな態度をとる貴族も少なくない中、ローゼの目には新鮮に映った。





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