上 下
177 / 276
奇跡の少女 ── ギレウォッタ

じゅうろく。『突然、お前達がここに落ちてきた時は驚いたぞ?』──そう言って、ギルドマスターはソファで足を組み直す。余裕があったのはここまで

しおりを挟む
     🕎

「突然、お前達がここに落ちてきた時は驚いたぞ?」

 そう言って、ギルドマスターはソファで足を組み直す。

「しかも、それぞれが仮眠室の寝台にきちんと寝かされる形でな。何かの儀式かと思ったわ。はははは」
「はぁ」
「お前たちは意識がなかったからな、知らんだろうが、キールがギルド前に突然現れたのと同じように、この部屋に空間の強烈な歪みの発生と、闇属性なのに神聖術という謎の強大魔法だ。魔神か何かが攻めてきたのかと焦ったぜ」
「はぁ」
「しかもギルドカードのログを確認したら、ラジエは一度死んでるって出てるし、何かのバグか?」
「まあ」
「なんだ、反応悪いなあ?」
「まあ、魔神ではありませんが、古代神に送っていただいたので⋯⋯ ラジエも確かに死にましたし」
「は?」

 ギルドマスターが、戯けた表情だったのが、一度固まって、無表情になり、眉根を寄せて不審なもの、理解の出来ないものを見る目になる。
 冥府の王インフェルヌスが使う魔術だから闇属性だが、古代神の扱う術だから神聖術なんだろう。
 ラジエも刈り取る者グリム・リーパーに斬られた時に、一度死亡判定が出てるんだろう。バグでも何でもない、事実だ。

 ギルドに送ってもらって、人心地ついた所で、冥府の王と念話で繋がった時に送られた記憶なのだろう、だんだん頭の中の整理がついてきた。

西濤にしなみの森が冥気ヘルノに侵され、精霊が狂い、波濤はとうの郷に被害が出た理由は、ロックストーヴ山の奥底に眠る、冥府の王の欠片が原因でした」
「ギレウォッタさん? もう一度、いいかな?」
「何度聞いても同じです。西濤の森全体が、瘴気に満たされ、冥の気も溜まり、動物達も精霊も、暴走していました。
 瘴気と冥気が最も濃い特異地点を感知したのはロックストーヴ山の火口で、荒野の火山地だったのに大密林でした。不死者アンデッドは無限増殖するし、生態系も狂っていましたが、冥府の王が歪みを正すと請け負ってくれましたので、順次平常に戻るはずです」
「ギ、ギレウォッタさんよ? 気のせいかな? さっきから、冥府の王インフェルヌスとかって、何度も言ってるけど⋯⋯」
「気のせいでも私達の見込み違いでもありませんよ。本人と話しましたから。ロックストーヴ山の火口付近に、打ち捨てられた廃鉱を見つけました。中は魔法もトーチもランタンも灯りは無効化し、火山性有毒ガスと冥気と瘴気で、人間は立ち入れませんでした」
「いや、それでどうやって解決したの。聖職者ゼロパーティでしょ? しかも人間は立ち入れないって、それじゃおかしいでしょ?」

 ギルドマスターが、前のめりで訊いてくる。
 まあ、私も体験しなければ、ここで聞くだけなら、鼻で笑っていただろう。それでどうやって解決したの、と。

「コハクが魔導道具アーティファクトで押し通しました」
「ああ⋯⋯」
「ギレウォッタさん!? なんか言い方おかしくないですか? ギルマスもなんで納得するんです!?」

 ソファに深く座り直し、うんうんと頷くギルドマスター。
 なんだ? もしかして、常識で理解出来ない不思議体験は『コハクがやりました』だけで通る、とか?






しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】私の婚約者はもう死んだので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:3,342

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:2,611

カメリア・シネンシス・オブ・キョート

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:18

ダンジョン勤めの清掃員さん

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:3

べらぼう旅一座 ~道頓堀てんとうむし江戸下り~

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:24

日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:25

邪魔者は静かに消えることにした…

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:347pt お気に入り:4,176

処理中です...