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奇跡の少女 ── ギレウォッタ

じゅうご。『コハクはまっすぐ、巨大な左手を見て、おねだりをした』──神が相手でも物怖じしないコハクが冥府の王におねだり!?

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     ⛰️

 コハクはまっすぐ、巨大な左手を見て、おねだりをした。

〘願い、とな?〙
「えと、お山や森の、冥気が濃くなって歪んだ空間になったのは、直していただけるんですよね?」
〘吾がコレを見失ったがための歪みゆえ当然の事。頼まれるまでもない〙

 そ、そうそう、神様がこう言ってるんだから、クエスト達成になるかどうかはともかく、このまま収めてもらって、早く帰ろう。と、思っても、罪はないと思うのだが、コハクは何を頼むというのだろうか。
 彼女が、迷惑料と称しての金品を要求するとは思えないし、冥府の王インフェルヌスが切り捨てた苦悩が元で起こった事変とはいえ、神に、波濤はとう一族への賠償をさせるとも思えない。うん。
 これまでのように、神にまで名付けをしてアイテム化するのもないだろう。どうも、意図してやっているようではないし。
 となれば、ますますわからん。

「私達、ここからどうやって帰ればいいのか解りません。空間に干渉できる力をお持ちなら、出来れば、お山の外へ送っていただけませんか?」
「「「あ!!」」」

 そうだ。帰るに帰れないとこまで落ちてきてたんだった。
 そもそも、歪みを直したら、その瞬間、我々は次元の狭間に置き捨てられるか、冥府に取り残されるか⋯⋯ はたまた火山の中に生き埋めになる可能性もあるのではないか?

 忘れていたわけではないが、いや、今は忘れていたが、こう、コハクと一緒にいると緊迫感が薄れるというか⋯⋯

〘もっともであるな。これは吾の配慮が足りなかった〙

 黒い球体──冥府の王の苦悩を握る左手の人差し指だけが立ち上がり、クイと折り曲げられると、それを見ていた私の意識が遠くなる。
 冥府の王って、死だけでなく安らぎや休息、安寧も司ってた⋯⋯か?

     Ꙝ

 ──った ギレウォッタ! ギレウォッタ?

 ハッと気がつくと、見慣れた顔がある。

「ギレウォッタ、気がついた? 話が聞きたいんだけど、いいかしら? 大丈夫? 頭がクラクラしてるとかない?」
「あ、ああ。大丈夫だ。アミナ」

 ──アミナ? ギルド内勤の?

「アミナ!?」
「調子悪いなら、明日にする?」
「ここは!? みんなは? ロックストーヴ山は!?」

 どうやら、私はギルドの半地下にある仮眠室に寝かされていたようだ。
 周りを見ると、まだ寝ているラジエ、寝台に身を起こして頭を降っているフィルタ、寝台に座って手荷物を確認しているアネッタやターレン、ボケーッとしているキールまでいる。
 コハクは?

「ギレウォッタさん、みんなも、お体の調子はどうですか?」

 コハクが、両手で錬金術用の大型ビーカーを抱え、階段を降りてくるのと目が合う。水を汲んできたらしいが、それを飲めと?
「違うよ、ケルピーちゃんが大きくなったから、入れ替えだよ。コレは、ギルドの売店のお姉さんに借りたの」

 ギルド売店の売り子兼商品管理のネリスは、公式錬金術師で、客のいない空き時間は、いつも何か実験をしている。売り場の隣に研究室まで増設してしまって、ほとんど住み込みだ。
 見ると、コハクの胸に下げていた瓶に入っていた時は7㎝ほどだったケルピーが、倍はある大きさになっていた。形はタツノオトシゴのままだったが⋯⋯

〈結界を張る必要も、気温調節をする必要もなくなったからな。妖力をすべて回復に回せる。後は、仮主の魔力を貰いつつ回復を待つか、妖精界に帰還させてもらってあちらで癒やすか、だな〉

「で、みなさん、お疲れの所悪いんだけど、調査系だけど上級依頼なんだし、詳細を伺ってもいいかしら?」

 アミナの眼は、先程は心配そうだったのに、やや呆れていた。







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