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奇跡の少女 ── ギレウォッタ
なな。『コハクは女教皇の安らぎを与える杖を構え、黒光りする球体に向かって空気をかき混ぜるように振り回した』【数行、加筆あり】
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コハクは『女教皇の安らぎを与える杖』を構え、黒光りする球体──冥と昏の属性の古代神に向かって、クルクルと空気をかき混ぜるように振り回した。
三日月の形のチャームトップから下がる瑠璃玉が揺れる。
ѭ
コハクが、ターレンとキールの補助で喚び出した海馬──ケルピーは、三人に迫る火焰の渦を、魔素をこめた水流で相殺した。
本来であれば、上級の火精霊の熾した焰を水妖魔如きでどうにか出来るはずもないが、コハクの喚び出す妖精族はみなハイスペックになるのか、上位妖精級の威力を出していた。
だが、元素の源である精霊と妖精族では、次第に押され気味になってくる。当然だろう。
周りにも被害が出てくるようになった。我々は、かろうじて妖精くん達とケルピーに守られているが、逆を言えば、我々を守りながら上位の精霊に立ち向かうのは、ケルピーには負担が大きいだろう。
一度はなんとかなるかも? と思ったが、やはりここまでかと再び諦めかけた時、地響きと共に、巨大な氷塊が降ってきた。
冬の大精霊ジャック・フロストである。滅多な事では人前に姿を見せないと言うが、なんと巨大なのか⋯⋯ 塔を併設した小ぶりな城ほどあるジャック・フロストを見上げても、顔まで見えない程だ。冷気の靄のような物も纏っていて見にくいというのもある。
先程までドンパチしていたサラマンダーとケルピーは、巨大な雪だるまに踏みつぶされて、のしイカ状態であった。
眠りを妨げられつい手を出してしまったと言うが、存在の確認数が少ない幻とさえ言われたジャック・フロストが、雪山でもないのに現れる事なんてあるだろうか?
ここでもコハクは、驚く事をする。ジャック・フロストの投げて寄こした、フリーズドライされてカサカサの蜥蜴の干物を、「えっ? えっと、わぁ」などと言いつつ周りを見回し、慌てて空間拡張収納袋に突っ込んだのである。
水分が抜けて見た目干物のようになっていたとはいえ、精霊を、インベントリに突っ込むか? 生き物ではないから大丈夫でしょうと本人は言うが⋯⋯
まあ、ジャック・フロストも何も言わなかったので、それ以上はだれもその事には触れなかった。
故郷愛に暴走気味のコハクに譲られた手編みのマフラーが、ジャック・フロストの霊体の傷を塞ぎ、霊気の漏れを抑えるとかで、感謝して自身の結晶を謝礼に残し、来た時とは比べ物にならないくらい軽々と風に乗って立ち去ったが、しばらく皆呆けて見送ってしまった。
精霊が、ひとかけらの結晶とはいえ自身の分身を分け与える事など、滅多にあることではない。
とにかく、私が初めて人生を諦めた絶体絶命の危機は、コハクの幸運によって回避されたのだ。
コハクを除くメンバーは、あり得ない幸運に、彼女の運気の強さを痛感した。
ѭ
ラピス・ラズリは、昔から魔力を貯めたり魔道具に使ったりされるもので、このコハクの杖にも、チャーム部分から柄の飾り、柄尻に填められた玉まで至る所に使われていて、見た目も美しいが、特筆すべきはその内包する聖属性の魔力だろう。
コハクは魔法は使えないようだが、あれがあれば、あの杖に施された術式は簡単に発動するだろう。
彼女の祖母は、小物を作るのが得意だったと聞いたが、もはや匠聖の域の天才だったのだろう。亡くなられたとはなんとも惜しい。
くるくると杖を振り、本人もまわりながら踊りが大きくなっていく。トランス状態に入ったのだろう。
黒光りする球体は、歓喜にうち震えだした。
なぜか、古代神にさの振動は、喜んでいるように感じられた──
コハクは『女教皇の安らぎを与える杖』を構え、黒光りする球体──冥と昏の属性の古代神に向かって、クルクルと空気をかき混ぜるように振り回した。
三日月の形のチャームトップから下がる瑠璃玉が揺れる。
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コハクが、ターレンとキールの補助で喚び出した海馬──ケルピーは、三人に迫る火焰の渦を、魔素をこめた水流で相殺した。
本来であれば、上級の火精霊の熾した焰を水妖魔如きでどうにか出来るはずもないが、コハクの喚び出す妖精族はみなハイスペックになるのか、上位妖精級の威力を出していた。
だが、元素の源である精霊と妖精族では、次第に押され気味になってくる。当然だろう。
周りにも被害が出てくるようになった。我々は、かろうじて妖精くん達とケルピーに守られているが、逆を言えば、我々を守りながら上位の精霊に立ち向かうのは、ケルピーには負担が大きいだろう。
一度はなんとかなるかも? と思ったが、やはりここまでかと再び諦めかけた時、地響きと共に、巨大な氷塊が降ってきた。
冬の大精霊ジャック・フロストである。滅多な事では人前に姿を見せないと言うが、なんと巨大なのか⋯⋯ 塔を併設した小ぶりな城ほどあるジャック・フロストを見上げても、顔まで見えない程だ。冷気の靄のような物も纏っていて見にくいというのもある。
先程までドンパチしていたサラマンダーとケルピーは、巨大な雪だるまに踏みつぶされて、のしイカ状態であった。
眠りを妨げられつい手を出してしまったと言うが、存在の確認数が少ない幻とさえ言われたジャック・フロストが、雪山でもないのに現れる事なんてあるだろうか?
ここでもコハクは、驚く事をする。ジャック・フロストの投げて寄こした、フリーズドライされてカサカサの蜥蜴の干物を、「えっ? えっと、わぁ」などと言いつつ周りを見回し、慌てて空間拡張収納袋に突っ込んだのである。
水分が抜けて見た目干物のようになっていたとはいえ、精霊を、インベントリに突っ込むか? 生き物ではないから大丈夫でしょうと本人は言うが⋯⋯
まあ、ジャック・フロストも何も言わなかったので、それ以上はだれもその事には触れなかった。
故郷愛に暴走気味のコハクに譲られた手編みのマフラーが、ジャック・フロストの霊体の傷を塞ぎ、霊気の漏れを抑えるとかで、感謝して自身の結晶を謝礼に残し、来た時とは比べ物にならないくらい軽々と風に乗って立ち去ったが、しばらく皆呆けて見送ってしまった。
精霊が、ひとかけらの結晶とはいえ自身の分身を分け与える事など、滅多にあることではない。
とにかく、私が初めて人生を諦めた絶体絶命の危機は、コハクの幸運によって回避されたのだ。
コハクを除くメンバーは、あり得ない幸運に、彼女の運気の強さを痛感した。
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ラピス・ラズリは、昔から魔力を貯めたり魔道具に使ったりされるもので、このコハクの杖にも、チャーム部分から柄の飾り、柄尻に填められた玉まで至る所に使われていて、見た目も美しいが、特筆すべきはその内包する聖属性の魔力だろう。
コハクは魔法は使えないようだが、あれがあれば、あの杖に施された術式は簡単に発動するだろう。
彼女の祖母は、小物を作るのが得意だったと聞いたが、もはや匠聖の域の天才だったのだろう。亡くなられたとはなんとも惜しい。
くるくると杖を振り、本人もまわりながら踊りが大きくなっていく。トランス状態に入ったのだろう。
黒光りする球体は、歓喜にうち震えだした。
なぜか、古代神にさの振動は、喜んでいるように感じられた──
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