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尽してくれた少女を見殺しにした僕ら──クリストファ
じゅうに。『クリス様が、澄んだ目をして言い放った「まさか。彼女の気が済んで昇天するまで付き合うさ」と』
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🛐
クリス様が、澄んだ目をして言い放った。
「まさか。彼女の気が済んで昇天するまで付き合うさ」
勇者になれる可能性を秘めた加護持ちのアレフヴァルド様と、幼馴染みであるクリストファ様とエドガース様、魔術の知識を買われ加わったキャロライン嬢。その4人がやってしまった、人命に関わる、ミスで済まされない大問題行為。
ダンジョン内で、戦闘技能を持たない、未成年の少女をパーティから外して置き去りにした事件。
もっとも、本人達は、戦闘技能を持たないがゆえに、危険なダンジョンへ連れ回さないための措置のつもりだったみたいだけど。
擁護措置が聞いて呆れる。
入り口に近かったと言うけれど、魔物が闊歩するダンジョンで、大百足や洞窟蝙蝠すら倒せない少女を置き去りにして、自力で街まで帰れると本気で思っていたのか。
どうやら、深く考えてなかったらしい。子供でもわかることだと思うけれど。
パーティを整えて、コハクちゃんは危険地区に連れて行かないとした事で、安心したというか、気が抜けているというか。
自分の行動が、後にどんな事態を招くのか、想像する力もないのか。
初級者向けの、低ランクダンジョンで、自分達が行き来する時は苦労しなかったから、コハクちゃんも大丈夫という短絡さ。
ギルドマスターは、一度やれば二度とやらないだろうレベルの愚かしさを、恋人(恋人同士ではない)が犠牲になったというトラウマレベルの精神的打撃による憔悴で、充分今回は罰を受けたと言うが、もしコハクちゃんが、本当に死んでいたらどうしたろうか。
そもそも、その考え方だと、コハクちゃんを可愛がっていたアレフ様とクリス様しか罰を受けていないではないか。
そう思うと、ギルマスの処置は手ぬるいと思う。
コハクちゃんが死んでいたら、アレフ様が再起不能を危ぶまれるほどに憔悴し、エドガー様が(ギルマスに)吹っ飛ばされ、クリス様が資質に傷を負って神聖力が落ちる、程度では済まなかったはずだ。キャロライン嬢に至っては、寝覚めが悪い程度ではないのか。
釈然としないものを感じながらも、マスターの指示には従う。
でもまあ、そう考えると、彼女を置き去りにした後ろめたさから、仲間内でも信頼関係が崩れ、以前のようには冒険ができなくなっているかもしれないが。それはそれで罰を受けたと言えるかも?
実力が見合わねば、次は自分が見捨てれるかもしれないのだ。そんな人物を信頼して背中を預けられるだろうか?
「随分、やつれていたな?」
「彼らにとっては、コハクちゃんは死人ですからね。自責の念が重いのでしょう。これであっけらかんとしていたら、神経を疑いますよ」
実は今のやり取りを聞いていたのだろうギルマスは、クリス様が去った扉の方をいつまでも見ながら、何を考えてらっしゃるのか。
「死霊で出てきてくれたら、浄化するのではなく、相手の気が済むまで恨み言に付き合うとはまた⋯⋯ 怨霊は気が済むことなく永久に怨嗟を振りまき続けるもんだがな? 取り憑かれたいのか?」
「思わずバラしてしまいそうになっちゃいましたよ」
「いつものクリスで冷静なら気づいたかもな」
クリス様が、コハクちゃんの抜け殻に嘆くアレフ様と同様か、それ以上に深く後悔し、コハクちゃんに許しを請うているのを、あの「彼女の心に残した傷を癒やす手伝いをしなくてはいけない」と言う言葉に見て、ついコハクちゃんが恨みがましい性格でない事に感謝しろと言ってしまった。
四日前コハクちゃんがしょぼんとしてギルドを訪れ、パーティから外された事を聞いたギルマスは、全職員、及びギルドに出入りするすべての人物に、コハクちゃんが、このギルド支部の階上に住まい、鑑定を手伝いながら暮らしている事を、あの四人に知られないよう徹底して箝口令を敷いた。
それはもう、ギルドに直接関係のないこの街の商店の人や、コハクちゃんへの薬草取りや子供のおもりの依頼をした依頼主から対象の子供まで、コハクちゃんに関わるほぼすべての人物にまでである。
ダンジョンに置き去りにされたと聞いたわけでもないのにだ。
こうなる事を予測していたのだろうか。顔を合わせづらいコハクちゃんに気を使ってやっただけだったのかもしれないが、効果は抜群である。
コハクちゃんに偶然出会うまで、彼らは常に彼女の亡霊を探し続け、後悔と自責の念に悩まされ続けるのだろうか。
「まあ、そう狭くないこの街でも、同じギルドを利用しているんだ、こちらが気を使って顔を合わせないように配慮してもいづれ会うこともあるだろうな。その時に、どう出るかで、対処も変えてやろう」
やはり、ある程度、どのようにしてパーティを去る事になったのかの経緯は想像がついていたのかもしれない。
5人で意気揚々と宵風の森に行き、数時間でコハクちゃんだけひとりで帰ってきたのだ。
ギルマスの慧眼には恐れ入る。
コハクちゃんを揶揄っていた中堅のギルドメンバー達も、ギルマスが箝口令を敷いた事で何かを察したのか、彼らの目からコハクちゃんを隠す事に徹底して協力してくれた。
クリス様が、それはもう見てられないくらい、コハクちゃんの姿を求めて街をさまよう姿も逐一報告しに来てくれた者もいたし、昨夜幽鬼のように覚束ない足取りで帰宅するアレフ様の様子も、詳細に語ってくれた。
恐らく、コハクちゃんの受けた仕打ちに予想がついたのだろう。
或いは、自身も過去に似た事を、する側された側で経験した者もいたのかもしれない。
彼女に再会できるまで、彼らの精神的ダメージは続くのかもしれないし、勝手に立ち直って、自己完結して何もなかったかのように元の活動を始めるのかもしれない。後者であれば、私は彼らと職員として対応することはない。
状況が許さなかった事情でもなく仲間を見捨てるような輩に、大切なギルドメンバーを紹介したり、信頼して仕事を回すことなど出来ないのだから。
クリス様が、澄んだ目をして言い放った。
「まさか。彼女の気が済んで昇天するまで付き合うさ」
勇者になれる可能性を秘めた加護持ちのアレフヴァルド様と、幼馴染みであるクリストファ様とエドガース様、魔術の知識を買われ加わったキャロライン嬢。その4人がやってしまった、人命に関わる、ミスで済まされない大問題行為。
ダンジョン内で、戦闘技能を持たない、未成年の少女をパーティから外して置き去りにした事件。
もっとも、本人達は、戦闘技能を持たないがゆえに、危険なダンジョンへ連れ回さないための措置のつもりだったみたいだけど。
擁護措置が聞いて呆れる。
入り口に近かったと言うけれど、魔物が闊歩するダンジョンで、大百足や洞窟蝙蝠すら倒せない少女を置き去りにして、自力で街まで帰れると本気で思っていたのか。
どうやら、深く考えてなかったらしい。子供でもわかることだと思うけれど。
パーティを整えて、コハクちゃんは危険地区に連れて行かないとした事で、安心したというか、気が抜けているというか。
自分の行動が、後にどんな事態を招くのか、想像する力もないのか。
初級者向けの、低ランクダンジョンで、自分達が行き来する時は苦労しなかったから、コハクちゃんも大丈夫という短絡さ。
ギルドマスターは、一度やれば二度とやらないだろうレベルの愚かしさを、恋人(恋人同士ではない)が犠牲になったというトラウマレベルの精神的打撃による憔悴で、充分今回は罰を受けたと言うが、もしコハクちゃんが、本当に死んでいたらどうしたろうか。
そもそも、その考え方だと、コハクちゃんを可愛がっていたアレフ様とクリス様しか罰を受けていないではないか。
そう思うと、ギルマスの処置は手ぬるいと思う。
コハクちゃんが死んでいたら、アレフ様が再起不能を危ぶまれるほどに憔悴し、エドガー様が(ギルマスに)吹っ飛ばされ、クリス様が資質に傷を負って神聖力が落ちる、程度では済まなかったはずだ。キャロライン嬢に至っては、寝覚めが悪い程度ではないのか。
釈然としないものを感じながらも、マスターの指示には従う。
でもまあ、そう考えると、彼女を置き去りにした後ろめたさから、仲間内でも信頼関係が崩れ、以前のようには冒険ができなくなっているかもしれないが。それはそれで罰を受けたと言えるかも?
実力が見合わねば、次は自分が見捨てれるかもしれないのだ。そんな人物を信頼して背中を預けられるだろうか?
「随分、やつれていたな?」
「彼らにとっては、コハクちゃんは死人ですからね。自責の念が重いのでしょう。これであっけらかんとしていたら、神経を疑いますよ」
実は今のやり取りを聞いていたのだろうギルマスは、クリス様が去った扉の方をいつまでも見ながら、何を考えてらっしゃるのか。
「死霊で出てきてくれたら、浄化するのではなく、相手の気が済むまで恨み言に付き合うとはまた⋯⋯ 怨霊は気が済むことなく永久に怨嗟を振りまき続けるもんだがな? 取り憑かれたいのか?」
「思わずバラしてしまいそうになっちゃいましたよ」
「いつものクリスで冷静なら気づいたかもな」
クリス様が、コハクちゃんの抜け殻に嘆くアレフ様と同様か、それ以上に深く後悔し、コハクちゃんに許しを請うているのを、あの「彼女の心に残した傷を癒やす手伝いをしなくてはいけない」と言う言葉に見て、ついコハクちゃんが恨みがましい性格でない事に感謝しろと言ってしまった。
四日前コハクちゃんがしょぼんとしてギルドを訪れ、パーティから外された事を聞いたギルマスは、全職員、及びギルドに出入りするすべての人物に、コハクちゃんが、このギルド支部の階上に住まい、鑑定を手伝いながら暮らしている事を、あの四人に知られないよう徹底して箝口令を敷いた。
それはもう、ギルドに直接関係のないこの街の商店の人や、コハクちゃんへの薬草取りや子供のおもりの依頼をした依頼主から対象の子供まで、コハクちゃんに関わるほぼすべての人物にまでである。
ダンジョンに置き去りにされたと聞いたわけでもないのにだ。
こうなる事を予測していたのだろうか。顔を合わせづらいコハクちゃんに気を使ってやっただけだったのかもしれないが、効果は抜群である。
コハクちゃんに偶然出会うまで、彼らは常に彼女の亡霊を探し続け、後悔と自責の念に悩まされ続けるのだろうか。
「まあ、そう狭くないこの街でも、同じギルドを利用しているんだ、こちらが気を使って顔を合わせないように配慮してもいづれ会うこともあるだろうな。その時に、どう出るかで、対処も変えてやろう」
やはり、ある程度、どのようにしてパーティを去る事になったのかの経緯は想像がついていたのかもしれない。
5人で意気揚々と宵風の森に行き、数時間でコハクちゃんだけひとりで帰ってきたのだ。
ギルマスの慧眼には恐れ入る。
コハクちゃんを揶揄っていた中堅のギルドメンバー達も、ギルマスが箝口令を敷いた事で何かを察したのか、彼らの目からコハクちゃんを隠す事に徹底して協力してくれた。
クリス様が、それはもう見てられないくらい、コハクちゃんの姿を求めて街をさまよう姿も逐一報告しに来てくれた者もいたし、昨夜幽鬼のように覚束ない足取りで帰宅するアレフ様の様子も、詳細に語ってくれた。
恐らく、コハクちゃんの受けた仕打ちに予想がついたのだろう。
或いは、自身も過去に似た事を、する側された側で経験した者もいたのかもしれない。
彼女に再会できるまで、彼らの精神的ダメージは続くのかもしれないし、勝手に立ち直って、自己完結して何もなかったかのように元の活動を始めるのかもしれない。後者であれば、私は彼らと職員として対応することはない。
状況が許さなかった事情でもなく仲間を見捨てるような輩に、大切なギルドメンバーを紹介したり、信頼して仕事を回すことなど出来ないのだから。
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