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尽してくれた少女を見殺しにした僕ら──クリストファ
じゅう。『昨夜は、散々、有能で信頼のおける従僕と家政婦長代行にフラレ男扱いを受けて、失意に押し潰されながら眠ったせいか、起きたら昼前だった』
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昨夜は、散々、有能で信頼のおける従僕と家政婦長代行にフラレ男扱いを受けて、失意に押し潰されながら眠ったせいか、起きたら昼前だった。
「よくおやすみでしたね」
そんな朝の挨拶すら、莫迦にしてるのではないか、イヤミなのではと、疑ってしまう。
「まあ、この、四日間、散々だったからね⋯⋯」
勇者候補としての成長を決意したアレフの為に、戦闘の技量を試したエドガーが切り捨てたコハクに、気が進まないながらもその理由を説き。
誰もコハクが一人で戻れるのかについて言及せず別れて、後から気づいて戻っても姿はなく、直前に身につけたはずのポンチョがボロ布同然で残されているのを見て、最悪の事態を連想して胃が空になるまで吐いて。
そこで戻ればまだしも、体調不良のまま三日かけてダンジョンの最奥まで踏破してヘトヘトになり。
犯罪者の気持ちでギルドに戻って、ギルドマスターに殺気にも似た威圧を受けながら、己の不明を追求されるとともに罪の重さを説かれ。
コハクが無事に帰宅している事に一縷の望みをかけて屋敷に戻れば、忠実なる従僕とメイド長にフラレ男の認定を受け。
人生最悪の四日間だった。
これまでが順風満帆だったとは言わないが、それでもここまで酷かったこともなかった。
どちらかと言えば、平穏無事に、やりたい事(神聖術の勉強)もさせて貰えて、住む場所や使用人、生活必需品など、生活面でも後押しもしてもらえている。
それが、自分達の都合で危険な場所へ連れ出した、身を呈してでも保護すべき少女を生死不明にして、その責任も取れずに自室で腐っているだけなど、あまりにも情けなさすぎる。
ギルドマスターに資格を剥奪されたり王立都市警護軍に突き出されるでもないが、沙汰もなく放置されているだけに、このあとどうなるのか不安で仕方がない。
なにより、コハクの行方がわからない事が一番堪えていた。
昼食と言ったほうがいいような遅い食事のあと、邸内に居ても、エドガーやキャロラインと顔を合わせづらく、どうしたものかと悩む。アレフに至っては部屋から出て来ない。
アレフに確認を取ったわけじゃないし、本人も自覚がない可能性もあるから訊けなかったけど──今更訊いたら地雷なんてもんじゃないけど──僕が知る限り、アレフの初恋だったのではないかと思う。
成人前に貴族子息として夜会に出るようになって、初めてのダンスは可愛らしいおとなしそうな子を選んだにも拘わらず誘うのに失敗し、その後は参加するだけですぐにテラスや庭園に逃げ出し、成人してからは、公爵家嫡男と言う身分に群がる肉食系令嬢に圧されて戸惑い、やはり敵前逃亡を続け、冒険を始めたこともあってだんだん参加しなくなり、冒険者協会で女性達の勧誘にも首を立てに振らず、僕たち幼馴染の男三人だけで行動してきたアレフ。
そのアレフが、自分から一緒にいたいと、戦闘技能がなくても自分が護るからぜひ共に冒険をして欲しいと声をかけた。
正直、僕もエドガーも驚いた。てっきり夜会の事がトラウマになって、女性に対して嫌悪症か恐怖症にでもなっていると思っていたから。
公爵家の第一子で、庶子でもない正嫡でありながら、周りの薦めにも親の命にも従わず、誰とも婚約をせずに来たから、絶対、女性とは縁を結ぶ気がないんだと思ってた。
かくいう僕自身も、他家の婿養子に入る気もないし、三男ゆえの気楽さと、神聖術を学ぶのに専念したいという言い訳を盾に、縁を結ばずに来たけれど。
嫡男であることを受け入れ、家訓に則って騎士団に入ったエドガーはさすがに免れないだろうけど、それでも、それなりの地位につくまでは己を鍛えるのに専念したいからと、婚約者をたてるのは先延ばしにしている。
コハクが菓子を焼けばエドガーの分まで食し、コハクが買い物をしたいといえば必ず荷物持ちにつき従う。
コハクがお城の舞踏会やパーティに憧れると聞けば、あんなに嫌がっていたのに、ドレスも宝飾品も用意するから一緒に行こうと言い出す。
解りやすくて、エドガーも僕も、改めて確認はしなかった。
だから、今のあのアレフには誰も触れられないのだ。
昨夜は、散々、有能で信頼のおける従僕と家政婦長代行にフラレ男扱いを受けて、失意に押し潰されながら眠ったせいか、起きたら昼前だった。
「よくおやすみでしたね」
そんな朝の挨拶すら、莫迦にしてるのではないか、イヤミなのではと、疑ってしまう。
「まあ、この、四日間、散々だったからね⋯⋯」
勇者候補としての成長を決意したアレフの為に、戦闘の技量を試したエドガーが切り捨てたコハクに、気が進まないながらもその理由を説き。
誰もコハクが一人で戻れるのかについて言及せず別れて、後から気づいて戻っても姿はなく、直前に身につけたはずのポンチョがボロ布同然で残されているのを見て、最悪の事態を連想して胃が空になるまで吐いて。
そこで戻ればまだしも、体調不良のまま三日かけてダンジョンの最奥まで踏破してヘトヘトになり。
犯罪者の気持ちでギルドに戻って、ギルドマスターに殺気にも似た威圧を受けながら、己の不明を追求されるとともに罪の重さを説かれ。
コハクが無事に帰宅している事に一縷の望みをかけて屋敷に戻れば、忠実なる従僕とメイド長にフラレ男の認定を受け。
人生最悪の四日間だった。
これまでが順風満帆だったとは言わないが、それでもここまで酷かったこともなかった。
どちらかと言えば、平穏無事に、やりたい事(神聖術の勉強)もさせて貰えて、住む場所や使用人、生活必需品など、生活面でも後押しもしてもらえている。
それが、自分達の都合で危険な場所へ連れ出した、身を呈してでも保護すべき少女を生死不明にして、その責任も取れずに自室で腐っているだけなど、あまりにも情けなさすぎる。
ギルドマスターに資格を剥奪されたり王立都市警護軍に突き出されるでもないが、沙汰もなく放置されているだけに、このあとどうなるのか不安で仕方がない。
なにより、コハクの行方がわからない事が一番堪えていた。
昼食と言ったほうがいいような遅い食事のあと、邸内に居ても、エドガーやキャロラインと顔を合わせづらく、どうしたものかと悩む。アレフに至っては部屋から出て来ない。
アレフに確認を取ったわけじゃないし、本人も自覚がない可能性もあるから訊けなかったけど──今更訊いたら地雷なんてもんじゃないけど──僕が知る限り、アレフの初恋だったのではないかと思う。
成人前に貴族子息として夜会に出るようになって、初めてのダンスは可愛らしいおとなしそうな子を選んだにも拘わらず誘うのに失敗し、その後は参加するだけですぐにテラスや庭園に逃げ出し、成人してからは、公爵家嫡男と言う身分に群がる肉食系令嬢に圧されて戸惑い、やはり敵前逃亡を続け、冒険を始めたこともあってだんだん参加しなくなり、冒険者協会で女性達の勧誘にも首を立てに振らず、僕たち幼馴染の男三人だけで行動してきたアレフ。
そのアレフが、自分から一緒にいたいと、戦闘技能がなくても自分が護るからぜひ共に冒険をして欲しいと声をかけた。
正直、僕もエドガーも驚いた。てっきり夜会の事がトラウマになって、女性に対して嫌悪症か恐怖症にでもなっていると思っていたから。
公爵家の第一子で、庶子でもない正嫡でありながら、周りの薦めにも親の命にも従わず、誰とも婚約をせずに来たから、絶対、女性とは縁を結ぶ気がないんだと思ってた。
かくいう僕自身も、他家の婿養子に入る気もないし、三男ゆえの気楽さと、神聖術を学ぶのに専念したいという言い訳を盾に、縁を結ばずに来たけれど。
嫡男であることを受け入れ、家訓に則って騎士団に入ったエドガーはさすがに免れないだろうけど、それでも、それなりの地位につくまでは己を鍛えるのに専念したいからと、婚約者をたてるのは先延ばしにしている。
コハクが菓子を焼けばエドガーの分まで食し、コハクが買い物をしたいといえば必ず荷物持ちにつき従う。
コハクがお城の舞踏会やパーティに憧れると聞けば、あんなに嫌がっていたのに、ドレスも宝飾品も用意するから一緒に行こうと言い出す。
解りやすくて、エドガーも僕も、改めて確認はしなかった。
だから、今のあのアレフには誰も触れられないのだ。
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