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尽してくれた少女を見殺しにした僕ら──クリストファ
はち。『結局処分は言い渡されず、応接室を追い出された僕達』
しおりを挟む結局処分は言い渡されず、応接室を追い出された僕達。
まるで葬列のような有り様に、ギルド内の誰も声をかけない。さぞかし異様で、声をかけづらかろう。
装備を工房に預け歪みや欠けた部分の手入れを頼み、コハクが居ないがゆえに消費したアイテムを補填する。
それらはいつもの慣れた流れ作業で、一言も無駄な口は開かず、淡々とこなし、
「ハハ⋯⋯ いつものように補填して、また、使う機会はあるのかな?」
つい自嘲気味に笑ってしまう。
それが、アレフには嫌味にも責める言葉にも感じられたのだろう。
一旦動きを止め、震える拳を必死に止めようと力を入れてより震えは強くなっていく。
片手にコハクのポンチョを握りしめたまま⋯⋯
背を向け、小さく「帰る」とだけ呟いて、僕達の活動拠点でもあるエルフエーレ侯爵家別邸に向かった。
当然、他に行くところもない僕達も続く。そもそも僕の家でもある。
「おかえりなさいませ、ぼっちゃま」
「ぼっちゃまはよしてくれって⋯⋯」
いつものやりとりもなんだかどうでも良くなってくる。
侯爵家本宅ではなく三男の僕のための別邸なので、執事代わりの従僕サイゼルと、家政婦長代理のメイド長ラスエルが邸を仕切っている。
「どうかなさいましたか?」
「いや」
「お食事になさいますか? お戻りになられたばかりですし、湯を使われますか?」
「⋯⋯そうだね。風呂をいただこうかな。夕飯は、悪いがいいよ。食欲がなくてね」
「エドガース様は?」
「ああ、そうだな、湯の後に、軽くいただこうか」
「承りました。キャロライン嬢は如何なさいますか?」
「ごめんなさい、私も、お風呂だけで今夜はいいわ。疲れてるの。早く眠りたいのよ」
「承りました。すぐに湯の用意をさせます」
キャロラインは女性なので各階の共用の風呂は使わず、自室に、貿易商で準男爵でもあられる父御の用意された、華奢な猫脚の浴槽を持ち込んでいる。
うちは、魔道の使えるメイドを置いてるので、一般的な屋敷に比べて、お湯を運んだり用意したりするのもさほど苦はないだろう。
風呂をいただいたあと、アレフの部屋を覗くと、ベッドの上で膝を抱えるように丸くなり、意識はないようだ。コハクの残したポンチョだったものを握りしめて、泣き寝入りで眠ったらしい。
とりあえず、生活魔法として知られる低位魔法洗浄をかけて、アレフの身体と服の、埃と泥汚れ、浮いた脂を抜き取る。
その上から、予備の掛布を出して来て肩までかけてやった。
迷ったけど、コハクのボロ布ポンチョはそのままにしておいた。
アレが綺麗になったり、見つけた時の惨状の痕跡がなくなってしまうと、それはそれでアレフの精神の均衡を崩すような気がしたから。
「ていうかそもそも、あれを握ること自体をやめさせた方がいいんじゃないの? いつまでもああしてるのも精神衛生上よくないと思うけど」
キャロラインの言う事もわかる。
確かにいつまでもあれを握りしめて、コハクの不在を嘆くのは良くないと思う。
それでも、アレフが納得してあれを手放さない限り、取り上げたりしたら、とんでもない事になりそうな気がして、捨てろとは言えなかった。
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