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尽してくれた少女を見殺しにした僕ら──クリストファ
ろく。『キャロラインとエドガーは、コハクの自己責任や冒険者としての資質に問題があったという認識のようだが?』ギルマスの眼光が尖っていく
しおりを挟む「キャロラインとエドガーは、コハクの自己責任や冒険者としての資質に問題があったという認識のようだが、観念した死刑囚のように自分の過失を嘆くクリスとアレフは、ただ反省している訳ではなさそうだな?」
「僕た⋯⋯私達のやった行為は、力のない、未成年の、私達に影から尽してくれた、守るべき少女を、魔物の棲むダンジョンに置き去りにして、遠因に見殺しにしたと⋯⋯いい事をしたつもりが、冒険者としても、弱き者を守り導く立場の貴族としても不明の、結果的には、ただの殺じ⋯⋯っ」
それ以上は続けられなかった。僕が、アレフと僕がコハクを死なせたのだと、再確認して、胃に何もないにもかかわらず吐きそうになる。
「未必の故意による人殺しだでもと言うつもりか? アークライト・クリストファ・ゼファーソン=エレフエーレ侯爵子息助祭殿」
ギルドマスターの言葉が、ナイフのように僕の心を抉っていく。不用意な行動、過失である事すら許されないのか。
「コハクの戦闘能力を、自分達に同行するレベルにないと判断したにも拘わらず、その場に置き去りにしたんだろう? その後、魔物に襲われたらどうなるかは、子供でも判るんじゃないのか?」
「仰る通りです。⋯⋯ですが、その時は、ここで街に戻れば彼女は傷つく事もなくなる、【英雄】の加護やパーティ効果が整う事、それがいい事だと、目先のことしか考えられませんでした」
「とんだ【英雄】様もいたもんだな? 守るべき幼い少女と言いながら、自分の力量が足りないからと手の内から放り出すんだからな」
「自分達なら、宵風の森程度、第一下層、入り口までの森の中、森までの街道、どこもひとりでも往復できるレベルの危険度で、実際ひとりで出向いた事もありましたし、問題が起こるなどまったくの慮外でありました」
「ほう? アースレスト・エドガース・エクストリアム・サレ=ドヴォルザング男爵家嫡男準騎士は大した剛の者と見えるな?」
嘲笑うかのような視線をエドガーに向け、丁寧にフルネームで呼ぶギルドマスターには、侮蔑の意も感じる。
「お前達が、宵風の森のダンジョンに向かったのは、3日前ではなかったか? 入ってすぐの第一下層で、最初の戦闘で行われた事なんだろう? 今までコハクを探していたのか?」
「いえ。別れた後、第三層の安全部屋で休息中に、アレフが蒼白な顔で、コハクがひとりで帰れたのかと心配しだし、私達を待たずに引き返しました。追いかけるように私達も別れた場所まで戻りましたが、コハクは見つからず⋯⋯」
「今日まで探し続けたのか。ギルドに捜索願を出す事は考えなかったのか? ダンジョン内や宵風の森、街道の魔物が出る周辺地区や草原地。お前達四人の手には余るだろう?」
「⋯⋯探しておりません」
「はあ? キャロラインは今、別れた場所まで探しに戻ったと言わなかったか? エドガーの言う探していないと、矛盾するんだが?」
ここでアレフは、震える手で、足元に置いていた空間拡張収納袋から、ボロ切れとなったコハクのポンチョを取り出し、握りしめる。
「コハクは、この装備を残し⋯⋯ っ行方不明で⋯⋯ぅグ」
アレフが手放さないので、ギルドマスターはポンチョだった物の端にふれて検分する。
「強酸による酸蝕と着火したのか焦げてる部分もあるな?」
「数え切れないほどの多様なスライムの巣窟となった通路で発見しました」
「第一下層で、数え切れないほどのスライム溜まり? そんな報告は受けたことがないが」
「大抵は、第一下層では丁寧に探索せず素通りするか、そんなに集まらない内に斃して先に進むからでしょう。その通路はすぐに行き止まりになっていましたし」
「入って最初の分岐点だな? 行きは注意してなければ一本道に見えるが、帰りは三叉路に見えて迷うやつもいる⋯⋯」
ギルドマスターは、あのダンジョンの構造をすべて把握しているのだろうか?
「そんな顔するな。クリス、透けて見えるぞ。たまにだがな、運動不足解消を兼ねて、暇つぶしに潜るんだよ。近場だからな」
「そ、そうでしたか⋯⋯」
運動不足解消の暇つぶしにダンジョン踏破。さすが勇者候補の誉れを浴した最上級冒険者。僕達とはレベルが違いすぎる。
「強酸、毒霧、麻痺、火焔、小型、巨体、他にもいたかもしれません。とにかく種類と出現量が半端なく、スライムプールと言っても過言ではないかと⋯⋯」
「わかった。物理攻撃しか出来ないメンバー構成や魔力の少ない初心者はそちらへ行かないよう通達しておく」
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