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尽してくれた少女を見殺しにした僕ら──クリストファ

よん。『話の先を促すギルドマスターの眼がどんどん鋭くなっていくので、エドガーは俯いていき、キャロラインは小さく震え出した』

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 話の先を促すギルドマスターの眼がどんどん鋭くなっていくので、エドガーは俯いていき、キャロラインは小さく震え出した。
 アレフは震える声で語りながらも、ポタポタと涙を零す。
 恐怖からではない。自責の念からだ。
 昔からそうだった。喧嘩に負けても、公爵に叱られても、泣いたりしなかったが、自分のやった事の結果の悔しさには涙を零すことが多かった。

「私は、怖かったのです。己の力不足でコハクを守りきれなくなる事が」
「そいつぁわかるが、それで逃げてちゃだめだろお?」
「はい。私は、己の力不足という現実から、敵前逃亡してしまったのです」

 宵風の森の若いダンジョンに潜り、第一下層で最初に出会った魔物、洞窟コウモリ ジャイアントバット 大ムカデセンチピートを相手に、どれでもいいから戦ってみろと、コハクを戦闘に参加させたこと。
 コハクは言われたとおりに、以前買ってやった鉄の鉾アイアンメイスでセンチピートを殴りつけたが、甲殻を殴って手をしびれさせるだけで、すぐに武器を弾き飛ばされ、何も出来なかったこと。
 彼女の戦闘能力の成長を待っていては、自分達の成長が望めないと判断し、戦闘に関しては彼女の参加は諦めたこと。

 いよいよ問題のパーティ解除が近づくと、アレフの震えは目に見えて大きくなる。

「コハクを守り切る自信がない私は、彼女に、この先一緒には冒険はできないと告げました」

 そこでしばらく嗚咽を漏らし、肩に拳に力を入れて耐えようとするアレフ。
 泣くな、泣くのは違う、泣きたいのはコハクの方だ。自分に涙する権利はない。アレフはそう呟いて、自分を奮い立たせる。

「で、なんで泣いてるんだ? コハクと、そんなに別れるのがツラかったか? 別に、無理にパーティを組まなくても、冒険から戻ったらいつでも会えばいいじゃねぇか。なんなら、嫁さんにすりゃ、戻れば必ず家で待っててくれるだろぉ?」

 冗談めかして言うギルドマスター。まだ、知らないのだ。我々が、戦闘能力のない彼女を、灯りもないダンジョンに置き去りにした事を。
 彼女はたくさんの魔道具を持っていて、灯りをつけるアイテムもあったから、別に暗い云々はいいだろう。
 彼女自身も、力量の合わないメンバーでパーティを組むリスクを理解してくれて、離脱する事に合意してくれた。
 ただ、その別れるタイミングと場所を、我々は間違えたのだ。

「彼女は、僕達を恨むことなく、パーティからの離脱を了承してくれました」
「まあ、あの子は、そういう扱いを恨むくらいなら、前向きに明日からの事を考えるタイプだわなぁ」

 彼女のそんな性格に、我々は甘えていたのだと、いつも何を頼んでも文句も言わず僕達に尽してくれた、成人も迎えていない女少女にした仕打ちを再確認して、いっそ僕を殺してくれと言いたくなる。
 アレフも似たような気持ちなのだろう。

「そんな彼女を、愚かな僕達は、ダンジョンの中に置き去りにしてしまいました」
「は?」

 ギルドマスターの気の抜けた声が、狭くはないが息苦しいこの応接室に響いた。






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