上 下
107 / 276
廃鉱山の中は、アンデッドだらけ?

ろく。『真ん中の床が抜け落ち、壁際に縋りつくような僅かな床に取り残される』──ふた手どころか、三つに別れてしまいました

しおりを挟む
     🔍

 真ん中の床がごっそり抜け落ち、壁際に縋りつくようにとり残された、真ん中の柔らかいところだけ食べて残されたパンの耳のような僅かな範囲の床の上で、来た道にも先の道にも行けず、僅か十数cm先は、底の見えない暗闇の大穴。
 ギレウォッタさんとラジエさんは殆ど八方塞がりの状態だった。

 坑道へ入っていて、崩れた床に巻き込まれなかった私達も、床が抜けてしまった以上、出口には戻れなくなってしまった。

 どうしたらいいのかな。

 闇の底に落ちていったアネッタさんとターレンさんも、防護領域セイフティエリアの範囲から落ちて、なんの加護もない状態。
 ランプや魔法の光を飲み込んで光らせない真の暗闇で、人間は長く正気を保てない。
 しかも、辺りに漂う瘴気は健康な人の精神や生命を蝕み、この空間を満たしている霊気は冥の気ヘルノで、長く浸っていると心が病んでいくという。

「すぐに助けに行かねば、あのふたりは数日も生きられない。しかも、この下に、不死者アンデッドや魔獣がいないとも限らない。何も見えず、魔法も正確には働かない場所で、出口があるのかもわからないのに、残った君達を危険に晒していいものか⋯⋯」
「でも、行くんでしょう?」
「問題は、どうやって、だ」
「俺達は飛べないし、浮けない。体重や重力に干渉する力もない」

「お前たち三人は、その坑道の先に、うまく下層への道があるかもしれないだろ?」
「お前たちは?」
「俺らは⋯⋯ 出口向きの坑道には遠すぎるし、下り道へもやや遠い」
「なら、より可能性のある方へ行ってみるしかないんじゃない?」

 ギレウォッタさんは、きっと目を下り道の方へと向け、口を引き結んで覚悟を決めようとしていた。

「なら、レディファーストだな」
「あら、先に飛んで、受け止めてくれないの?」
「俺が飛んだ振動で、ここが崩れるかもしれないだろ? なら、身軽な動きが得意で、体重が軽い方が先に行ってくれ」
「女性に体重の話をしたら、嫌われるわよ」

 こちらが本来の口調なのか、軽口だからより女性らしさをわざと出してラジエさんの緊張をほぐそうとしているのか、ギレウォッタさんが女性の言葉を使っている。

「ラジエ。済まないな。覚悟を決めてくれないか。ソイツが女の真似事をする時は、深追いしないでくれ。身の安全を保証しかねる」
「あらひどい。私、元々女よ?」

 なんだか、火山の中に入って地熱が暖かかったはずなのに、背筋が寒いんですけど。冥気ヘルノ防護領域セイフティエリアの中に浸透してないですよね?



 結論から行くと、ふたりのどちらが先に飛ぶかは、議論の意味はなかった。
 私達が、この先へ進むか、なんとかしてふたりと同じ道へ移るか、大穴の底へと飛ぶかの相談すらも無意味だった。









しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

心が折れそうになったときのプレイリスト

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:43

現代ダンジョンで成り上がり!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:692

猿と宇宙人

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

絶対に婚約解消していただきます、もう我慢の限界なので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:1,361

OLが男子高校生を拾った話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

僕のおじいさん

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...