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冥界に一番近い山──楽園と地獄の釜
じゅうろく。『穴の近く、木箱に腰を掛け生命を宿した大輪の花を立て掛けると、辺りが闇に包まれる』──濃淡もない真の闇の中で自分の位置すら不明に
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⛏
真ん中の穴の近く、幾つか積まれた鉄で補強された木箱に腰掛け、軽く何か口にしようと『生命を宿した大輪の花』を木箱に立て掛けた。
ふっ と辺りが闇に包まれる。
「コハク!? 何かあったか?」
みんな、慌てて、周囲を伺う気配がする。
「ごめんなさい、生命の花を、ちょっと手を空けたかったので木箱に立て掛けたら、光が消えてしまいました。危ないので皆さんは動かないでくださいね? ちょっと待ってください、確かこの辺⋯⋯」
手探りで探して見るが、濃淡もなく真の闇の中で、自分がどちらを向いているか判らない。
〈コハ、花ここ。手、伸ばして〉
「チットちゃん、ありがと」
プルプルのにゃんこ型ゼリーのようなチットちゃんでも、ちゃんと物は掴めるようで、私の手に触れる位置まで持ってきてくれる。
しっかり握ると、ふわっと灯りがともり、周りの状況が見えるようになる。
来た坑道のそばの壁際の木箱に、アネッタさんとギレウォッタさん。
少しあけて、逆さに伏せた手押し車に腰を下ろしたラジエさんと、隣の木箱にターレンさん。
壊れかけの滑車からつるべの様子を伺っていたフィルタさんと、さっきまで私の座っていた木箱の裏側に立って待機しているキールさん。
ちゃんと、みんな居るね。
安心して、息を吐いた時⋯⋯
「コハク、動かないで」
つるべを手放したフィルタさんとキールさんが、難しい顔をして、こちらを見ている。
まさか、後ろに何かいるの?
そんな気配もないけど、と、振り返った時
「え?」
左足の裏に、地面を感じなくなった。
グラリと身体が傾ぎ、右眼の端に、真っ暗な穴が見える。
バランスを崩してしまい、右足も地面を感じなくなって、浮遊感に襲われる。
私は、鉱山を貫く大穴に、倒れ落ちていくらしい⋯⋯
「コハク!!」
咄嗟に、穴を飛び越して、落下中の私を抱き寄せ、そのままの勢いで反対側へ着地しようとするフィルタさん。
いつもクールで寡黙なお兄さんが焦っている表情も、どこか端正で、アレフやクリスのように高貴な血が混じってんのかな、お母さんがよほど美人さんなのかな、なんて、この場ではどうでもいいかもしれない事をぼんやりと考える。
咄嗟のことだからか、結構大きな穴だからか、僅かにフィルタさんの足は縁に着地したものの、抱えた私ごと、背後の穴へと傾いでいく。
「フィルタ! コハク殿!!」
地面にロングソードを突き立て、左手でグリップをしっかりと握り、右手を伸ばしたキールさんが、フィルタさんの伸ばした左手を摑む。
右腕には、私が抱えられている。
何度も落ちかけ傾き、横から突進するように抱えられ、それらの振動で、首から下げた瓶の中から、海馬ちゃんがこぼれ飛び出す。
「海馬ちゃん!!」
真ん中の穴の近く、幾つか積まれた鉄で補強された木箱に腰掛け、軽く何か口にしようと『生命を宿した大輪の花』を木箱に立て掛けた。
ふっ と辺りが闇に包まれる。
「コハク!? 何かあったか?」
みんな、慌てて、周囲を伺う気配がする。
「ごめんなさい、生命の花を、ちょっと手を空けたかったので木箱に立て掛けたら、光が消えてしまいました。危ないので皆さんは動かないでくださいね? ちょっと待ってください、確かこの辺⋯⋯」
手探りで探して見るが、濃淡もなく真の闇の中で、自分がどちらを向いているか判らない。
〈コハ、花ここ。手、伸ばして〉
「チットちゃん、ありがと」
プルプルのにゃんこ型ゼリーのようなチットちゃんでも、ちゃんと物は掴めるようで、私の手に触れる位置まで持ってきてくれる。
しっかり握ると、ふわっと灯りがともり、周りの状況が見えるようになる。
来た坑道のそばの壁際の木箱に、アネッタさんとギレウォッタさん。
少しあけて、逆さに伏せた手押し車に腰を下ろしたラジエさんと、隣の木箱にターレンさん。
壊れかけの滑車からつるべの様子を伺っていたフィルタさんと、さっきまで私の座っていた木箱の裏側に立って待機しているキールさん。
ちゃんと、みんな居るね。
安心して、息を吐いた時⋯⋯
「コハク、動かないで」
つるべを手放したフィルタさんとキールさんが、難しい顔をして、こちらを見ている。
まさか、後ろに何かいるの?
そんな気配もないけど、と、振り返った時
「え?」
左足の裏に、地面を感じなくなった。
グラリと身体が傾ぎ、右眼の端に、真っ暗な穴が見える。
バランスを崩してしまい、右足も地面を感じなくなって、浮遊感に襲われる。
私は、鉱山を貫く大穴に、倒れ落ちていくらしい⋯⋯
「コハク!!」
咄嗟に、穴を飛び越して、落下中の私を抱き寄せ、そのままの勢いで反対側へ着地しようとするフィルタさん。
いつもクールで寡黙なお兄さんが焦っている表情も、どこか端正で、アレフやクリスのように高貴な血が混じってんのかな、お母さんがよほど美人さんなのかな、なんて、この場ではどうでもいいかもしれない事をぼんやりと考える。
咄嗟のことだからか、結構大きな穴だからか、僅かにフィルタさんの足は縁に着地したものの、抱えた私ごと、背後の穴へと傾いでいく。
「フィルタ! コハク殿!!」
地面にロングソードを突き立て、左手でグリップをしっかりと握り、右手を伸ばしたキールさんが、フィルタさんの伸ばした左手を摑む。
右腕には、私が抱えられている。
何度も落ちかけ傾き、横から突進するように抱えられ、それらの振動で、首から下げた瓶の中から、海馬ちゃんがこぼれ飛び出す。
「海馬ちゃん!!」
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