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暗いダンジョンの中で捨てられました──捨てる勇者あれば拾う妖精あり?
にじゅうく。『あの時は、オウジサマがプロポーズして来た!と思ったんですよ』──私の思い出話に、ギルマスが香草茶を吹き出した
しおりを挟む「あの時は、オウジサマがプロポーズしてきた! と思ったんですよ。今なら笑い話ですけど、当時は、都会って凄い、こんな事があるんだと思いました」
ブフーッ
ギルマスが、飲みかけの香草茶を吹き出す。
「ちょ、マスターなんて事するんですか! 誰が掃除すると思うんです」
目を釣り上げて、アミナさんがギルマスを責める。
「あ、いや、すまん。まさか、そう来るとは思わなくてな…… ハハハ プロポーズ?」
「もちろん、私の聞き間違いですけど。アレフは、ギフトのおかげで、たまに鑑定技能が隠蔽魔法を上回るみたいで、私の運気999が見えちゃったらしいです」
「ほう? あの頃のアレフの鑑定能力はLv2、ギルドカードの隠蔽は無効化出来ないはずだがな?」
──さすがは、【英雄】の変数補正か。
ギルマスは、納得・感心して頷く。
「それで、私の能力値を見てしまったことを謝ってくれて、その上で、『私と共に生きないか?』って言われて」
「初対面で、いきなり一生をかけたプロポーズかよ」
「だから、私の聞き間違いですってば。共に行かないかって、冒険に誘ってくれてたんですよ!」
「ああ、行くね。うん。まあ、そんなとこだろうとは思うが…… ブフッ 共に生きようって……14のガキが、11の正真正銘のガキに、ぷふっ」
なんか、ツボに嵌まったのか、笑いが抑えられないらしいギルドマスター。
「もーぉ、そうやって馬鹿にしてぇ。私だって、よく考えたらありえないってわかりますよぅ。ただあの時は、衝撃的で」
「うんうん。人生初のプロポーズにときめいちゃったのね」
「金髪碧眼のきらきらオウジサマだったから、現実味がなさ過ぎて違和感をスルーしちゃったというか」
──❂チットが、技能を取得しました
突然、脳内ベルが鳴る。なんだろうと思ってみてると、テーブルの上のギルマスの吹き出した香草茶を、チットちゃんがうごうごと吸収していく。
「あら、この子、お茶を嗜むの?」
布巾を持ってきたアミナさんが、チットちゃんを軽くつつく。
【家事】Lv1(召喚主の身のまわりを整える)
吸収した香草茶は、お茶の成分と水分に分解され、水蒸気を噴出した後、お茶成分がちりちり光を放ちながら、消えていく。
「なんだか、家事スキルとして、飛び散ったお茶を処分してるみたい」
「偉いわねぇ」
辺りに飛び散ったお茶を、順番に片付けていくチットちゃん。
「それで、お返事はどうしたんだい?」
「その前に、まわりに冷やかされて、クリスに回収されました」
「ん? 冷やかされたの?」
「まわりにも、プロポーズに聴こえたのかしら?」
「? はい。なんか、掲示板の前で、他の見たい人の邪魔になってるのに突っ立ってるから、イチャイチャするなって……」
「う~ん、その場にいたかったなぁ」
「そんなに面白いですか?」
「そりゃあもう。ここ数年で聞いた中ではピカイチ面白かったぞ」
涙目で笑いをこらえるギルマス。意外に、笑いの沸点が低いらしい。
「それで! 離婚しましたので、しばらくソロでいきますって言いに来たんですよ、本当は!!」
「グフッ 離婚~!! ん? ソロ? 誰かとパーティ組まないのか?」
当てつけに、パーティメンバー登録解消を離婚と置き換えて言ったら、またウケた。涙目、ではなく、本当に涙がこぼれてる。
「まあ、すぐには別の人をって気にはなれないし」
「傷心のバツイチ娘」
「この子達もいますから、難易度の低い依頼ならなんとかなると思いますし……」
任せろと言いたげにチットちゃんが縦に伸び縮みし、楽しげにふるふるとチルちゃんが横に伸びて右へ、横に伸びて左へと、踊るように存在をアピールした。
「この子達を妖精だと信じて受け入れてくれる人じゃないと、一緒に行動できないと思うので、縁があって、共に冒険したいなってなるまで、ゆっくりひとりでやっていきます」
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