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暗いダンジョンの中で捨てられました──捨てる勇者あれば拾う妖精あり?
じゅうはち。『アレフ達に甘えて役に立ってこなかったからバチが当たったの?』──後悔しても、事態は良くなりません。
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ずっと、アレフ達に甘えて、時々、癒しの杖を振ったり、ランタン代わりの明かりの灯る杖をかざしたり、鑑定単眼鏡で宝箱の罠や中身を見抜いたりするくらいで、戦闘面ではまったく役に立って来なかったから? バチが当たったの?
──なんでもいいから、助けてぇ! スライムの! 強いの!!
泣きながら『妖精王の杖』を振り回す。
立体レースの蝶が翅をはためかせ青白い鱗分をまきながら、長杖の先の宝珠が、内側から真珠色の光を放ち、次第に眩しくて目が開けられないほどになる。
〈にゃー〉
〈ゥにゃ──〉
こんな湿ったダンジョン内で、猫?
「に」に濁点「゛」をつけたくなるような割れた声で、猫の緊張した鳴き声がする。
ぼよよん ぽよん
私の足元で、黄色いカラスウリくらいの大きさのスライムと、水色の小玉スイカくらいの大きさのスライムが、可愛い擬音を立てて、跳ねまわっている。
新手のスライム!? こんな近くに! もうだめ⋯⋯
〈にゃにゃー!!〉
〈にゃうにゃう〉
瓜サイズのスライム達が猫のような鳴き声をあげている。
スライムって鳴くの?
不思議なことに、その鳴き声は、直接頭に響くものだった。いつかクリスが言ってた、大昔の失われた生体魔法の『念話と遠見』のよう。
〈コハイジメる、ダメにゃ──!!〉
〈にゃにゅにゃ──!!〉
小さい黄色い子が縦長に伸びて叫び、水色の子が私の前に広がって、スタンダードスライムを威嚇した。
❈❈❈❈❈❈❈
「コハク。よぅくおきき。お前の名前は、宝石からつけたんだよ」
「ほーせき? キラキラ石? にいちゃも?」
「そうだよ。私の生まれ故郷では、漢字という文字が使われててね。文字ひとつひとつに意味があるんだ。
『琥珀』は、太陽の雫の事だよ。松柏樹の樹脂が、長い長い時間をかけて化石化して、綺麗な石のようになった宝石なんだよ。
『真珠』は、海の底の貝の中に入ったかけらを核に、何層にも貝殻の外套膜を重ねて、時間をかけて生み出されるんだ」
「どちらも、ほーせきなのに、石じゃないんだね」
「ホッホッホ…… コハクは賢いねぇ」
よくわからなかったけど、褒められたのはわかる。嬉しくなって、お祖母さんのお腹にしがみつく。
「樹にも海にも、妖精はたくさんいて、琥珀や真珠は尊ばれるんだよ」
「おばあちゃんは、会ったことあるの?」
「もちろんさ。お祖父さんと結婚する前は、お前の誕生日にあげた、何でも入るイチゴの小物入れと、何でも見通す魔法の眼鏡と癒しの夜光石の杖を持って、色んなところに行ったもんだよ」
残念だけどね、お祖父さんに出会ってしまってね。もう、旅はできなくなった。
お祖父さんと一緒になって、家庭を持って、お前のお母さん光を産んで立派に育てて……
「もう一度、旅に出たかったねぇ」
「もう行かないの?」
「可愛いお前達を置いて、どこにも行かないよ」
そう言っていたお祖母さんは、その2年後、お祭りで『妖精王の杖』をゲットしたすぐ後に、旅に出た。
長い長い旅。終わりはないかもしれない旅。
私は見た。
──たくさんの妖精が迎えに来て、皺がよって小さくなった身体を置いて、若い娘さんの魂(お母さんに似た面差しで、けっこう美人さんだった)となって、一緒に旅に出たのだ。
とてもとても、それはそれは本当に、幸せいっぱいで嬉しそうだった。
ずっと、アレフ達に甘えて、時々、癒しの杖を振ったり、ランタン代わりの明かりの灯る杖をかざしたり、鑑定単眼鏡で宝箱の罠や中身を見抜いたりするくらいで、戦闘面ではまったく役に立って来なかったから? バチが当たったの?
──なんでもいいから、助けてぇ! スライムの! 強いの!!
泣きながら『妖精王の杖』を振り回す。
立体レースの蝶が翅をはためかせ青白い鱗分をまきながら、長杖の先の宝珠が、内側から真珠色の光を放ち、次第に眩しくて目が開けられないほどになる。
〈にゃー〉
〈ゥにゃ──〉
こんな湿ったダンジョン内で、猫?
「に」に濁点「゛」をつけたくなるような割れた声で、猫の緊張した鳴き声がする。
ぼよよん ぽよん
私の足元で、黄色いカラスウリくらいの大きさのスライムと、水色の小玉スイカくらいの大きさのスライムが、可愛い擬音を立てて、跳ねまわっている。
新手のスライム!? こんな近くに! もうだめ⋯⋯
〈にゃにゃー!!〉
〈にゃうにゃう〉
瓜サイズのスライム達が猫のような鳴き声をあげている。
スライムって鳴くの?
不思議なことに、その鳴き声は、直接頭に響くものだった。いつかクリスが言ってた、大昔の失われた生体魔法の『念話と遠見』のよう。
〈コハイジメる、ダメにゃ──!!〉
〈にゃにゅにゃ──!!〉
小さい黄色い子が縦長に伸びて叫び、水色の子が私の前に広がって、スタンダードスライムを威嚇した。
❈❈❈❈❈❈❈
「コハク。よぅくおきき。お前の名前は、宝石からつけたんだよ」
「ほーせき? キラキラ石? にいちゃも?」
「そうだよ。私の生まれ故郷では、漢字という文字が使われててね。文字ひとつひとつに意味があるんだ。
『琥珀』は、太陽の雫の事だよ。松柏樹の樹脂が、長い長い時間をかけて化石化して、綺麗な石のようになった宝石なんだよ。
『真珠』は、海の底の貝の中に入ったかけらを核に、何層にも貝殻の外套膜を重ねて、時間をかけて生み出されるんだ」
「どちらも、ほーせきなのに、石じゃないんだね」
「ホッホッホ…… コハクは賢いねぇ」
よくわからなかったけど、褒められたのはわかる。嬉しくなって、お祖母さんのお腹にしがみつく。
「樹にも海にも、妖精はたくさんいて、琥珀や真珠は尊ばれるんだよ」
「おばあちゃんは、会ったことあるの?」
「もちろんさ。お祖父さんと結婚する前は、お前の誕生日にあげた、何でも入るイチゴの小物入れと、何でも見通す魔法の眼鏡と癒しの夜光石の杖を持って、色んなところに行ったもんだよ」
残念だけどね、お祖父さんに出会ってしまってね。もう、旅はできなくなった。
お祖父さんと一緒になって、家庭を持って、お前のお母さん光を産んで立派に育てて……
「もう一度、旅に出たかったねぇ」
「もう行かないの?」
「可愛いお前達を置いて、どこにも行かないよ」
そう言っていたお祖母さんは、その2年後、お祭りで『妖精王の杖』をゲットしたすぐ後に、旅に出た。
長い長い旅。終わりはないかもしれない旅。
私は見た。
──たくさんの妖精が迎えに来て、皺がよって小さくなった身体を置いて、若い娘さんの魂(お母さんに似た面差しで、けっこう美人さんだった)となって、一緒に旅に出たのだ。
とてもとても、それはそれは本当に、幸せいっぱいで嬉しそうだった。
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