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勇者候補と言われるアレフだけど・・・?
いち。「コハクは、ちゃんと帰れただろうか」──アレフのひとりごとに、メンバー全員が疑問符を打ち上げた
しおりを挟む「コハクは、ちゃんと帰れただろうか……」
「「「は?」」」
アレフの不安げなひとりごとに、パーティメンバー全員が、疑問符を打ち上げる。
「アレフ? 今、なんて?」
3人を代表して、キャロラインが訊き返す。
「うん。あそこからは、地上まで近いとは言え、ダンジョンの中では、何があるか判らないだろう?
コハクは、たったひとりで、迷わずちゃんと帰れたのかなって……」
ダンジョンの中の、数少ない安全地帯となっている、機能の死んだ小部屋で食事を摂っている間に、ふとアレフは不安になったらしい。
先行の誰かが持ち込んだのだろう切り株を椅子代わりに腰かけ、両膝に肘をついて、アレフは、不安な気持ちを、組んだ両手の指先を忙しなく動かすことで表していた。
「今更、ここでそんな事を言うの?」
キャロラインは、やや震える声で、確かめるように訊く。
声には出さないが、クリスや、エドガーでさえ、同じ気持ちだった。
「あの時は、早く帰してあげなくてはと気が急いていたけれど、やはり、せめて出口まで、出来れば街まで、送ってやった方が良かったかなって……」
キャロラインの火魔法で炙った腸詰めを渋い表情でかぶりつき、丁寧に咀嚼してから答えるアレフ。
「でも、アレフのギフト【英雄】の加護は、今は、4人が精一杯で、連れていても効果はないから、加護ナシでも連れて行けるか、そのための試しに、彼女は合格しなかったではありませんか」
「つまり、メンバーとしての資格のない者と判断されたのだ。どのみち、送ろうが送るまいが、アレフ様のギフトの恩恵はないのですぞ? 袂を分かった今、他人を気にかけても仕方あるまい」
クリスが言うギフト【英雄】とは、アレフが生まれ持った神からの贈り物で、あらゆる勝負に有利に働く、運やステータスなどの補正の事である。
彼が、いずれは勇者になると言われている所以がそこにある。
運をサイコロに例えて──
魔物から身を隠した時、見つかるか見つからないか。
出た目が、1~3だと見つからない、4~6だと見つかるとする。
そのままなら確率は二分の一だが、加護系のギフト持ちだと、1~4で見つからなくなったり、レベルが上がれば、1~5まで見つからなくなるなどの補正が利くのだ。
或いは、いつもなら回避できないような不運も、最低限の被害で済んだり、逆に最終的にはいいように作用したり。
ギフトを与えられた人物に、自由に発動させる事はできないが、加護の範囲内のメンバーに、なんとなくいいことがあるようになる。
ただ、まだレベルが高くないアレフには、その効果範囲が本人を含め3人までが限度で、4人目は僅かに効果あるかも?程度にしかない。
その4人目には、エドガーが立候補していた。
キャロラインは女性であり、彼にとって、婦女子を犠牲に加護に護られるなど笑止千万! らしい。
クリスは侯爵家三男で、聖職者見習いとしても、パーティメンバーの頭脳担当としても優秀で、回復から攻撃や防御、戦闘補助としての重要な役割ゆえに、加護は必要であるとの事だった。
アレフのギフトのレベルが今よりも低く、2人しか確実でなかった頃は、まだキャロラインは仲間でなかった。
もっとレベルが上がれば、アレフが祈る事で、瘴気漂う魔窟に分け入る事も、女神の守護結界で可能になる。
ただ、今は、そこまでは成長していなかった。
そこで、パーティメンバーの中であまり重要視されていなかった、荷物持ち兼雑用係のコハクを今後どうするか、と言う議題があがったのである。
当の本人が不参加で。
加護がなくても、共にいることで命を落とす危険性はないか(育ちのいいアレフには暈かして伝え、はっきりとは言えなかったが、却ってメンバーの足を引っ張りはしないか)が、アレフには心配(3人には不安)だったのだ。
戦闘になった時に、加護がなくてもどうにかなるかどうかを試し、彼女には、この先の旅は無理だという結論に達したのだ。
そこで例の「お前には才能がない」発言である。
「エドガー、君がそんなに冷たい人間だとは思わなかったよ」
「はあ?」
眉を顰め、不快感と僅かな怒りをこめて、アレフがエドガーを批難する。
「袂を分かった他人、だなんて……数時間前までは仲間だったじゃないか。これからも友人だろう?」
──僕は……私は、そのつもりだよ
アレフは、エドガーの目を正面から睨むように見据え、立ち上がった。
「どっちにしても、もう遅いんじゃないかな」
「なにが?」
自らの武器、鋼の鎚鉾の柄で焚き火の薪を組み直して、火種が消えないようにしながら、アレフに語りかける。
「あの子は、戦闘能力は限りなくゼロだ」
「……そうだね」
「たとえ道に迷わず真っ直ぐ帰れたとして、地上まで、何にも遭わずに帰れただろうか?」
「え?」
「何にも遭わずにダンジョンを出られたとして、街までの森や草原、街道で、やはり何にも遭わずに辿り着けたかな?」
焚き火に照らされて赤く映える顔でもハッキリと判るほど、青ざめているクリス。
「今更だけど、僕たちは、あんなところに戦闘能力のないあの子を置き去りにして、殺したも同義じゃないのかな……」
アレフのギフトの効果範囲の事と、コハクがパーティメンバーとしての能力が足りない事ばかりに気がいって、メンバーから外し、パーティ効果を整えた事に満足してしまった。
その結果、別れたコハクのその後の事に、全く意識が向かなかったのである。
青ざめたクリスよりも更に、真っ白になるほど血の気を引いたアレフは、今にも倒れそうなほどに気が遠くなった──
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