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暗いダンジョンの中で捨てられました──捨てる勇者あれば拾う妖精あり?
いち。『お前には、才能はない』──能なしは棄てられる── て、え? ダンジョンで?
しおりを挟む「お前には、才能はない」
「悪いが、一緒には行けない」
「え?」
「この先は──いや、俺達の旅は、危険なんだ」
「君には、戦闘に有利な技能も、身体的な才能も、知略的バトルセンスもない。
……一緒に行っても命を落とすだけだよ」
重そうな鎧に身を包み、柄の長い戦斧(槍としても使える)を錫杖のように地に立て、身体を覆うような盾に肘をつき、ため息と共に才能がないと吐き出し言い切ったのは、盾職のエドカー。
今は重戦士だけど、いずれ騎士、それも聖騎士を目指すと言っていた。
一緒に行けないと告げたのは、鱗のように金属板が重なっている鱗状金属板鎧が似合う前衛攻撃職のアレフ。
今は、魔法で遊撃しつつ剣で接近戦を担う器用な魔法戦士だけど、いずれは【勇者】になると言われている。
「最初の頃は、君の杖でもなんとかなったかも知れないけどね。まあ今は、私が居るから心配ないよ」
聖人のフィギュアが刻印されている十字架を捧げ持ち、緻密な金糸の縁取りが綺麗な真っ白のローブに身を包み、一緒に行っても命を落とすだけ、今後の仲間の心配はないと宣う、聖職者見習いで、回復兼補助職のクリス。
ちなみに、彼ら3人は、それぞれお偉いお貴族様のご子息だ。金髪碧眼で、ノーブル感漂う衣装と各装備品に身を固めて、それがまたとても似合う。他の冒険者の女の子達にも人気が高い。
「アタシが紅一点になっちゃうのは、ちょっと寂しいけどね~」
燃えるような紅色がかった金髪を、腰まで伸ばし(魔力が宿ると言われている)、波打っている。
大きく開いたデコルテは、はち切れんばかりのお乳が押し込められているのがありありと見て取れ、ボディラインに添うような滑らかな黒いローブにまろいお尻がぷりぷりで、更には歩きやすいように、左側面は太腿のかなり上まで切れ込んだスリットから、白いあんよが覗いている。
この、お色気たっぷりな女性は、貴族ではないもののお金持ちの地方領主の娘で、後衛殲滅職の魔法使い。
いわく、お金がないと、魔法を習ったり極めたりする事は出来ないそうで、10代で多くの魔法を修めたのが自慢らしい。
どなたもおハイソ(上流階級)なパーティである。
──ただし、私を除く
私は、両親も一般庶民で、普通のどこにでもいる田舎娘だ。あえて言うなら、ちょっと運がいいのが自慢。
運がよすぎて、なぜか、いずれは勇者になると言われている人のパーティに加わっていた。
──それも、ついさっきまでだけどね
「アレフ様とクリス殿がマジックザックを入手されたから、お前の小さなマジックポーチでの荷物持ちも必要ない」
マジックザックとは、見た目はただの背囊(背負い袋)だけど、中はちょっとした異空間になっていて、物がたくさん入る魔法の袋だ。
性能は様々で、アレフの牛革製のザックは半間の納戸部屋丸々くらい物が入る。
しかも高級品な事に、中に入れたものは、時間が止まる。と言うか、現実世界の時間軸の干渉を受けないらしい。
人が中を覗こうとしたら、全身の血が凍りついて死んでしまうとか聞いた。ほんとかな。だって、出し入れする時、手を突っ込むでしょ? 手は凍ってないじゃん。
ちょっと前の依頼で、凄い成果を上げた報酬に、王様からいただいたのだ。
クリスのザックは、長持ち一個分くらい物が入るみたい。
先月行ったダンジョンの最下層で、お宝を貯め込んでた蜥蜴の亜人が持っていたものだ。
鱗のある爬虫類の革製品で、やはり普通、市場には出回らない希少価値のあるアイテムである。
でも、王様に貰った高級品とは違って入るだけ。
同じだと思って、山猪の皮と牙とお肉を入れていたら、中に虫が涌いた。
猪に元々寄生してたらしいけど、普通に時間は進むので、閉ざされた空間で虫達が活動し放題だったらしい。
クリスは泣く泣く、中に入れていた物すべて捨ててた。着がえとか薬草とか。勿体ない。洗えばいいのに。別にバイ菌持ってるとか、食い散らかされた訳じゃなくて、猪の皮に繁殖してただけなのにね。
いや、やっぱ気持ち悪いかな。それにしても、絹のローブが勿体なかった。洗って着るからって言って、もらえば良かったかな。
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「理解してもらえただろうか? コハク」
四人の事を考えてたら、悩んでるみたいに見えたのかな、アレフが心配そうに顔を覗き込んで来た。
アクアマリンのような、透き通った薄い水色の目に、私が映って揺れている。
アレフ、緊張してる?
いつもは橄欖石のような透き通った若草色の眼をしているけど、酷く緊張したり、魔法をたくさん使って貧血気味の時は、ブルーグレイや今のような水色になる。
今は、ダンジョンの中で薄暗いから、私の髪もオレンジっぽい金髪に見えるけど、外で陽の光に当たれば、ローズクォーツのような淡いピンクに光るピンクブロンドだ。あ、ちょっと運のいいのと同じくらい、この髪も自慢なんだ。
私の名前の由来にもなってる琥珀色の瞳と、物語の主人公のようなピンクブロンドの髪。それと、不思議なくらいの運の良さが自慢の、ただの田舎娘です。
エドガーやクリスが言うように、特別な技能も、抜きん出た才能も持ってない。
ほけ~っとアレフの瞳の中の自分を見ていると、恥ずかしくなったのか、頰を染めて目を反らすアレフ。ほんとにシャイなんだよね~。
ここでゴネても、仕方ないよね。彼らは、もう私とは一緒に冒険出来ないって言ってるんだから。
「わかった。仕方ないよね、今までありがとう」
私がそう言うと、ほっとした様子で、アレフとクリスが、肩の力を抜く。
エドガーはフンと鼻息を荒く吐いただけだった。
アレフとクリスは上級貴族出身で、過去には王族とも縁がある。育ちはいい。
エドガーは代々騎士を輩出してきた武門の男爵家嫡男で、なぜか二人より身分にこだわる。
それは地方領主の娘のキャロラインも同じで、いつも身の程を弁えろとウルサイほど気遣う。
私が二人に不敬な無礼を働かないよう、心配してくれてるのだ。いい人だよね。
「これまで二年間、世話になったね。礼を言うよ。気をつけて帰るんだよ、コハク」
「え?」
──『気をつけて帰るんだよ、コハク』?
ここ、ダンジョンの中だよね?
第一下層だけど、入口まで少しあるよね?
私が、戦闘能力ないって、今、3人とも言ってたよね?
なのに『気をつけて帰るんだよ』って、……無理じゃないかな?
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さて、琥珀は無事におうちに帰りつけるのかな?
応援ありがとうございます!
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