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婚約者様と私Ⅱ
140.聞いてないんですけど?
しおりを挟む新年、明けましておめでとうございます
まだ完調ではないのですが、身の回りも少し落ち着いて来たので、一話あたりが少な目で不定期になるかとは思いますが、調子を見て更新していきます
長らくお待たせして申し訳ありませんでした
読者の皆さま、今年もよろしくお願いします
❈❈❈❈❈❈❈
クリスが、四十に手が届くかくらいの女性を連れて、侯爵家を訪ねて来た。
「こちらが、エルラップネス卿の天使様でございますか? 思ったより細身の方でございますね」
子供がふたりほど中に隠れられそうな大きな旅行用衣装ケースを、布を敷いて床に傷が付かないようにして引いて来た女性は、私を見て瘠せているという。
お嬢さまのようにお胸がバインバインお腰も円やかではないだけで、肋が出ている訳でもないし、普通だと思うけれど。
「この夏に神職の潔斎のような生活をして少し瘠せたみたいだ。甘い物や過剰な飽食を避けて、語学と文学に励んだらしいよ」
「素晴らしいことですわ。書物は先人の叡智を受け継ぎ、語学は自らを豊かにしますもの」
ああ、語学家庭内留学した事にしてあったから、そういう風にとられているのね。訂正はしないでおこう。
女性は、やや不躾なほど私を嘗めるように見た後、クリスに頷いてみせた。
「これなら、多少の手直しでいけるでしょう」
なにが?
ジェイムスさんに促されて、乳白色の塗り壁の小さめのサロンに通される。
すでに暖炉に火は入れられていて、マクダレーネさんやメイド達が部屋を整えていた。
窓や庭に出るバルコニーの前には、幾つもの衝立が並べられて、庭からの視線を遮るようにされていた。
女性が、広げた布の上で衣装ケースを開くと、等身大の人間の胴体を模したドールのようなものが出て来る。
「遠方にいて、仮縫いや手直しが難しいお客様の体型を再現して微調整をするための仮ボディになります。こちらは、昨年のお嬢さまのサイズに合わせた物になります」
真面目な表情で、女性は、ドレスの隠しからメジャーを取り出した。
「まずは、お嬢さまのサイズを測る所から始めましょうか」
「え? 今、ここで、ですか?」
「申し遅れました。わたくし、『クライナーエンゲル』のデザイナー兼、お針子兼、パタンナーの、ローフェンロゥクと申します」
え、ええぇ!?
マクダレーネさんの手を打つ音に、クリスとジェイムスさんや荷物持ちで後を着いて来ていた従者達がサロンから出て行く。
「じゃ、アンジュ、後でね」
クリスは、綺麗なウィンクを見せて、扉を閉めた。
私の衣装を剥ぐべく、メイド達が輪を組んで近寄ってきた。
ええぇぇ?
❈❈❈❈❈❈❈
※ 旅行用衣装ケース
スーツケースが世に出たのは、十九世紀後半のルイ・ヴィトンからだとか
日本の柳桑折やいわゆる葛籠はもっと昔からあった(舌切り雀とか昔話にもありますよね)ようですが、ヨーロッパ諸国では、長持ちやチェストの小さめのものを、従者に運ばせて旅行したようで、
最初はスーツケースを引いた女性 と書いてたのですが、んん?と思って調べてみたら、手軽な旅行鞄は中世・近世ではまだ出回ってなかったみたいなので、昔の絵画や衣装・生活の資料にあった通り、小型の長持ちのイメージで、衣装ケースと書きました
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