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テレーゼ様と私
69.街道
しおりを挟む一日更新飛んでしまって申し訳ありません🙇
中々ちょうどいい文字数に纏まらず、結局一旦切ることにしました
❈❈❈❈❈❈❈
翌朝も、陽が昇る頃にパンとジャガイモのスープとベーコンと冷菜の朝食を摂り、馬車に乗って、侯爵家の縁者が経営する宿を後にする。
馬車で休んだというクリスの配下のふたりは、そうは思えないほど元気だった。
「気にしないでくださいよ。遠征中の野営に比べたら、屋根も壁もあって上等ですから」
クリスの副官で、領地持ちの貴族家なら野営中でもテントの中かもしれない。
私に気をつかって言ってくれてるのだろうと思うので、頷いておく。
金に近い明るい茶色の髪と深い青の瞳。思ったほど日焼けしていない肌。襟足で一つに括られた背に流された髪は清潔感があるし、上流階級の若君に見える質のよいドレスシャツ。
いかにも尊い方を護衛してますって感じを避けるため、普段着に着替え鎧は馬車の中だという。
ギルベルトさんも、甲冑は馬車の中なのだろう、ネルのシャツに心臓の辺りだけワックスで煮込んで固めた硬革鎧で防御していた。
数度の斬り合いや小弓程度なら耐えるだろうけど、弩や戦斧では身を守れないと思われる。民間の軽装備感を出すために、今は敢えて安価の革鎧にしているらしい。
「騎士らしい格好で併走してると、高貴な人を護衛してますよーって大声で叫んでるようなもんでしょ? 銃火器や弩を持ってこられなきゃなんとかなります」
弩は殺傷力が高すぎて、騎士達の反発を買い、キリスト教徒や騎士に向けて使うことを、例え戦争でも禁じられたほど危険なもの。鎧の上からも貫通するという。
ルースさんはウインクをして、自分の乗っている馬と、並んで走る空馬の手綱を引いて馬車から離れる。
鞍は着いているのに誰も騎乗していない空馬
昨日までは馬で併走していたクリスも、今日は馬車に乗り込んできた。
「俺は何度もここを通っているから、案内してあげるよ」
「男ふたりで車内が暑苦しくなるから外に居ろよ」
「なら、開放感ある風も爽やかで広大な自然の中へ、テオが出たらいいだろ。俺の馬はいい子だから、テオでも乗れるさ」
笑顔で睨み合うお兄さまとクリス。
「どちらでも構いませんわ。でも、帰りもあるのですから、テオドール様は、帰りのお楽しみにとっておきますから、行きはクリストファー様の見たヒューゲルベルクを案内していただこうかしら?」
テレーゼ様にそう言われては、お兄さまも黙るしかない。
クリスはこのままハインスベルクへ帰るのだから、譲って、帰りにお兄さまの案内を聞けば、確かに両方を立てられていいのかも。
さすがテレーゼ様。
「この街道は真っ直ぐヒューゲルベルクの中心地を通って、ハインスベルクまで続いてるんだ。夕刻は太陽が沈むのを見ながら行くのは、山や森が茜色に染まってとても綺麗だよ」
ハインスベルクの自然地区を掠めて中心街を抜け、そのままネーデルラント国境まで続いているらしい。
初めて見るヒューゲルベルクの田園地帯と集落はとても牧歌的で、ずっと馬車の中でも飽きなかった。
初めてのお友だち──はハイジだけど、私が勝手にそう思っているだけで、付き合いが続いている訳じゃないから──身の程知らずと言われそうだけど、テレーゼ様が、一緒にお泊まりしたり馬車でお出かけしたりした最初の令嬢なのだ。
「わたくしも、親しくしている人のお屋敷にお泊まりしたのは、これが初めてよ。馬車で遠出するのもね。
冠婚葬祭や祭り、王都の王室主催の舞踏会に出るなどで親族の館に泊まったことがあるくらいかしら」
そう言えば、付き合う相手は選ぶ代わりに、その数は少ないと仰ってたっけ。
お嬢さまも、基礎学校にも淑女教養学校にも行ってないと言っていたから、あまり経験はないはず?
「なんだ、アンジュもまた領地に行きたい、どこか旅行したいと言うのなら、この兄に言いなさい。どこへでも連れていってあげるからね」
「来年、ハインスベルクに来たら、しばらく二人であちこちまわろうな?」
「⋯⋯アンジュ様、モテモテですわね」
「いえ、ですから、対象が兄と婚約者では、モテてるとは言わないのでは」
どこの王族だったかしら? 城内の教会で結婚式をあげて、王都内をオープンカーで練り回り、国内の主だった土地の領主の館を巡る旅行に出た王子夫婦がいたと聞いたような⋯⋯
そうすることで、国土の広さや民の暮らし向き、土地や氏族で文化の違い、地方色などを憶えつつ、国境防備や経済の中心地の領主や官僚といった有力な家臣と顔合わせをしていく目的があったとか。
「ハインスベルクは伯父んとこに比べたら小さい国だ、まわると言ってもすぐに一周出来るけどな」
「自然豊かな動植物の保護区があるのでしょう? 今から楽しみですわ」
私は行けないけれど──
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