上 下
65 / 143
テレーゼ様と私

65.荷造りをしろ?

しおりを挟む

「イルゼ、フリッツ。マクダレーネと共に荷造りしろ」

 突然、お兄さまがイルゼさんに命じた。

 荷造り? なんの?

 と思う暇もなく、イルゼさんがお嬢さまの部屋付きのメイド達に指示し、そこへメイド長のマクダレーネさんが加わって、引っ越しでもするのかと思うような荷造りが始まる。

 まさか、私が偽者だとバレて追い出される?

 にしたらお嬢さまの宝飾品の一部まで入るのもおかしい話。

 なにごと?


「お前、ずっとこっち王都の貴族街にいて、領地の事は殆ど知らないだろ?」

 いえ、ヒューゲルベルクには一度も足を踏み入れた事はありませんが。それは私の話ヽヽヽであって、お嬢さまアンジュリーネの事ではない。

「はい」

 実際はどうなのか知らない。身代わりで存在していればいいくらいに考えていたのか、交際のある人ない人、くらいは教えてくれたけれど、自身が領地についてどれくらい知っているのかとか、行ったことがどれくらいあるのかは教えてくれなかった。

 多分、そこへ意識が向かない程度しか識らず、行ったことも殆どないのだろう。
 二十歳になる前にどこかへ嫁がされるのだから、識る必要がないとでも思っていたのかもしれない。

 そんなはずはないのに。

「見せてやる。お前のルーツの領地を、領民を。お前がちゃんと領地で育っていれば見ていたはずのものを。識って損はない」
「はい。⋯⋯はい? わたくしが、領地にですか?」

 え? ちょっと待って。いつお嬢さまが戻って来てもすぐに入れ替われるように、ここで待っていなくちゃなのに!

「そうだ。見たことない⋯⋯くらいに憶えてないだろ? お兄さまが案内してやるぞ」
「とてもありがたいのですが、わたくしはお父さまの図書室の本でお勉強を⋯⋯」
「勉強はどこでも出来る! 本宅のお祖父さまの蔵書も素晴らしいぞ? 俺は半分も読んだことないが」
「素晴らしいのですか?」
「ああ! 母上に訊いてみろ。結婚して初めてマナーハウスに行った時、父上と図書室に入って、飲まず食わずに丸一日出て来なかったと聞いている。屋敷のみんなは、父上と • • • 睦まじく • • • • していたと思っているようだが、本当は、二人とも読書三昧だったらしいぞ?」

 王城の秘密の書庫でもそうでした。

「ほらほら、行ってみたくなっただろう? そもそも、普通の貴族は、会期が終われば領地に戻るものだ」

 それはそうかもしれないけど、お父さまはお城で要職に就かれていらっしゃるので、領地はお兄さまとお祖父さまにお任せしているではありませんか。
 いつもお父さまのお傍にいらっしゃるお母さまと、賑やかなのがお好きなお嬢さまは、お父さまと王都の貴族街のタウンハウスに暮らして来た。

「だから、嫁ぐ前に一度でも、領地を見ておけ。な?」

 そうこう言っているうちに、優秀なメイド達は引っ越しかと思うような荷造りを終え、すでに従僕達が運び出していた。   


 でも、確かに見てみたい。

 地図で見ればクリスのハインスベルクにほど近い自然豊かな土地で、ヴェストファーレン州の西部の野菜や果物をまかなっているとされる。
 亡くなった父が雇われていた伯爵さまの穀倉地も、実は隣接している。

 お嬢さまが、こちらへ来て入れ替わってくれるなら、そのまま父の墓へいける。

 そして、クリスの領地を見て、その後はどこか遠くへ⋯⋯





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

私がいなければ。

月見 初音
恋愛
大国クラッサ王国のアルバト国王の妾腹の子として生まれたアグネスに、婚約話がもちかけられる。 しかし相手は、大陸一の美青年と名高い敵国のステア・アイザイン公爵であった。 公爵から明らかな憎悪を向けられ、周りからは2人の不釣り合いさを笑われるが、アグネスは彼と結婚する。 結婚生活の中でアグネスはステアの誠実さや優しさを知り彼を愛し始める。 しかしある日、ステアがアグネスを憎む理由を知ってしまい罪悪感から彼女は自死を決意する。 毒を飲んだが死にきれず、目が覚めたとき彼女の記憶はなくなっていた。 そして彼女の目の前には、今にも泣き出しそうな顔のステアがいた。 𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷 初投稿作品なので温かい目で見てくださると幸いです。 コメントくださるととっても嬉しいです! 誤字脱字報告してくださると助かります。 不定期更新です。 表紙のお借り元▼ https://www.pixiv.net/users/3524455 𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷⢄⡱𖧷

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん
恋愛
タイトル変更しました!旧「国王陛下の長い一日」です。書いているうちに、何かあわないな・・・と。 内容そのまんまのタイトルです(笑 「側妃を迎えたいと思うのだが」国王が言った。 「了承しました。では今この時から夫婦関係は終了という事でいいですね?」王妃が言った。 「え?」困惑する国王に彼女は一言。「結婚の条件に書いていますわよ」と誓約書を見せる。 其処には確かに書いていた。王妃が恋人を作る事も了承すると。 そして今更ながら国王は気付く。王妃を愛していると。 困惑する王妃の心を射止めるために頑張るヘタレ国王のお話しです。 ご都合主義のゆるゆる設定です。

処理中です...