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4 困惑と動悸の日々

4‑16 狂行進の発生原因

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     🐃

 数㎞毎に地に降りて、浄化しながら森を目指す。

 一部では瘴気に変わるほどの澱が溜まっていて、ルヴィラと光属性の精霊達がいてくれなければ、浄化は無理だっただろうという酷い場所もあった。


 難民キャンプが遠目に見える辺りまで来ると、狂行進スタンピート跡の調査している騎士や魔法士と擦れ違う。

「兄上」

 エリオス殿下を呼び止めるのは、第三王子リクハルド殿下。

数人の騎士を連れて、浄化を終えた私達の元へ駆け寄って来た。

「リク。無事だったか」
「ああ。団員が何人か重傷だったが、衛生担当隊員が応急処置で、骨は接いだし裂けた肉も合わせてある。血が足りないが、元々体力はある方だから、鉄分摂って肉食ったらすぐに元気になるだろ」

 大雑把な⋯⋯ とは言えないけれど、兵隊や騎士ってそういうものなのかもしれない。

「いやぁ、数体の魔獣退治の筈が、まさかの狂行進スタンピートで焦ったよ。死者が出なくてよかった。
 個体、或いは数体程度なら楽勝だと思ってたのに、兆候とか、土地の人は気づかなかったのかな」
「国境線が近いし、もしかしたら、北の国からかもしれないね」
「ああ、そう言う事もあるか」

 リクハルド殿下は、後頭部を叩くように押さえながら、狂行進スタンピートあとを眺める。

「今年の冬は厳しそうだし、あちらの国では、今から薪や炭、毛皮や保存用の肉などを乱獲してるのかもしれない。ちゃんと処理をしていないのかもな」
「はた迷惑な⋯⋯」

 腕のいい狩人ニムロドが一瞬で絶命させるならともかく、獲物を仕留めるのに手間取って長く痛みを引き摺らせると、恐怖心や苦痛による負の感情の澱が発生し、やがては森の蔭に溜まる闇の魔素と凝って瘴気に変わる。

 そうなる前に、仕留めた獲物の魂を鎮めるのだけれど、その手順を端折ったり不十分な狩人ニムロドが居ると、瘴気溜まりが増えていく。
 その瘴気に侵蝕された動植物が魔獣と化し、瘴気が爆発的に増えてしまうと、魔獣が溢れ、今回のような狂行進スタンピートが起こるのである。

 以前、南の国のひとつが、どうせうちは周辺諸国に比べて魔法士が多く、エリオス殿下の魔法が強大なことを当てにして、ワザと霊鎮たましずめの作業を端折って、魔獣の処理を我が国に丸投げした事があった。

 あの時は、陛下も王太子殿下も宰相も激怒し、その国とは国交断絶、国境線に結界を張り、野生動物は素通りできるけれど、思考を持った人間は通れない魔導的不可視の壁を作り上げたのである。
 もちろん、魔獣の処理をエリオス殿下とリクハルド殿下とそれぞれの配下が、国境の林と草原に溜まる澱や瘴気を聖教会の大司教達が浄化した後の事である。

 未だ国交は復帰しておらず、また、周辺の国々からも辛辣な扱いを受けているらしい。
 始めは個々の狩人ニムロドが始めた事でも、それを国が見過ごし、やがては国営の機関も連携して放置するようになったからだ。
 自国で出した生ゴミを他国に棄てるようなことを、ゴミよりも始末の悪いものを押し付ける行為を、次は自分達がされるかもしれないという脅威と国の政策に対する不信が、そうさせているのだという。
 その国からの国民が離れていくのに、結界が弾くので彼らは我が国には入れない。
 難民が雪崩れてくるのも、近隣国に拒否される理由なのかも。

「あの時と同じ事が起こるって事か? クラウス兄上や父上にも相談して、調査隊を出さないといけないかもな」

「とにかく、僕らはこのまま森まで狂行進スタンピートの痕を灼いていくよ」
「それなんだけど、兄上⋯⋯」

 リクハルド殿下は、躊躇ためらいがちに、私の顔をチラチラと覗き見ながら、言いにくそうに訊いてきた──




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