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4 困惑と動悸の日々
4‑14 狂行進の齎すもの
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🐗
殿下の補佐官兼研究チームパートナーとしてお側にいるようになって初めて、学校や官舎の外で、事件が起きた。
北の国境付近一帯の大森林での魔獣被害の訴えを受けての討伐中に、予想以上の魔獣の群れに遭遇。報告から推察される数を何倍も上まわる魔獣が群れを成し、国境線から町を目掛けて行進してくるというものだった。
いわゆる魔獣専門の狩人達に狂行進と言われるものである。
騎士団は、基本、物理的な攻撃には強い。盾で相手の攻撃を逸らし衝撃を軽減し、剣や槍で反撃、屠るものである。
中には魔法に長けた者もいて、自らの武器に炎や氷などの魔法属性を持たせて攻撃力を上げたり、魔法士のように攻撃魔法を操る事もある。また、身体能力を爆発的に上げたり、防御力を強化することもある。
ただの魔獣が数匹~数十匹なら問題ないはずであった。
それが、仲間が屠られても見向きもせず、ただ、町を目指して走り続けるのである。
私とエリオス殿下が現場に着いた時には、村が二つ壊滅的被害を受けていた。
魔獣の最初の発生現場から町までの行進過程にあった村は、魔獣の波に押し潰され、人が暮らせる環境ではなくなっていた。
幸い、二つ目の村では避難は間に合ったので、行進の経路から離れた場所に難民キャンプを設けて、怪我人も殆どなかった。
でも、一つ目の村は、避難勧告が間に合わず、魔獣の群れに呑み込まれ、村人の半数が亡くなった。
そのまま村を再建することは出来ないので、騎士団の衛生班回復士が浄化、治癒を施した後、二つ目の村のキャンプ地に合流したと報告を受けたときは、胸が痛んだ。
魔獣の行進に飲み込まれた場所は、瘴気や穢れの魔素に侵され、そのままでは人も動植物も住めない土地になる。
浄化に時間がかかるだろうし、なにより、まだ行進が止まった訳ではない。
「僕が⋯⋯わたしが烈火を落として灼き尽くすから、エステルは痕跡全ての浄化を頼めるか?」
「はい。やってみます」
狂行進する魔獣達は、命尽きるまでその足を止めることはない。異常興奮状態なので、疲れを忘れたかのように走り続けるのだ。
鹿や犬、猫などの足の速い魔獣でなくて良かった。
そうでなければ、私達が到着するまでに、幾つもの領地を駆け抜け、王都にまで迫っていたかもしれない。
エリオス殿下の巨大な炎の波は、燃えて尚走り続ける魔獣を骨まで焼き尽くした。
私はルヴィラと王都から連れて来た自分の契約精霊のみならず、この辺り一帯に自然と存在する水や風、大地や光の精霊達にお願いして、魔獣達の骸を浄め、地精に溶けるように自然に還した。
久し振りに大きな魔法を使われたからか、少し肩で息をする殿下。
「エステル、さすがだね。わたしの光の魔法は、熱量を上げるのは得意だけど攻撃や防御が殆どで、治癒や浄化は下級魔法士程度なんだ。君が居てくれて助かったよ」
「いいえ。殿下の魔法があればこそです」
今回の火炎魔法程度なら、いつものエリオス殿下なら、肩で息するほど消耗したり疲れた様子を見せたりしないはずなのに⋯⋯
こちらを見る殿下の眼は、また赤かった。
殿下の補佐官兼研究チームパートナーとしてお側にいるようになって初めて、学校や官舎の外で、事件が起きた。
北の国境付近一帯の大森林での魔獣被害の訴えを受けての討伐中に、予想以上の魔獣の群れに遭遇。報告から推察される数を何倍も上まわる魔獣が群れを成し、国境線から町を目掛けて行進してくるというものだった。
いわゆる魔獣専門の狩人達に狂行進と言われるものである。
騎士団は、基本、物理的な攻撃には強い。盾で相手の攻撃を逸らし衝撃を軽減し、剣や槍で反撃、屠るものである。
中には魔法に長けた者もいて、自らの武器に炎や氷などの魔法属性を持たせて攻撃力を上げたり、魔法士のように攻撃魔法を操る事もある。また、身体能力を爆発的に上げたり、防御力を強化することもある。
ただの魔獣が数匹~数十匹なら問題ないはずであった。
それが、仲間が屠られても見向きもせず、ただ、町を目指して走り続けるのである。
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魔獣の最初の発生現場から町までの行進過程にあった村は、魔獣の波に押し潰され、人が暮らせる環境ではなくなっていた。
幸い、二つ目の村では避難は間に合ったので、行進の経路から離れた場所に難民キャンプを設けて、怪我人も殆どなかった。
でも、一つ目の村は、避難勧告が間に合わず、魔獣の群れに呑み込まれ、村人の半数が亡くなった。
そのまま村を再建することは出来ないので、騎士団の衛生班回復士が浄化、治癒を施した後、二つ目の村のキャンプ地に合流したと報告を受けたときは、胸が痛んだ。
魔獣の行進に飲み込まれた場所は、瘴気や穢れの魔素に侵され、そのままでは人も動植物も住めない土地になる。
浄化に時間がかかるだろうし、なにより、まだ行進が止まった訳ではない。
「僕が⋯⋯わたしが烈火を落として灼き尽くすから、エステルは痕跡全ての浄化を頼めるか?」
「はい。やってみます」
狂行進する魔獣達は、命尽きるまでその足を止めることはない。異常興奮状態なので、疲れを忘れたかのように走り続けるのだ。
鹿や犬、猫などの足の速い魔獣でなくて良かった。
そうでなければ、私達が到着するまでに、幾つもの領地を駆け抜け、王都にまで迫っていたかもしれない。
エリオス殿下の巨大な炎の波は、燃えて尚走り続ける魔獣を骨まで焼き尽くした。
私はルヴィラと王都から連れて来た自分の契約精霊のみならず、この辺り一帯に自然と存在する水や風、大地や光の精霊達にお願いして、魔獣達の骸を浄め、地精に溶けるように自然に還した。
久し振りに大きな魔法を使われたからか、少し肩で息をする殿下。
「エステル、さすがだね。わたしの光の魔法は、熱量を上げるのは得意だけど攻撃や防御が殆どで、治癒や浄化は下級魔法士程度なんだ。君が居てくれて助かったよ」
「いいえ。殿下の魔法があればこそです」
今回の火炎魔法程度なら、いつものエリオス殿下なら、肩で息するほど消耗したり疲れた様子を見せたりしないはずなのに⋯⋯
こちらを見る殿下の眼は、また赤かった。
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