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4 困惑と動悸の日々
4‑12 そばに⋯⋯
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魔力障害か魔力枯渇寸前か、殿下の腕はすぐには気づかないほどの細かさで震えていた。
「エステル、ありがとう」
抱き締められているので、殿下の顔が触れている肩から首、密着している胸元や腹部、椅子に座っている殿下の腿が私を間に挟むように広げられていて接地面から、ジワジワと私の魔力や生命力を吸い上げているエリオス殿下。
「これくらいしか、わたくしには、殿下のお役に立てませんから」
「そんな事はない! ⋯⋯ないよ、エステル。傍にいてくれると言ってくれた。魔法研究で力を貸してくれているし、魔法省のわたしの書類仕事を手伝ってくれる。なにより、何度もこうして魔力譲渡も回復力も分けてくれるし、優しい声で、優しい言葉をくれるのが、本当に助けられているよ、エステル」
「⋯⋯本当に、これくらいしか出来ることはありませんが、助けになっていますか」
「ああ。王族に直接声をかけられる者は少ない。それは仕方がない。かけられる言葉を選ばれるのも。だけど、それでも、その中で気遣ってくれる人、わたしを『第二王子』としてではなく、エリオス一個人として相対してくれる人も少ない。それは王宮においては仕方のないことだと理解はしている。
学内の序列の上下関係はあっても、身分の上下はないとされる魔法士学校においても、真実優劣をつけずにいる者など、有り得ないとも。
それでも、エステル。君は、王子であるわたしと公爵令嬢である自身の身分の礼節は弁えた上で、魔法に携わる仲間として、同じ歳の王侯貴族の学友として、気遣うことは忘れない。
それが、わたしがどんなに救われているか、君に解るだろうか?」
言いたいことは、なんとなくわかる。
王子殿下だから、一貴族令嬢だから、ではなく、学内の同級生──学友として、エリオス殿下個人として、対等に見る部分を無くさないでいられる事が、私が殿下なら泣くほど嬉しいだろうと思う。
殿下が仰っているのは、たぶんそう言うこと。
「はい。わたくしのような小さき者が烏滸がましいかもしれませんが、殿下の魔法力も優秀さも、人を気遣えるお心の優しさも、尊敬して、また、わたくしもこう在りたいと敬愛しております。目標でもあり、こっそり憧れて、少しでも近づきたい、殿下の力になりたい、民や領民に対して、立つ者としての責任と義務と志を近しくした者として、親しみと敬愛の念を抱かずにはいられません。お側にいることをお許しくださいますか」
「もちろんだ。こちらからも願う。これからも、傍にいてくれ」
──っ!! 思い出した
あの時、私がクレディオス様の魔力塊に灼き尽くされて倒れた時、私を惜しんで泣いてくださったエリオス殿下は、確かに言ったのだ。
──『そばにいてくれ』と
どうして、私なんかを惜しんでくださったのか、傍にいて欲しいと望んでくださったのか、その答えはわからないけれど、確かに、あの時、殿下は、死にゆく私に、傍にいて欲しいと言ってくださった。
「お約束します。今度こそ。お側にいます。殿下のお役に立ちますから、お側にいさせてください」
*******
後から思い出すたび、顔から火が出そうだ。
本でしか知らないけれど、まるで愛の告白のよう。
殿下の『目を外せ』発言は、視線を逸らせと言うことだった。
或いは、見て見ぬフリをしろ、知らぬ顔をしろと言うこと。
身の回りの世話をする侍従なり警護なり、人目がなくなることはない王族。人払いは出来ない代わりの、目を逸らせ、なのだろう。
席を外せとは仰らなかったので直接こちらを見ることはなかったけれど、リリヤ様とサマエル回復士が、あの部屋の中で同席していたのだ。
本当に、思い出すだけでも顔が熱い。
席を外せとは言わなかったのも、お互いに未婚の、決まった相手のいない者同士、抱き合って会話するなど、ましてや傍にいてくれそばにいさせて欲しいなどと願いあったのだから、廊下で聴かれていたら、妖しい雰囲気を想像されるに違いない。
だから、居てくれて良かったはずなのだけれど。
あの後、何やら、恥ずかしい場面を見られたという居心地の悪さが際立って、リリヤ様とは一言も話せないまま、お別れしてしまった。
しかも、殿下の馬車で通学した日で、男女交際の真似事をしましょうと取り決めた翌日のこと、帰りの馬車の中での居たたまれなさと言ったら。
でも、エリオス殿下は始終機嫌が良く、体調不良を訴えていたのが嘘のように、私の隣に座り、大きな温かい手を重ねるように私の手を握って、鼻唄でも歌い出しそうなほど楽しげに、窓の外を眺めていらした。
寮の入り口でお別れするとき、本当に、殿下の両の眼は、元通りのアメシストの美しい透き通った瞳に戻っていた。
❈❈❈❈❈❈❈
いやいや、今回は、筆者も恥ずか死ぬぅ と思いました
そんな筆者、今夜までのファンタジー小説大賞にこっそりエントリーしてました
結果が少し楽しみです
今まで、ファンタジー小説で上位に入ったことなかったので
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