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4 困惑と動悸の日々
4‑11 宣言
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リリヤ様の処置治療は的確だったらしく、オッシの呼吸は静になり、胸の上下も浅く落ち着いた。
霊的な気の流れも正常に戻ったと思われる。
「そうです。せっかくですから、エリオス殿下も、リリヤ様にその目を見ていただいては?」
「大丈夫だよ。しばらくすれば戻るから⋯⋯」
やはり、診せる事を嫌がるエリオス殿下。
「殿下?」
訝しげに、エリオス殿下を見るリリヤ様。
殿下は、やや下を向いて、オッシを見ながら話すのが、私や救護施設の回復士やリリヤ様から視線を逸らすように見えた。
「オッシも、リリヤのおかげで落ち着いた。そろそろ保護者の迎えが来るだろう」
「殿下」
リリヤ様は、エリオス殿下の顔を両手で挟み、自分の方を向かせて視線を合わせる。
「⋯⋯殿下? これは⋯⋯」
「女神の回復の力を借りる君なら判るだろう? 治療は必要ない。しばらくすれば戻る」
「⋯⋯え、ええ。そうね。時間が経てば、疲労と魔力障害が治まれば、元に戻るわ」
「本当ですか? リリヤ様。前にも、魔力を大量消費された折に、こうなったのです。こうならないように、前もって防ぐ事は出来ないのですか? おつらそうです」
「大丈夫だよ。エステル。心配しないで。こうなる瞬間はちょっと痛いけれど、すぐに何ともなくなるんだ。赤味はしばらく残るけれど、問題はないよ」
そう言って微笑むエリオス殿下。
本当だろうか? リリヤ様の表情は、問題ないとは言ってないように思えるけれど。
でも、おふたりが言わないと決められたのなら、訊いても話してはもらえないだろう。
私は諦めて、頷く。
私は、殿下の補佐官として、研究の助手兼パートナーとして、誰よりも傍にいるのだから、私が気をつけていよう。
先ほどのリリヤ様のように、殿下を可能な限り癒やして差し上げよう。
せっかく、光と水と風という、得意属性が同じで魔力の親和性が高いのだから。
光の大きな精霊ルヴィラが私の守護をしているのは、一族にとっては大事なことでも家族にとっては大した問題ではなかった。
でも、回復士の能力を伸ばすのなら、大地の恵みか緑気、或いは水の恵みを通じて、光の霊気光気が必要で、私はそれらを同時に身に集めることが出来るアァルトネン一族の長の血をひくのだから。
家族の誰にも求められなかった、私に授かった力を、今、仕えるべき王家に、殿下に、使わずしてなんのための力か。
「エリオス殿下。わたくしが、殿下のお側におります。魔力障害につらい時、魔力枯渇に回復がうまくいかない時、わたくしがお側にいて、いつでも力の及ぶ限り癒やして差し上げますから、お一人で耐えずに、いつかのようにすぐに申しつけてください」
王家に仕える臣下として、殿下の魔力に親和性を持つ数少ない一人として、補佐官兼研究パートナーとして、私に出来る限りを尽くすという決意を述べた。つもりだけど。
なぜか、エリオス殿下は顔を真っ赤にしてその身をわずかに引いた。
あれ? 何か間違えたかしら。それとも、たかだか一臣下に過ぎない小娘が気負って宣言して、煩わしかったかしら。
「リリヤ、サマエル、少し目を外せ」
目を外す? どういうこと? まさか、眼球が外し取れる、なんて事は⋯⋯
子供に捕まったヒキガエルのように、グエッとか淑女にあるまじき声を出さずに済んでよかったと、心底思った。
突然、エリオス殿下は、真っ正面から私を抱き締め、私の肩にそのお顔を埋めたのだ。
いつになく強い力で、しっかりと私の背に腕をまわして──
リリヤ様の処置治療は的確だったらしく、オッシの呼吸は静になり、胸の上下も浅く落ち着いた。
霊的な気の流れも正常に戻ったと思われる。
「そうです。せっかくですから、エリオス殿下も、リリヤ様にその目を見ていただいては?」
「大丈夫だよ。しばらくすれば戻るから⋯⋯」
やはり、診せる事を嫌がるエリオス殿下。
「殿下?」
訝しげに、エリオス殿下を見るリリヤ様。
殿下は、やや下を向いて、オッシを見ながら話すのが、私や救護施設の回復士やリリヤ様から視線を逸らすように見えた。
「オッシも、リリヤのおかげで落ち着いた。そろそろ保護者の迎えが来るだろう」
「殿下」
リリヤ様は、エリオス殿下の顔を両手で挟み、自分の方を向かせて視線を合わせる。
「⋯⋯殿下? これは⋯⋯」
「女神の回復の力を借りる君なら判るだろう? 治療は必要ない。しばらくすれば戻る」
「⋯⋯え、ええ。そうね。時間が経てば、疲労と魔力障害が治まれば、元に戻るわ」
「本当ですか? リリヤ様。前にも、魔力を大量消費された折に、こうなったのです。こうならないように、前もって防ぐ事は出来ないのですか? おつらそうです」
「大丈夫だよ。エステル。心配しないで。こうなる瞬間はちょっと痛いけれど、すぐに何ともなくなるんだ。赤味はしばらく残るけれど、問題はないよ」
そう言って微笑むエリオス殿下。
本当だろうか? リリヤ様の表情は、問題ないとは言ってないように思えるけれど。
でも、おふたりが言わないと決められたのなら、訊いても話してはもらえないだろう。
私は諦めて、頷く。
私は、殿下の補佐官として、研究の助手兼パートナーとして、誰よりも傍にいるのだから、私が気をつけていよう。
先ほどのリリヤ様のように、殿下を可能な限り癒やして差し上げよう。
せっかく、光と水と風という、得意属性が同じで魔力の親和性が高いのだから。
光の大きな精霊ルヴィラが私の守護をしているのは、一族にとっては大事なことでも家族にとっては大した問題ではなかった。
でも、回復士の能力を伸ばすのなら、大地の恵みか緑気、或いは水の恵みを通じて、光の霊気光気が必要で、私はそれらを同時に身に集めることが出来るアァルトネン一族の長の血をひくのだから。
家族の誰にも求められなかった、私に授かった力を、今、仕えるべき王家に、殿下に、使わずしてなんのための力か。
「エリオス殿下。わたくしが、殿下のお側におります。魔力障害につらい時、魔力枯渇に回復がうまくいかない時、わたくしがお側にいて、いつでも力の及ぶ限り癒やして差し上げますから、お一人で耐えずに、いつかのようにすぐに申しつけてください」
王家に仕える臣下として、殿下の魔力に親和性を持つ数少ない一人として、補佐官兼研究パートナーとして、私に出来る限りを尽くすという決意を述べた。つもりだけど。
なぜか、エリオス殿下は顔を真っ赤にしてその身をわずかに引いた。
あれ? 何か間違えたかしら。それとも、たかだか一臣下に過ぎない小娘が気負って宣言して、煩わしかったかしら。
「リリヤ、サマエル、少し目を外せ」
目を外す? どういうこと? まさか、眼球が外し取れる、なんて事は⋯⋯
子供に捕まったヒキガエルのように、グエッとか淑女にあるまじき声を出さずに済んでよかったと、心底思った。
突然、エリオス殿下は、真っ正面から私を抱き締め、私の肩にそのお顔を埋めたのだ。
いつになく強い力で、しっかりと私の背に腕をまわして──
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