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4 困惑と動悸の日々
4‑2 tanssitko kanssani(=Shall we dance?)
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👫
エリオス殿下と参加することになるのなら、セオドア従兄さまにパートナーを頼んだ方が良かったかしら。
プロポーズされたのに返事を返していない手前、お願いしづらかったけれど、殿下と参加するよりはマシだったかもしれない。
と、今ここで後悔しても間に合わないのだけれど。
基本的に、学校内では、教師と生徒、上級生と下級生といった一般的な上下関係はあるものの、貴族階級と、中産階級や平民などの身分差は問わないことになっている。
けれど、このプロムだけは、将来魔法士達が貴族社会との付き合い方の訓練も兼ねているため、貴族のルールが一部適用される。
平民、下級生、下位貴族達が先にホールに入り見守る中、上位貴族家、王族の順に入場、その際に主催側が参加者を読み上げていくという、多くの夜会のルールの通りに開始される。
私は、クレディオス様とも殆ど参加したことはなかったけれど、それでも皆無ではないため、私の家の爵位と婚約者が誰なのかは、貴族名鑑に目を通さない人達にも、ある程度は知られている。
ひとの眼が気になるけれど、エリオス殿下と並ぶだけで見られるのは必至なので、腹を括る。
「エステル、とても綺麗だよ。髪の色が月のように淡いからか、落ち着いたゴールドのドレスがよく映えるし、宝飾品もよく引き立ててる。みんな、エステルをエスコート出来るわたしを、羨ましそうに見てるよ」
そんなはず⋯⋯ 殿下は、お口がお上手なのね。
恥ずかしいけれど、悪い気はしない。
主催者スタッフが殿下の名を読み上げる。
私も、パートナーとして紹介されてしまった。変な噂が立たなければいいけれど。
「大丈夫ですよ。殿下に婚約者がいない⋯⋯いても公表されてないのだし、エステル嬢が殿下の研究室に入ったのは多くの人が知ってます。研究生や教え子の中で、エステル嬢が一番身分が高いのも、スタッフがフルネームで読み上げたので解っているはずです」
殿下の研究チームの中でも古参だというマウリは明るく慰めて(?)くれる。彼もレフティネン侯爵家の四男で、私と同時期にデビュタントしていて、当時からクレディオス様との事を知っている一人だ。
殿下に手をとられ、中二階になった入り口からホールへ、カーペットの敷かれた中央階段を降りていく。
平民出身の生徒達は緊張して硬い表情で私達を──平民出身者の中には初めて見るのであろう王族──エリオス殿下を見ている。
殿下は、私の緊張を解すつもりで私をエスコートするのを羨む眼があると戯けてくれたけれど、皆が見ているのは、名前の通り太陽のように輝かしいエリオス殿下だ。
シャンデリアの灯りを反射して輝く艶のある金髪、涼やかで高い知性を感じさせるアメシストの瞳。
落ち着いた色合いとはいえゴールドの衣装が悪目立ちしないのは、彼自身が光を放っているからだ。
王太子殿下や第三王子殿下よりも、華やかで如何にも民衆が思い描く王族らしいエリオス殿下。
その、王族としての公務、魔法研究者としての学業、高い魔力と知識で取り纏める魔法省直属魔法士師団司令部副長官といった忙しい身で、普段は滅多に夜会や学生プロムには参加されない。
また、特定の夜会にだけ参加すると、王家に親しい家門、覚えのよくない家門などという偏った間違いの認識を持たせるため、公正さを見せる意味でも、王族主催か王城での公式舞踏会にしか参加はしないのだという。
そんなエリオス殿下だけれど、生徒代表委員会主催のプロムだけは、スタッフとして参加し、開会の宣言と閉会の挨拶をされる。
その時の少しの時間だけが、王侯貴族に馴染みのない平民でも王族を間近に見る機会なのだ。
皆、食い入るように、うっとりと、羨望の眼差しで、エリオス殿下を見ていた。
そのおかげで、段々人の眼が気にならなくなってくる。
「今日の参加者の中ではわたし達が一番身分が高い。私達が踊らねば、皆が踊れない。目立つのは苦手なのかもしれないけど。
一曲わたしと踊ってくださいませんか? アァルトネン公爵令嬢エステル・フェリシア」
多くの令嬢達を虜にする笑顔で、自然な動きで手を差し伸べられる。
怖い。恥ずかしい。胸が痛い。指先が冷えてくる。手足も僅かに震える。
それでも、私はアァルトネン一族の主家、アァルトネン公爵令嬢。
ひとたび、夜会やプロムナードに出れば、王族からのダンスの誘いを断ることは出来ない。
踊るのが久し振りで、無様なダンスを踊るかもしれなくても。可能な限り、笑顔で卒なく踊り熟さなければならない。
それは、学生であろうと成人であろうと変わらない。
成人まで二年以上あるとはいえ三年前にデビュタントを済ませ、自発行動責任能力を認められた貴族階級の一員として、あるべき姿を、子供の頃から叩き込まれている。
スッと公爵令嬢の仮面が降りてくる。
正式な作法でダンスに誘う殿下の差し出された手に、公爵令嬢の私は嫋やかな仕草を演出するように、より優雅に見えるように、自らの手をそっと重ねた。
エリオス殿下と参加することになるのなら、セオドア従兄さまにパートナーを頼んだ方が良かったかしら。
プロポーズされたのに返事を返していない手前、お願いしづらかったけれど、殿下と参加するよりはマシだったかもしれない。
と、今ここで後悔しても間に合わないのだけれど。
基本的に、学校内では、教師と生徒、上級生と下級生といった一般的な上下関係はあるものの、貴族階級と、中産階級や平民などの身分差は問わないことになっている。
けれど、このプロムだけは、将来魔法士達が貴族社会との付き合い方の訓練も兼ねているため、貴族のルールが一部適用される。
平民、下級生、下位貴族達が先にホールに入り見守る中、上位貴族家、王族の順に入場、その際に主催側が参加者を読み上げていくという、多くの夜会のルールの通りに開始される。
私は、クレディオス様とも殆ど参加したことはなかったけれど、それでも皆無ではないため、私の家の爵位と婚約者が誰なのかは、貴族名鑑に目を通さない人達にも、ある程度は知られている。
ひとの眼が気になるけれど、エリオス殿下と並ぶだけで見られるのは必至なので、腹を括る。
「エステル、とても綺麗だよ。髪の色が月のように淡いからか、落ち着いたゴールドのドレスがよく映えるし、宝飾品もよく引き立ててる。みんな、エステルをエスコート出来るわたしを、羨ましそうに見てるよ」
そんなはず⋯⋯ 殿下は、お口がお上手なのね。
恥ずかしいけれど、悪い気はしない。
主催者スタッフが殿下の名を読み上げる。
私も、パートナーとして紹介されてしまった。変な噂が立たなければいいけれど。
「大丈夫ですよ。殿下に婚約者がいない⋯⋯いても公表されてないのだし、エステル嬢が殿下の研究室に入ったのは多くの人が知ってます。研究生や教え子の中で、エステル嬢が一番身分が高いのも、スタッフがフルネームで読み上げたので解っているはずです」
殿下の研究チームの中でも古参だというマウリは明るく慰めて(?)くれる。彼もレフティネン侯爵家の四男で、私と同時期にデビュタントしていて、当時からクレディオス様との事を知っている一人だ。
殿下に手をとられ、中二階になった入り口からホールへ、カーペットの敷かれた中央階段を降りていく。
平民出身の生徒達は緊張して硬い表情で私達を──平民出身者の中には初めて見るのであろう王族──エリオス殿下を見ている。
殿下は、私の緊張を解すつもりで私をエスコートするのを羨む眼があると戯けてくれたけれど、皆が見ているのは、名前の通り太陽のように輝かしいエリオス殿下だ。
シャンデリアの灯りを反射して輝く艶のある金髪、涼やかで高い知性を感じさせるアメシストの瞳。
落ち着いた色合いとはいえゴールドの衣装が悪目立ちしないのは、彼自身が光を放っているからだ。
王太子殿下や第三王子殿下よりも、華やかで如何にも民衆が思い描く王族らしいエリオス殿下。
その、王族としての公務、魔法研究者としての学業、高い魔力と知識で取り纏める魔法省直属魔法士師団司令部副長官といった忙しい身で、普段は滅多に夜会や学生プロムには参加されない。
また、特定の夜会にだけ参加すると、王家に親しい家門、覚えのよくない家門などという偏った間違いの認識を持たせるため、公正さを見せる意味でも、王族主催か王城での公式舞踏会にしか参加はしないのだという。
そんなエリオス殿下だけれど、生徒代表委員会主催のプロムだけは、スタッフとして参加し、開会の宣言と閉会の挨拶をされる。
その時の少しの時間だけが、王侯貴族に馴染みのない平民でも王族を間近に見る機会なのだ。
皆、食い入るように、うっとりと、羨望の眼差しで、エリオス殿下を見ていた。
そのおかげで、段々人の眼が気にならなくなってくる。
「今日の参加者の中ではわたし達が一番身分が高い。私達が踊らねば、皆が踊れない。目立つのは苦手なのかもしれないけど。
一曲わたしと踊ってくださいませんか? アァルトネン公爵令嬢エステル・フェリシア」
多くの令嬢達を虜にする笑顔で、自然な動きで手を差し伸べられる。
怖い。恥ずかしい。胸が痛い。指先が冷えてくる。手足も僅かに震える。
それでも、私はアァルトネン一族の主家、アァルトネン公爵令嬢。
ひとたび、夜会やプロムナードに出れば、王族からのダンスの誘いを断ることは出来ない。
踊るのが久し振りで、無様なダンスを踊るかもしれなくても。可能な限り、笑顔で卒なく踊り熟さなければならない。
それは、学生であろうと成人であろうと変わらない。
成人まで二年以上あるとはいえ三年前にデビュタントを済ませ、自発行動責任能力を認められた貴族階級の一員として、あるべき姿を、子供の頃から叩き込まれている。
スッと公爵令嬢の仮面が降りてくる。
正式な作法でダンスに誘う殿下の差し出された手に、公爵令嬢の私は嫋やかな仕草を演出するように、より優雅に見えるように、自らの手をそっと重ねた。
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