死んだ日の朝に巻き戻りしました  ら、溺愛生活がリスタート?

ピコっぴ

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2 あの日の朝に

2‑2 事故を未然に

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     🌪

 馬車の中で、考える。

 私の声が聴こえたかどうかわからないけれど、学校に着いたら、直ぐにでもクレディオス様の研究室に向かわなくては。

 何とか、あの事故を起こさないよう、手を尽くさなくてはならない。

 もしかしたら、私の申し出は彼に聴こえていて、精霊魔法を使えないのにアァルトネン家に婿養子に入る事にコンプレックスがあったとしたら、私のせいで、焦って実験を早める可能性もある。

 それでなくても侯爵家の、高位貴族の殿方が、婚約者とは言え同年代の女に教えを請う事は、矜恃が許さなかったのかもしれない。

 そのコンプレックスと矜恃を、私が刺激してしまったのだとしたら!!

 気持ちは焦るけど、馬車の速度を上げる訳にはいかない。

 速度を上げると砂埃や振動、小石を跳ねたり、車輪が立てる音が、道行く人の迷惑になるし、場合によっては馬車が故障したり、何より馬に負担がかかるだろう。
 馬は生き物で、瞬発的な速度はあっても、持続的に駆け続けられる訳ではない。

 ああ。こういう緊急時に、障害物も距離も関係なく素速く移動できる手段も、何か考えてみよう。
 殿下なら、何かよいアイデアをお持ちかもしれない。

 絵本や童話の魔法使いのように、魔法で移動できないか、考えてみるけれど、焦る気持ちが冷静さを欠き、うまく魔術式を構築できない。

 童話のように、パッと瞬間的に移動するには、風魔法や地魔法、何よりも、今は失われた時魔法や空間魔法が必要だろう。 
 世界を縦横の広さと上下の高さに数値化して、立体的な座標を設定して、二つの地点を結ぶには⋯⋯


 そよと私の頰を撫でるルヴィラ。

 ハッとする。

 瞬間移動は現状不可能でも、たくさんの風霊を集めて、私自身を飛ばすことは出来るはず。

 馬車よりは速いだろう。


 思い立つと直ぐ。

 馬車の窓を開き、御者台のヘンリッキに声をかける。

「度々申し訳ありません。取り急ぎの用があります。今すぐ学校へ参らねばなりません。わたくしはこのまま参りますので、夕刻に迎えをお願いします。用が済み次第、紙飛行機を飛ばしますから、よろしくお願いしますね」

 呆気にとられるヘンリッキを残し、馬車の扉を開け、私を守護する精霊達にお願いしてヽヽヽヽヽ、走る馬車からふわりと浮き上がる。

 貴族の町屋敷街を抜けて城下町に出る橋の検問所の手前で良かった。
 ヘンリッキはそのまま引き返せるし、街の人の眼も少ない。

「エステル!?」

 今朝の当番もセオドア従兄にいさまだったのか、運河の貴族街側で鎧に身を包んで立ち、王立魔法士学校へ向かって上昇を続ける私を見上げていた。

「驚かせて申し訳ありません。取り急ぎの用があります。魔法士学校へ直行するにはこの方が速いので。苦情、叱咤は後ほどお受けします」

 魔法士学校に行く時は、いつもドレスではなく、ゆったりとした幅広のキュロット、編み上げブーツに、ガーターベルトで留めた絹の靴下か膝下までのロングソックスを穿き、幾重にもローブやガウンを重ねて着るので、宙を行っても肌着や素肌が覗き見られる心配はない。

 それでも令嬢としてはかなりはしたない姿とは思うけれど、今は構っていられない。

 私は、身を灼かれ周りは見えていなかったけれど、暴走事故の最も中心に居たはずの術者であるクレディオス様も、私を抱き起こす殿下もそのお姿は美しいままで、怪我をなさっていた様子はなかったけれど、周りの人達に被害がなかったかはわからない。
 あのまま死んでしまったのだろう、あの後の事は記憶にはない。

 なぜ今朝に時間軸が巻き戻っているのか解らないけれど、今回も、被害を最小限に抑えられるとは限らない。

 私がクレディオス様を刺激してしまったのだとしたら、より制御力を失った状態で、更に危険度が上がってしまう可能性もある。

 ああ。先に殿下に相談して、クレディオス様には学校に着いてから声をかけるべきだったのかもしれない。

 気持ちは焦るけれど、精霊達が制御する魔法ゆえに、魔術のように私の気の乱れが大きく魔法の効果に影響することはない。それでも時々、高度が下がったりふらついたりすることはあった。

 蟲や鳥以外が空を飛んでいるとは誰も思わないのだろう、通学路を外れ、一直線に街並みを飛び抜ける私に気づく者は居なかった。

 それでも、生徒達に動揺は広がるだろうし、真似をしようとして事故を起こすといけないので、学校の敷地内に着くと、人目に付きにくい建物の裏の木の蔭にそっと降り立つ。

 でも、この人にはバレていたようだ。

 どこか焦ったような、青い顔をして駆け寄るエリオス殿下。
 かなり近い位置まで駆け寄り、私の手を取る。
 空を飛ぶ姿に心配をかけたのかもしれない。家族でも婚約者でもない男性にしては近過ぎる距離で、突然手を取られたのはドキッとして驚いたけれど二度目だし、あまり聞かない人が空を飛ぶ魔法に驚かせ心配させたのだろうし、振り払う気にはならなかった。

 殿下の手は、私の手を包み込むように大きく、やはり驚きと心配をかけたのだろう、手のひらは温かいのに指先は冷たく、少し震えていた。

「エステル。凄いね。空を飛べるなんて。確かに、わたしも身体を浮かせることは可能で、高度も上げられるけれど、そんなに自由に空を移動することは難しいかな」

 ああ。この人は、なぜこんなに眩しい笑顔を見せるのか。
 飛ぶ姿を見つけるより先に、私の魔力の気配で見つけられたらしい。

「それは、殿下のお身の重量と、殿下の身体と床との距離や空気抵抗、風などを常に計測調整しながら、床からの高度を軸に浮かび上がられるからでしょう」
「なるほど? だけど、その飛行能力があれば、一昨日の晩、自力で抜け出せたのでは?」
「そう言えば、そうですわね。ただ、この飛行は先ほど、急ぐあまりに急に思いついた方法ですからあの時はまだ。それに、あまり頻繁に使って人目に触れると、全身を他人の目に晒すはしたなさと、真似をしようとして事故を起こす生徒達が出て来るでしょうから、自身で確かな魔術式を構築して、検証しながら身につけるまで、見せびらかさない方がよい魔法だと思います」
「確かに。人を見て安易に真似るより、自身で術式を構築すべきだ。
 それよりも、急ぎの用とは?」

 この人を巻き込むべきか、迷いはある。

 でも、私一人では抑えきれないかもしれない。
 クレディオス様の説得に失敗する可能性は高い。

 私が女で、元婚約者であること、婚約解消したばかりで、新しい相手が妹であること。もしかしたら、公爵家にと言うよりはアァルトネン家に婿養子に入る事にコンプレックスがあるかもしれないこと。

 それらのいくつか、あるいは全てが、彼の心を否定的な方向へと導いてしまうかもしれない。

 説得にも、失敗したときの暴走を抑えるにも、殿下の助けは借りなければ。またあのような惨劇を起こすわけにはいかない。

「実は⋯⋯」





    
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