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本章 ―大好きだけどちょっと面倒な人―
25-2
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そう呼ばないと一切返事をしないとでもいうように兄を一度睨みつけたセレナは、そっぽを向いてしまう。ヒューバートは何か叫びながらきれいにセットされているた銀色の髪を両手でぐちゃぐちゃとかき混ぜ下を向いた後、息を吐き出し、再びセレナに向かって笑みをむけた。
「危険な事は止めようね、セリーナ」
「……」
「セリーナ、兄様が迎えに来たんだっ」
「……」
「ほらっ 再会した時はハグするんだろっ」
「………」
「セリーナ、セリーナの大好きなお兄ちゃんだよっ!?」
「………」
「セリ―――ナ?」
「………っ」
“キュルンッ”と効果音が付きそうな感じに、目を丸くして瞬きしながら孤高のイケメンと言われるヒューバートが小首をかしげると、一瞬セレナの肩が揺れた。だが、それを吹き払う様に視線に入ってきた兄から視線をそらしてしまった。
「セリ――――ナ―――ッ!!」
「……」
もう、目線すら合わせない。いつもであれば、可愛い妹との短い逢瀬。愛らしい妹は兄の意向に笑顔で頷いてくれていた。それはもう従順に――。
「っ!! ……アレク何とかしてくれっ!!」
もう耐えられないと、目に涙をためたイケメンがアレクサンドロに切願する。だが、親友ともいえる友人のあまりにも平時と違うおかしな様子にアレクサンドロは呆気に囚われてしまって微動だに出来ていない。初めて目にする友人の一面なのだ。ぽかんと口を開けたままで自分に話が振られた事すら理解してい様子だ。
そんな友人の様子に、小さくつぶやいたヒューバート。
「ちっ……つかえんな…」
低音の囁きに、セレナは大きなため息をつき、見下げた視線を向けた。
「……せっかく、大好きな兄様に会えたと思ったのに、友人を顎で使い……あたしは名前も呼んでもらえないのですね…」
物悲しそうにセレナが顔を伏せると、向かいに座っていた兄の体が大きく揺れた。ワナワナとセレナに向かって中途半端に伸ばした腕が宙で震えている。
「そんな兄様見たくなかった……だぁぁぁい好きな、兄様なのにっ……」
“ゴンっ”
2人の間にある上品な大理石の様なローテーブルにヒューバートは額を打ちつけた。プルプルと体を揺らし、2回、3回そうしてから両手を顔の脇につき、上半身を起こしてヒューバートは身をのり出した。その額は痛々しくも赤く腫れてしまっている。
「セッセレナっ!! セレナだよなっ うんっセレナだっていい名前だっ…」
額を赤く腫れさせ、碧眼に透明な雫を滲ませながらにっこりと微笑むヒューバート。どう取り繕っても残念な人だ。カッチリとキメていた髪型も崩れている。
だがセレナは笑顔を返す。
「フフッ やっと呼んでくれたっ」
さもセレナという存在を認めてもらえてうれしいと、妹はにっこりと笑った。テーブルについている兄の手に妹は自分の手を重ねた。過保護すぎて困る人だが、大好きな兄に変わりないのだ。久しぶりに再会できた事が嬉しくない訳がない。
妹の様子に兄は自然な動作で、重ねられた妹の手を握り返した。いや、捕まえたのだ。
「さぁ帰ろうかっ」
「……だから、帰りませんって」
スッと立ち上がると、痛い程の力で有無を反論は聞かないとばかりに手を引いて連れて行こうとする。話を聞いているようで聞いてくれず暴走するヒューバート。今までのやり取りは丸無視の様だ。
セレナの頭の中の何かがプツリと音を立てた――キレたのだ。
「…兄様は…あたしに生け贄になれと?」
「まさかっ」
そんな訳ないだろうと、兄は繋いだ妹の手をより強く握った。
「では、屋敷に閉じ込められて死ぬまで寂しく孤独に過ごせと?」
「イヤ……」
兄の足が止まった。
「家族すら帰って来ない広い邸にあたし1人。お世話をしてくれる人はいるけれど、対等に接してはくれないわ…友人は従順な星獣だけ…。何処にも行けず、限られた場所から出れず、決まった人しかいない。まるで牢獄のような場所へ…」
「牢獄だなんてっ」
兄が振り返る。その碧眼に大切な妹が映る。前に見た時よりもずっと背が伸びていた。
「確かに、邸では不自由なく暮らさせていただいていたかもしれません。でもそこにあたしの意志はなく、人形の様にただそこに居ただけです……たったそれだけの存在……言いすぎですか?」
「……」
考えているようだ。
「あたしが産まれたせいで、母様は体を弱めて静養にでられた。それはあたしの意志ではないけれど……あたしのせいだから……だから、母様の為に祈ったわ……それがあたしの贖罪なのでしょう?…あたしには、それしか許されていないから…」
「っ……そんなふうに思っていたのかい?」
真っ直ぐと兄を見上げる瑠璃色の大きな目からの視線は、真剣だ。兄に捕まれた手をほどき、ゆったりとソファ―に戻る。
「誰かあたしにそうでないと、教えてくれましたか?
ただそこでジッとしていろとしか言われていなかった…だから疎まれているのだろうと…
皆あたしの為だって言うけれど、いつも一人で、家族とも会えないのが罰ではなくてなんだというのですか?
あたしの為? 誰も何も教えてくれないじゃないっ
そんなの知らないよ……あたしには苦しいだけだった…やっと外に出れたのに…
兄様は、あたしの為だと言って……またあたしを閉じ込めるの?
兄様はもう男爵家には戻って来ないでしょう?
誰も帰って来ない辺境でただ心を殺して、祈り続けなければいけないの?
……だったら……生贄になった方がましかもしれない…あの方だって……」
セレナの言葉は、ある女性を連想させた。ガーランド侯爵家に生まれてしまったがために、人生を翻弄された先代の星獣の姫。その身の運命を知りつつも、争いを起こさない為にその身で受け止め壊れてしまった姫だ。そして、リーベルタスを産んだ女性でもある。
ヒューバートは眉を寄せ、目を見開いた。その碧眼には妹を映しているが、揺れている。
「セリーナ…知って?」
絞り出された兄の言葉に、セレナは首をかしげた。はっきりと明言はしない。先代の星獣の姫カーラについては、皆が自分にひた隠しにして事だから。星獣達ですら、口の重い話だ。
「……何の事だか?
…誰も、何も、あたしには教えてくれないもの…
でもね、兄様……あたしの星の友人たちは何でも知っているの
…彼等はあたしをお姫様と呼ぶのよ?
あたしが聞けば何だって教えてくれるのよ?
あたしには、彼等しか話し相手はいなかったのだもの…問えば何でも耳に入ってくるわ」
「………」
兄に返す言葉は無い。ヒューバートから見て星獣達は、友人だ。だが星獣の姫からすれば、星獣達はただの友人ではないのだろう。自分の意志に添う存在なのだから。対等な友人には成れないのかもしれない。それは本人にしかわからないことだが――。
「お前の負けだヒューイ これ以上姫の意志を無視するなら、オレが全力で阻止するぞ…」
突然目の前に現れたのは、上等な生地で仕立てられた黒の宮廷スーツの上下。黒いいでたちに輝く金色の髪と夜空の様に深い蒼の目の青年は、紳士らしくセレナにかしづくとエスコートの手を差し出した。
「……レオ」
「ただいま戻りました姫…私達は、姫の行きたいところへいつでもお連れしますよ」
国外に赴く兄に付いて行かせていた獅子宮の星獣レオだ。レオはヒューバートに冷たい視線を投げると、手を取ったセレナを立ち上がらせた。そしてその身を金に輝く獅子に変えた。
『背に乗ってください姫。気に食わないが姫が行きたいならルードヴィヒの元へでも送りますよ』
「……ありがとうレオ」
セレナがレオの背に乗ろうとすると、慌ててアレクサンドロが止めた。戻りたいなら転移魔方陣で戻っていいからと。レオの獣の姿が人目につくのは尚早との事だ。レオはアレクサンドロを睨んだが、がっくりと肩をおとした兄の元に残ってほしいとセレナが告げ、渋々だがそれに頷いてくれた。
それに加え、友人に言いたいことがあるというアレクサンドロ。結局セレナはアレクサンドロに見送られ、転移魔方陣を使い一人で魔導騎士団へと戻ることにした。
部屋を出る時に見えた兄は、言葉が見つからないのか口を動かすが声がでていない。それでもセレナを連れ帰る事を諦めていないように見える。そんな兄に向かって妹は、静かに告げ部屋を出た。
「何処にでも行ける兄様にはわからないかもしれないね…でも、あたしはやっと外に出してもらえたのっ
従順な妹でなくてごめんなさい
それでも、たった2年間だけの自由…
…それさえも罪深いあたしは取り上げられなければならないのですか……兄様」
―――――――――――――――――――――――――
カーラの事は、兄を追いつめてるだけで聞いたとは言ってない←
本当は、周りの雰囲気で何となく何かがあったと察しているだけ。
纏まりなくてすみません。
文才が欲しい毎日です..._(┐「ε:)_
さて兄様はどう打って出るか…な…?
「危険な事は止めようね、セリーナ」
「……」
「セリーナ、兄様が迎えに来たんだっ」
「……」
「ほらっ 再会した時はハグするんだろっ」
「………」
「セリーナ、セリーナの大好きなお兄ちゃんだよっ!?」
「………」
「セリ―――ナ?」
「………っ」
“キュルンッ”と効果音が付きそうな感じに、目を丸くして瞬きしながら孤高のイケメンと言われるヒューバートが小首をかしげると、一瞬セレナの肩が揺れた。だが、それを吹き払う様に視線に入ってきた兄から視線をそらしてしまった。
「セリ――――ナ―――ッ!!」
「……」
もう、目線すら合わせない。いつもであれば、可愛い妹との短い逢瀬。愛らしい妹は兄の意向に笑顔で頷いてくれていた。それはもう従順に――。
「っ!! ……アレク何とかしてくれっ!!」
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そんな友人の様子に、小さくつぶやいたヒューバート。
「ちっ……つかえんな…」
低音の囁きに、セレナは大きなため息をつき、見下げた視線を向けた。
「……せっかく、大好きな兄様に会えたと思ったのに、友人を顎で使い……あたしは名前も呼んでもらえないのですね…」
物悲しそうにセレナが顔を伏せると、向かいに座っていた兄の体が大きく揺れた。ワナワナとセレナに向かって中途半端に伸ばした腕が宙で震えている。
「そんな兄様見たくなかった……だぁぁぁい好きな、兄様なのにっ……」
“ゴンっ”
2人の間にある上品な大理石の様なローテーブルにヒューバートは額を打ちつけた。プルプルと体を揺らし、2回、3回そうしてから両手を顔の脇につき、上半身を起こしてヒューバートは身をのり出した。その額は痛々しくも赤く腫れてしまっている。
「セッセレナっ!! セレナだよなっ うんっセレナだっていい名前だっ…」
額を赤く腫れさせ、碧眼に透明な雫を滲ませながらにっこりと微笑むヒューバート。どう取り繕っても残念な人だ。カッチリとキメていた髪型も崩れている。
だがセレナは笑顔を返す。
「フフッ やっと呼んでくれたっ」
さもセレナという存在を認めてもらえてうれしいと、妹はにっこりと笑った。テーブルについている兄の手に妹は自分の手を重ねた。過保護すぎて困る人だが、大好きな兄に変わりないのだ。久しぶりに再会できた事が嬉しくない訳がない。
妹の様子に兄は自然な動作で、重ねられた妹の手を握り返した。いや、捕まえたのだ。
「さぁ帰ろうかっ」
「……だから、帰りませんって」
スッと立ち上がると、痛い程の力で有無を反論は聞かないとばかりに手を引いて連れて行こうとする。話を聞いているようで聞いてくれず暴走するヒューバート。今までのやり取りは丸無視の様だ。
セレナの頭の中の何かがプツリと音を立てた――キレたのだ。
「…兄様は…あたしに生け贄になれと?」
「まさかっ」
そんな訳ないだろうと、兄は繋いだ妹の手をより強く握った。
「では、屋敷に閉じ込められて死ぬまで寂しく孤独に過ごせと?」
「イヤ……」
兄の足が止まった。
「家族すら帰って来ない広い邸にあたし1人。お世話をしてくれる人はいるけれど、対等に接してはくれないわ…友人は従順な星獣だけ…。何処にも行けず、限られた場所から出れず、決まった人しかいない。まるで牢獄のような場所へ…」
「牢獄だなんてっ」
兄が振り返る。その碧眼に大切な妹が映る。前に見た時よりもずっと背が伸びていた。
「確かに、邸では不自由なく暮らさせていただいていたかもしれません。でもそこにあたしの意志はなく、人形の様にただそこに居ただけです……たったそれだけの存在……言いすぎですか?」
「……」
考えているようだ。
「あたしが産まれたせいで、母様は体を弱めて静養にでられた。それはあたしの意志ではないけれど……あたしのせいだから……だから、母様の為に祈ったわ……それがあたしの贖罪なのでしょう?…あたしには、それしか許されていないから…」
「っ……そんなふうに思っていたのかい?」
真っ直ぐと兄を見上げる瑠璃色の大きな目からの視線は、真剣だ。兄に捕まれた手をほどき、ゆったりとソファ―に戻る。
「誰かあたしにそうでないと、教えてくれましたか?
ただそこでジッとしていろとしか言われていなかった…だから疎まれているのだろうと…
皆あたしの為だって言うけれど、いつも一人で、家族とも会えないのが罰ではなくてなんだというのですか?
あたしの為? 誰も何も教えてくれないじゃないっ
そんなの知らないよ……あたしには苦しいだけだった…やっと外に出れたのに…
兄様は、あたしの為だと言って……またあたしを閉じ込めるの?
兄様はもう男爵家には戻って来ないでしょう?
誰も帰って来ない辺境でただ心を殺して、祈り続けなければいけないの?
……だったら……生贄になった方がましかもしれない…あの方だって……」
セレナの言葉は、ある女性を連想させた。ガーランド侯爵家に生まれてしまったがために、人生を翻弄された先代の星獣の姫。その身の運命を知りつつも、争いを起こさない為にその身で受け止め壊れてしまった姫だ。そして、リーベルタスを産んだ女性でもある。
ヒューバートは眉を寄せ、目を見開いた。その碧眼には妹を映しているが、揺れている。
「セリーナ…知って?」
絞り出された兄の言葉に、セレナは首をかしげた。はっきりと明言はしない。先代の星獣の姫カーラについては、皆が自分にひた隠しにして事だから。星獣達ですら、口の重い話だ。
「……何の事だか?
…誰も、何も、あたしには教えてくれないもの…
でもね、兄様……あたしの星の友人たちは何でも知っているの
…彼等はあたしをお姫様と呼ぶのよ?
あたしが聞けば何だって教えてくれるのよ?
あたしには、彼等しか話し相手はいなかったのだもの…問えば何でも耳に入ってくるわ」
「………」
兄に返す言葉は無い。ヒューバートから見て星獣達は、友人だ。だが星獣の姫からすれば、星獣達はただの友人ではないのだろう。自分の意志に添う存在なのだから。対等な友人には成れないのかもしれない。それは本人にしかわからないことだが――。
「お前の負けだヒューイ これ以上姫の意志を無視するなら、オレが全力で阻止するぞ…」
突然目の前に現れたのは、上等な生地で仕立てられた黒の宮廷スーツの上下。黒いいでたちに輝く金色の髪と夜空の様に深い蒼の目の青年は、紳士らしくセレナにかしづくとエスコートの手を差し出した。
「……レオ」
「ただいま戻りました姫…私達は、姫の行きたいところへいつでもお連れしますよ」
国外に赴く兄に付いて行かせていた獅子宮の星獣レオだ。レオはヒューバートに冷たい視線を投げると、手を取ったセレナを立ち上がらせた。そしてその身を金に輝く獅子に変えた。
『背に乗ってください姫。気に食わないが姫が行きたいならルードヴィヒの元へでも送りますよ』
「……ありがとうレオ」
セレナがレオの背に乗ろうとすると、慌ててアレクサンドロが止めた。戻りたいなら転移魔方陣で戻っていいからと。レオの獣の姿が人目につくのは尚早との事だ。レオはアレクサンドロを睨んだが、がっくりと肩をおとした兄の元に残ってほしいとセレナが告げ、渋々だがそれに頷いてくれた。
それに加え、友人に言いたいことがあるというアレクサンドロ。結局セレナはアレクサンドロに見送られ、転移魔方陣を使い一人で魔導騎士団へと戻ることにした。
部屋を出る時に見えた兄は、言葉が見つからないのか口を動かすが声がでていない。それでもセレナを連れ帰る事を諦めていないように見える。そんな兄に向かって妹は、静かに告げ部屋を出た。
「何処にでも行ける兄様にはわからないかもしれないね…でも、あたしはやっと外に出してもらえたのっ
従順な妹でなくてごめんなさい
それでも、たった2年間だけの自由…
…それさえも罪深いあたしは取り上げられなければならないのですか……兄様」
―――――――――――――――――――――――――
カーラの事は、兄を追いつめてるだけで聞いたとは言ってない←
本当は、周りの雰囲気で何となく何かがあったと察しているだけ。
纏まりなくてすみません。
文才が欲しい毎日です..._(┐「ε:)_
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