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本章 ――魔導騎士団の見習い団員――
13-3
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では後で手紙を書きますとセレナが伝えると、アレクサンドロもホッとしたようだ。溜息のように小さく「これで生命の危機は脱した」と言ったような気がするが、セレナは聞こえなかった事にした。いや、聞こえなかったのだ。うん。
「まぁ、あと数日もすればあいつも隣国を回ることになるだろうから」
「…え?」
アレクサンドロの口から漏れた情報に、セレナの顔が曇る。
「あぁ急に決まったから、聞いていないのか…ヒューはカークス公が行っている外務の仕事を引き継ぐことになったんだ。カークス公が受け持つ前は元々ガーランドの仕事だったしね」
「……お父様の地位が低いから、リーベル叔父が引き受けてくださったお仕事ですよね…」
――元々ガーランドのお仕事だったことは知ってるけど…
――でも、こんなに早くヒュー兄様が引き継ぐなんて聞いてない
――忙しく、隣国を回るなんて……
――そんなの知らないしっ
小さい頃から屋敷に訪れてくれるリーベルタスの仕事の事はなんとなく知っていた。その仕事が父と母の婚姻で、一番のネックになった事案だった事も。セレナの父であるバーナードを男爵位に持ってくるのはいいとして、男爵位の者が外交を一手に引き受けることは難しかった。担当が侯爵から男爵になれば、他国が軽く見られていると言ってくる可能性もある。苦言を言ってこなくても、やはり心証が悪いのだ。
そこで白羽の矢がたったのが、産まれた時から公爵位を与えられていて、幼い頃からガーランド現公爵本人に外交を叩き込まれていたらしいリーベルタスだ。リーベルタスは自分がやるのがちょうどいいとは言っていた。だが、その仕事が自分の兄の代で戻ってくることになるとはセレナの考え及んでいない事だった。
「……ルイスは騎士になっちまったし、ルードヴィヒとして爵位が継げるのかもどうかってとこだろ まぁどっちにしろ、外交は継げないと判断されたんだろうよ…それに、ヒューは優秀だかんなっ」
何の疑いもなくセレナは大きく頷いた。その様子にアレクサンドロは片眉をもちあげ、口の端がニヤリと歪む。
――うん 兄様が優秀なのは知ってるし…
――それにしても……確かにルーは外交に向いてないけど…
――ん? 向いてないから、ルーにとってもいいのかな?
――家族以外には無口だし…
――そもそも喋らないから、無言のごり押しは出来ても、交渉できないもんね…
「まぁ、確かにルーにはむかないですね…外交なんて…」
ハハハと渇いた笑みをこぼせば、隣の部屋でガタンと音がする。どうやら問題のルイス君はお昼寝から目が覚めていたようだ。奥の部屋へと続く扉は開いたままなので、こちらの会話もあちらの音も筒抜けてしまっているようだ。まぁ、そのうち出てくるだろう。
――本当の事だもん……しょうが無いでしょ?
――起きたんなら…、アレクさんが持ってきてくれた家具、動かしてもらおっと
扉に向いていた視線をテーブルの前のアレクサンドロに戻すと、待ってましたとばかりにその薄い口が動いた。
「まぁ、そんな訳で出立する前迄には手紙を、頼むな……それと…… 先程、城壁内の敷地で大きな魔力の揺れを感じたんだが……」
「えと……」
どことなくアレクサンドロからの言葉に圧がかかっている。思い当たる節があるセレナの額にうっすらと汗がにじむ。チラリと視線が開いているドアに向かってしまう。
――やっぱりまずかった!?
「……セレナにはまだ教えていなかったが、 訓練所は午前中訓練で使用する以外は空いていればいれば使っていいんだが、その際には報告が必要なんだ。 特に魔導騎士団の連中はね」
「……へぇ…」
圧はあるが怒っていない様子のアレクサンドロの話に、セレナは相槌を打つ。
「訓練中に使用する魔法で害が出ないように結界を張ってもらうんだ。うっかり王城を破壊してしまったら困るだろ?」
「……それは、そうですね」
確かにそうだが、そんなに軽く言う位簡単に何処よりも頑丈で在ろう王城は壊れてしまうのだろうか。
――確かにルーみたいのが揃っているのが魔導騎士団なら…簡単に壊しちゃうのかな!?
――アレクさんも、簡単に王城壊せるのかな…
アレクの翡翠の目をまっすぐと見ていられなくてセレナは目線を泳がせた。
「あれは、炎と風の魔法だねきっと。大きな火柱が上がっただろうね……何か、知ってるかな? セレナ」
「うぅ……ごめんなさいっ」
――あっ…やっぱりお説教なんだ…
ここはもう平謝りするしかないだろう。セレナはテーブルに両手をついてそこにおでこがつく位、勢いよく頭を下げた。その様子にアレクサンドロの頬も緩む。
「くくっ……潔いね…イヤまぁ、 セレナは知らなかったんだしな。それに、何の証拠も残ってないから……」
「じゃあいいじゃねえかっ いちいちうっせんだよ」
奥の部屋からいつのまにか出てきてセレナの背後に立っていたルイスが、不機嫌顔でアレクサンドロを見下ろしている。
「イヤイヤ、お前は知ってたんだからちゃんとしろよ」
「めんどくせー」
「ちょっ ルー!?」
ルイスの太々しい態度に、セレナの頬がほんのり膨らんだ。正面に座っているアレクサンドロは気が付いているようだが、背後にいるルイスは気が付いてはいないだろう。
「お前がそんな調子じゃ、セレナと組ませられねえぞっ」
「なんでだよっ!!」
「お前の悪さがセレナにも連帯責任になっちまうだろ…ヒューに殺される……」
「……」
いいながら、顔の色が無くなるアレクサンドロ。セレナの背後にいるルイスも無言になった。
――だからヒュー兄様…
――あたしのいないところで、いったい何してるの……?
困った様な戸惑った様な、何とも言えない表情を見せるセレナ。その様子にアレクサンドロは小さく息を吐く。
「…脅しはこれくらいで……君の妖精についても、どの程度まで話を通しておくか団長と相談しておく必要がありそうだね……それと魔導騎士団員となったからにはセレナ、明朝7時からの訓練にも参加してもらう………ほんと…、いい子にしててな……ルイスもだかんなっ」
なんとも哀愁を帯びた微笑を残して、アレクサンドロはセレナの部屋を後にした。
*
アレクサンドロが持ってきてくれたカタログはベッドの冊子で、選んで申請するらしい。カタログの中を見れば、一般用・長身用・低身用・重量級用・獣人用・獣用の他、ハンモックなどもあるようだ。使役している魔獣がいる者などは複数購入する場合もあるらしい。入居時に頼む分は騎士団もちで、追加分からは給与から引かれるらしい。
ルイスや、スピカやシリウスと相談しながら何点か選んで、申請を出すことにした。
気が付くと陽が傾いていて、生活に必要なものを最低限購入する為に慌てて街へ降りた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
予定と狂っちゃいまして、街デートを挟んで入団の日が終わります~
まとまりなくて内容なくてすみません``
ふたりの…街デートは、14話へ続く…
「まぁ、あと数日もすればあいつも隣国を回ることになるだろうから」
「…え?」
アレクサンドロの口から漏れた情報に、セレナの顔が曇る。
「あぁ急に決まったから、聞いていないのか…ヒューはカークス公が行っている外務の仕事を引き継ぐことになったんだ。カークス公が受け持つ前は元々ガーランドの仕事だったしね」
「……お父様の地位が低いから、リーベル叔父が引き受けてくださったお仕事ですよね…」
――元々ガーランドのお仕事だったことは知ってるけど…
――でも、こんなに早くヒュー兄様が引き継ぐなんて聞いてない
――忙しく、隣国を回るなんて……
――そんなの知らないしっ
小さい頃から屋敷に訪れてくれるリーベルタスの仕事の事はなんとなく知っていた。その仕事が父と母の婚姻で、一番のネックになった事案だった事も。セレナの父であるバーナードを男爵位に持ってくるのはいいとして、男爵位の者が外交を一手に引き受けることは難しかった。担当が侯爵から男爵になれば、他国が軽く見られていると言ってくる可能性もある。苦言を言ってこなくても、やはり心証が悪いのだ。
そこで白羽の矢がたったのが、産まれた時から公爵位を与えられていて、幼い頃からガーランド現公爵本人に外交を叩き込まれていたらしいリーベルタスだ。リーベルタスは自分がやるのがちょうどいいとは言っていた。だが、その仕事が自分の兄の代で戻ってくることになるとはセレナの考え及んでいない事だった。
「……ルイスは騎士になっちまったし、ルードヴィヒとして爵位が継げるのかもどうかってとこだろ まぁどっちにしろ、外交は継げないと判断されたんだろうよ…それに、ヒューは優秀だかんなっ」
何の疑いもなくセレナは大きく頷いた。その様子にアレクサンドロは片眉をもちあげ、口の端がニヤリと歪む。
――うん 兄様が優秀なのは知ってるし…
――それにしても……確かにルーは外交に向いてないけど…
――ん? 向いてないから、ルーにとってもいいのかな?
――家族以外には無口だし…
――そもそも喋らないから、無言のごり押しは出来ても、交渉できないもんね…
「まぁ、確かにルーにはむかないですね…外交なんて…」
ハハハと渇いた笑みをこぼせば、隣の部屋でガタンと音がする。どうやら問題のルイス君はお昼寝から目が覚めていたようだ。奥の部屋へと続く扉は開いたままなので、こちらの会話もあちらの音も筒抜けてしまっているようだ。まぁ、そのうち出てくるだろう。
――本当の事だもん……しょうが無いでしょ?
――起きたんなら…、アレクさんが持ってきてくれた家具、動かしてもらおっと
扉に向いていた視線をテーブルの前のアレクサンドロに戻すと、待ってましたとばかりにその薄い口が動いた。
「まぁ、そんな訳で出立する前迄には手紙を、頼むな……それと…… 先程、城壁内の敷地で大きな魔力の揺れを感じたんだが……」
「えと……」
どことなくアレクサンドロからの言葉に圧がかかっている。思い当たる節があるセレナの額にうっすらと汗がにじむ。チラリと視線が開いているドアに向かってしまう。
――やっぱりまずかった!?
「……セレナにはまだ教えていなかったが、 訓練所は午前中訓練で使用する以外は空いていればいれば使っていいんだが、その際には報告が必要なんだ。 特に魔導騎士団の連中はね」
「……へぇ…」
圧はあるが怒っていない様子のアレクサンドロの話に、セレナは相槌を打つ。
「訓練中に使用する魔法で害が出ないように結界を張ってもらうんだ。うっかり王城を破壊してしまったら困るだろ?」
「……それは、そうですね」
確かにそうだが、そんなに軽く言う位簡単に何処よりも頑丈で在ろう王城は壊れてしまうのだろうか。
――確かにルーみたいのが揃っているのが魔導騎士団なら…簡単に壊しちゃうのかな!?
――アレクさんも、簡単に王城壊せるのかな…
アレクの翡翠の目をまっすぐと見ていられなくてセレナは目線を泳がせた。
「あれは、炎と風の魔法だねきっと。大きな火柱が上がっただろうね……何か、知ってるかな? セレナ」
「うぅ……ごめんなさいっ」
――あっ…やっぱりお説教なんだ…
ここはもう平謝りするしかないだろう。セレナはテーブルに両手をついてそこにおでこがつく位、勢いよく頭を下げた。その様子にアレクサンドロの頬も緩む。
「くくっ……潔いね…イヤまぁ、 セレナは知らなかったんだしな。それに、何の証拠も残ってないから……」
「じゃあいいじゃねえかっ いちいちうっせんだよ」
奥の部屋からいつのまにか出てきてセレナの背後に立っていたルイスが、不機嫌顔でアレクサンドロを見下ろしている。
「イヤイヤ、お前は知ってたんだからちゃんとしろよ」
「めんどくせー」
「ちょっ ルー!?」
ルイスの太々しい態度に、セレナの頬がほんのり膨らんだ。正面に座っているアレクサンドロは気が付いているようだが、背後にいるルイスは気が付いてはいないだろう。
「お前がそんな調子じゃ、セレナと組ませられねえぞっ」
「なんでだよっ!!」
「お前の悪さがセレナにも連帯責任になっちまうだろ…ヒューに殺される……」
「……」
いいながら、顔の色が無くなるアレクサンドロ。セレナの背後にいるルイスも無言になった。
――だからヒュー兄様…
――あたしのいないところで、いったい何してるの……?
困った様な戸惑った様な、何とも言えない表情を見せるセレナ。その様子にアレクサンドロは小さく息を吐く。
「…脅しはこれくらいで……君の妖精についても、どの程度まで話を通しておくか団長と相談しておく必要がありそうだね……それと魔導騎士団員となったからにはセレナ、明朝7時からの訓練にも参加してもらう………ほんと…、いい子にしててな……ルイスもだかんなっ」
なんとも哀愁を帯びた微笑を残して、アレクサンドロはセレナの部屋を後にした。
*
アレクサンドロが持ってきてくれたカタログはベッドの冊子で、選んで申請するらしい。カタログの中を見れば、一般用・長身用・低身用・重量級用・獣人用・獣用の他、ハンモックなどもあるようだ。使役している魔獣がいる者などは複数購入する場合もあるらしい。入居時に頼む分は騎士団もちで、追加分からは給与から引かれるらしい。
ルイスや、スピカやシリウスと相談しながら何点か選んで、申請を出すことにした。
気が付くと陽が傾いていて、生活に必要なものを最低限購入する為に慌てて街へ降りた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
予定と狂っちゃいまして、街デートを挟んで入団の日が終わります~
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ふたりの…街デートは、14話へ続く…
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