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閑話①
閑話ー父と母ー
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「そう……」
そう言ったきりソフィアはベッドの上で身動きもせず、押し黙ってしまった。
窓の外に目を向け、どこを見るでもなく遠くを見ている瑠璃色の目。窓から差し込む光に薄い銀色の髪がキラキラと輝いて見える。年を重ねても尚、まるで妖精のように美しい妻。
――この妻に望まれた時は天にも昇る心地と共に、現状に絶望しかけたこともある
――だが、妻を手に入れるために私はどんな努力でもした
――いや 今でも努力し続けていると思う
――最愛の妻が手から零れ落ちない様に…
「あの子は、君にそっくりだよ」
寂しそうな横顔にふと声をかけてしまった。弾かれたように振り向いた妻の顔は、優しく笑っていた。
――妖精のような見た目に反して、現実を見据える力を持ち、
――信じた道を突き進む強さを持っている
――本当に、リーナはソフィーによく似たものだ…特に内面が
ベッドの上から白く細い腕がパタパタと私を呼ぶ。愛しの妻の微笑と白い腕に呼ばれ、簡単に引き寄せられた私はその傍らに座った。ベッドのスプリングがギシリと 音を立て己の肩に妻の頭が倒れてくる。
「あなたとの娘ですものっ」
倒れかかってきたままの銀色の頭を、肩から回した手で撫でた。
「では、私にも少しは似ているのかな? 」
「そうね…あなたの行動力はそのままセリーナへと受け継がれていると思うわ」
「いいや、あの子の行動力は君譲りだろう? 」
「そうかしら…? 」
「そうだよ。笑顔の可愛らしさも、ものを捉える聡明さも、自分の頭で考えられる賢さも、人を大切にする優しさも、あの子は君によく似ている」
「それは、困ったわっ」
「なぜだい? 私はうれしいがね」
「私に似すぎていたら……」
「ガーランドの呪いかい?」
「フフッ 違うわよっ リーナはそんな呪いに負けないわっ ただ、貴方を盗られちゃうかなって…フフッ」
フフフッと、 花が咲くようにソフィアは笑う。その頭を優しく撫でながら、バーナードもクツクツと笑った。めったに見せない優しい顔で。
「君に、会いたがっていたよ」
「……私だって、会いたいわっ それに、力一杯抱き締めてあげたいわっ」
「何あと2年もすれば堂々と会うことができるさ」
「だと、いいのだけれど……なんだかあっという間にお嫁さんに行っちゃいそうで……ふぅ」
「っ!! そうならない為だろう? こうすれば、リーナに呪いは効かないって君も言ったばかりじゃないかっ」
急に声を荒げたバーナードの空を写し取った様な碧眼に、ソフィアのおかしそうに笑う姿が映る。
「だって……あっという間に、好きな人と結ばれてしまうかもしれないわよ?」
「……早いだろう、いくら何でもっ」
節くれだった大きな手で自身の金髪をガリガリと掻き回すと、バーナードはすがる様にソフィアの肩を引き寄せた。ソフィアは抗う事なくバーナードの肩に銀色の頭を乗せ、楽しそうに笑う。
「あら、わたしはリーナの年にはあなたの子を身篭っていたけれど?」
「そっそれは君と、リーベルがっ」
慌てだす昔とちっとも変わらない年上の夫に、ソフィアは嬉しそうにほほ笑んだ。
「いいじゃない そのおかげで、かけがえの無いものを得たのよ 私たちはっ」
「……そうだな」
「ねぇ、」
「なんだい? 」
窓から入ってくる優しい風が、飾りもなく背に逃されている銀色の髪をふわりと揺らす。浮いた髪を押さえながら、思いついた様にソフィアが目を細めてバーナードを見た。
「いい天気ねっ」
「……少し、外に出ようか?」
頷くとともに、心得ているとばかりにバーナードが、ソフィアの細く軽い体をフワリと抱え上げた。首に細く白い腕が回されると、片腕でソフィアの身体を支えながらバーナードは庭へと続くドアを押し開けた。腕の中で楽しそうな声があがると、バーナードはしっかりと優しく愛する妻を抱きしめながら歩く。
「ねぇ、バーナード。わたしを諦めないでくれてありがとうっ」
「…君も、私を諦めないでくれて、その上、大切な家族を、ありがとう」
バーナードの首にまわっている白い手に力が入る。それに応える様にバーナードは銀色の髪に頬擦りした。
「リーナは大丈夫よっ 強い味方も付いてるし、あの子は運がいいものっ 良き人を惹きつけるわ」
「確かにリーナは強くなったな」
「そう ヒューイも立派な大人になっているしね バーナードも負けないように頑張らないとねっ」
「まだまだ負けないつもりだが……確かに、私たちの子はいい子に育っているね」
ムムッとほんの少し眉間に皺を寄せたバーナード。ソフィアはその様子を気にすることなく微笑んでいる。
「ヒューイも、リーナも健康に育ってくれて、嬉しいわ」
「そうだなっ」
愛しい妻の穏やかな微笑みに、バーナードも顔の力を抜いて微笑んだ。
「……うちの子供達は、2人とも優秀すぎて私もうかうかしてられないな」
2人は寄り添い合ったまま、当たり前のように静かに語り合っている。これがいつもの光景なのだろう。
「リーナの産む子供も、かわいいでしょうねっ」
「だから、まだ早いってっ!!!!」
――――――――――――――――――――――
セリーナ(セレナ)のパパママのお話でした。
パパとママのお話も、いつかかけたらいいなぁって思ってます。
来週から、次章に移りたいと思ってます。よろしくです。
そう言ったきりソフィアはベッドの上で身動きもせず、押し黙ってしまった。
窓の外に目を向け、どこを見るでもなく遠くを見ている瑠璃色の目。窓から差し込む光に薄い銀色の髪がキラキラと輝いて見える。年を重ねても尚、まるで妖精のように美しい妻。
――この妻に望まれた時は天にも昇る心地と共に、現状に絶望しかけたこともある
――だが、妻を手に入れるために私はどんな努力でもした
――いや 今でも努力し続けていると思う
――最愛の妻が手から零れ落ちない様に…
「あの子は、君にそっくりだよ」
寂しそうな横顔にふと声をかけてしまった。弾かれたように振り向いた妻の顔は、優しく笑っていた。
――妖精のような見た目に反して、現実を見据える力を持ち、
――信じた道を突き進む強さを持っている
――本当に、リーナはソフィーによく似たものだ…特に内面が
ベッドの上から白く細い腕がパタパタと私を呼ぶ。愛しの妻の微笑と白い腕に呼ばれ、簡単に引き寄せられた私はその傍らに座った。ベッドのスプリングがギシリと 音を立て己の肩に妻の頭が倒れてくる。
「あなたとの娘ですものっ」
倒れかかってきたままの銀色の頭を、肩から回した手で撫でた。
「では、私にも少しは似ているのかな? 」
「そうね…あなたの行動力はそのままセリーナへと受け継がれていると思うわ」
「いいや、あの子の行動力は君譲りだろう? 」
「そうかしら…? 」
「そうだよ。笑顔の可愛らしさも、ものを捉える聡明さも、自分の頭で考えられる賢さも、人を大切にする優しさも、あの子は君によく似ている」
「それは、困ったわっ」
「なぜだい? 私はうれしいがね」
「私に似すぎていたら……」
「ガーランドの呪いかい?」
「フフッ 違うわよっ リーナはそんな呪いに負けないわっ ただ、貴方を盗られちゃうかなって…フフッ」
フフフッと、 花が咲くようにソフィアは笑う。その頭を優しく撫でながら、バーナードもクツクツと笑った。めったに見せない優しい顔で。
「君に、会いたがっていたよ」
「……私だって、会いたいわっ それに、力一杯抱き締めてあげたいわっ」
「何あと2年もすれば堂々と会うことができるさ」
「だと、いいのだけれど……なんだかあっという間にお嫁さんに行っちゃいそうで……ふぅ」
「っ!! そうならない為だろう? こうすれば、リーナに呪いは効かないって君も言ったばかりじゃないかっ」
急に声を荒げたバーナードの空を写し取った様な碧眼に、ソフィアのおかしそうに笑う姿が映る。
「だって……あっという間に、好きな人と結ばれてしまうかもしれないわよ?」
「……早いだろう、いくら何でもっ」
節くれだった大きな手で自身の金髪をガリガリと掻き回すと、バーナードはすがる様にソフィアの肩を引き寄せた。ソフィアは抗う事なくバーナードの肩に銀色の頭を乗せ、楽しそうに笑う。
「あら、わたしはリーナの年にはあなたの子を身篭っていたけれど?」
「そっそれは君と、リーベルがっ」
慌てだす昔とちっとも変わらない年上の夫に、ソフィアは嬉しそうにほほ笑んだ。
「いいじゃない そのおかげで、かけがえの無いものを得たのよ 私たちはっ」
「……そうだな」
「ねぇ、」
「なんだい? 」
窓から入ってくる優しい風が、飾りもなく背に逃されている銀色の髪をふわりと揺らす。浮いた髪を押さえながら、思いついた様にソフィアが目を細めてバーナードを見た。
「いい天気ねっ」
「……少し、外に出ようか?」
頷くとともに、心得ているとばかりにバーナードが、ソフィアの細く軽い体をフワリと抱え上げた。首に細く白い腕が回されると、片腕でソフィアの身体を支えながらバーナードは庭へと続くドアを押し開けた。腕の中で楽しそうな声があがると、バーナードはしっかりと優しく愛する妻を抱きしめながら歩く。
「ねぇ、バーナード。わたしを諦めないでくれてありがとうっ」
「…君も、私を諦めないでくれて、その上、大切な家族を、ありがとう」
バーナードの首にまわっている白い手に力が入る。それに応える様にバーナードは銀色の髪に頬擦りした。
「リーナは大丈夫よっ 強い味方も付いてるし、あの子は運がいいものっ 良き人を惹きつけるわ」
「確かにリーナは強くなったな」
「そう ヒューイも立派な大人になっているしね バーナードも負けないように頑張らないとねっ」
「まだまだ負けないつもりだが……確かに、私たちの子はいい子に育っているね」
ムムッとほんの少し眉間に皺を寄せたバーナード。ソフィアはその様子を気にすることなく微笑んでいる。
「ヒューイも、リーナも健康に育ってくれて、嬉しいわ」
「そうだなっ」
愛しい妻の穏やかな微笑みに、バーナードも顔の力を抜いて微笑んだ。
「……うちの子供達は、2人とも優秀すぎて私もうかうかしてられないな」
2人は寄り添い合ったまま、当たり前のように静かに語り合っている。これがいつもの光景なのだろう。
「リーナの産む子供も、かわいいでしょうねっ」
「だから、まだ早いってっ!!!!」
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セリーナ(セレナ)のパパママのお話でした。
パパとママのお話も、いつかかけたらいいなぁって思ってます。
来週から、次章に移りたいと思ってます。よろしくです。
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