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序章
6、相変わらずな幼馴染
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「ロロ、待ち合わせの時間まで後どれくらい? 」
『約束の時間まで、残り2分程ですロロ』
差し迫った残りの時間に、思わず息を飲んだ。片手は懐中時計を握ったまま、急いでもう片方の手でカバンの取っ手を持ち走り出した。ここまで来た道を走って露店の並ぶ通りまで戻ると、今度は来た道とは逆に急ぐ。その間も片手に握る懐中時計からカウントダウンが聞こえてくる。
――あんもうっ
――自分で指定した時間に遅れるとかあり得ないからっ
娘の視界の先には、石の土台に丸太の柱と薄いオレンジ色の土壁、板張りの屋根が目立つように真っ赤に塗られ、街の名前である『ラウルス』とデカデカと書かれた看板が掲げられているて建物が見えた。街を囲む魔物侵入防止の外壁を抜け、魔導列車が他の街とを行き来する為に設けられた駅である。
幸い近い位置にいた為なんとか時間前に到着できそうだが、もしかしたら先に着いた相手を待たしてしまったかもと、さっと駅周辺を見渡すが、目的の人物らしき姿は見当たらない。念の為、スピカにも空から確認してもらった。
『いる?』
『まだみたいよっ』
空に上って見渡してくれていたスピカが静かに娘の肩に舞い戻った。
『じゃあ、次の魔導列車かな~っ』
『どうかしらね? あの子は自由な子だから…』
相手があの子じゃしょうがないと、哀れみにも諦めにも似たスピカの言い回しにクスリと娘の顔に笑みが湧いた。今日、この時間を指定して待ち合わせたのは娘の方である。待ち合わせ相手の都合など聞いてはいないし、相手が時間通りに現れる気もしないが、呼びつけたからには、娘自身は遅れたくはないものなのだろう。
赤い屋根の駅に向かって走る娘の、一束に束ねられた金髪が揺れる。少し上がった息を整えながら銀の懐中時計に残り時間を聞くと、約束のギリギリ前だった。
『残り7秒……間に合いましたロロ』
「っ…まに…あった……ぁ…はぁはぁ」
ゆっくりと鼻から吸った息を肺に溜め、口から吐き出す。それを何回か繰り返して息を整えていると、ちょうど入ってきた魔導列車から降りてきたらしい人達が改札を出てきた。その人達を、娘はじっと見つめる。
――……えぇぇっ!!
――いないじゃんっ……
どうやら、お目当ての人物は今来た列車には乗っていなかったようだ。娘の柔らかそうな頬が、ぷくりと膨らむ。
――はぁ……
待合せに現れない相手である娘の幼馴染は、いつだって予想の斜め上を突っ切ってしまう人物なのだ。出会いは娘の母親を訪ねてやってきた母親の兄のような存在の従兄の息子。つまりは娘のハトコとして出会った。ヤンチャで、5分もじっとしていられない子だった。そのくせ怖がりでどこに行くにも、幼かった娘の手を引いて連れまわすのだ。幼い2人で星獣の森の中をたくさん探検したのは、娘にとってかけがえのない楽しい思い出だ。娘が得意とする占星魔法をつかった処を見た事のある数少ない人物でもある。
クリクリッと大きくて焔を宿したような深い朱色のつり目が、笑うと猫のように弧を描いて、何とも可愛くなるのだ。その笑顔が、当時小さなお姫様だった娘のお気に入りだった。
――想定内と言えば、想定内よね…
――来て、くれるよね……
空に目を向けると、ふよふよと浮いていたスピカが気遣うように ふわりと娘の肩に降り立った。
――大丈夫よ…だって、相手はルーだもの
『約束の時間まで、残り2分程ですロロ』
差し迫った残りの時間に、思わず息を飲んだ。片手は懐中時計を握ったまま、急いでもう片方の手でカバンの取っ手を持ち走り出した。ここまで来た道を走って露店の並ぶ通りまで戻ると、今度は来た道とは逆に急ぐ。その間も片手に握る懐中時計からカウントダウンが聞こえてくる。
――あんもうっ
――自分で指定した時間に遅れるとかあり得ないからっ
娘の視界の先には、石の土台に丸太の柱と薄いオレンジ色の土壁、板張りの屋根が目立つように真っ赤に塗られ、街の名前である『ラウルス』とデカデカと書かれた看板が掲げられているて建物が見えた。街を囲む魔物侵入防止の外壁を抜け、魔導列車が他の街とを行き来する為に設けられた駅である。
幸い近い位置にいた為なんとか時間前に到着できそうだが、もしかしたら先に着いた相手を待たしてしまったかもと、さっと駅周辺を見渡すが、目的の人物らしき姿は見当たらない。念の為、スピカにも空から確認してもらった。
『いる?』
『まだみたいよっ』
空に上って見渡してくれていたスピカが静かに娘の肩に舞い戻った。
『じゃあ、次の魔導列車かな~っ』
『どうかしらね? あの子は自由な子だから…』
相手があの子じゃしょうがないと、哀れみにも諦めにも似たスピカの言い回しにクスリと娘の顔に笑みが湧いた。今日、この時間を指定して待ち合わせたのは娘の方である。待ち合わせ相手の都合など聞いてはいないし、相手が時間通りに現れる気もしないが、呼びつけたからには、娘自身は遅れたくはないものなのだろう。
赤い屋根の駅に向かって走る娘の、一束に束ねられた金髪が揺れる。少し上がった息を整えながら銀の懐中時計に残り時間を聞くと、約束のギリギリ前だった。
『残り7秒……間に合いましたロロ』
「っ…まに…あった……ぁ…はぁはぁ」
ゆっくりと鼻から吸った息を肺に溜め、口から吐き出す。それを何回か繰り返して息を整えていると、ちょうど入ってきた魔導列車から降りてきたらしい人達が改札を出てきた。その人達を、娘はじっと見つめる。
――……えぇぇっ!!
――いないじゃんっ……
どうやら、お目当ての人物は今来た列車には乗っていなかったようだ。娘の柔らかそうな頬が、ぷくりと膨らむ。
――はぁ……
待合せに現れない相手である娘の幼馴染は、いつだって予想の斜め上を突っ切ってしまう人物なのだ。出会いは娘の母親を訪ねてやってきた母親の兄のような存在の従兄の息子。つまりは娘のハトコとして出会った。ヤンチャで、5分もじっとしていられない子だった。そのくせ怖がりでどこに行くにも、幼かった娘の手を引いて連れまわすのだ。幼い2人で星獣の森の中をたくさん探検したのは、娘にとってかけがえのない楽しい思い出だ。娘が得意とする占星魔法をつかった処を見た事のある数少ない人物でもある。
クリクリッと大きくて焔を宿したような深い朱色のつり目が、笑うと猫のように弧を描いて、何とも可愛くなるのだ。その笑顔が、当時小さなお姫様だった娘のお気に入りだった。
――想定内と言えば、想定内よね…
――来て、くれるよね……
空に目を向けると、ふよふよと浮いていたスピカが気遣うように ふわりと娘の肩に降り立った。
――大丈夫よ…だって、相手はルーだもの
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