捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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微睡みの朝

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「クロエ」
「は、はい」

「彼女から申し出があってな。今日からアレクシアは正式に貴方に仕えることになった。貴方の安全を何よりも優先することを義務づけ、そのために私に背くことも許している。存分に頼ってやるといい」

 再度彼女を見上げてみると、小さなシワの刻まれた目元がこの上ない柔らかさで私を見つめていた。我が子を愛しく想う母親のような、あるいは聖母のような眼差し。私の何が彼女をこうさせるのだろう。

 もしかしたら同じ年頃の子どもがいたりして、と未だにどこかふわふわとした頭を泳がせていると、優しく手をとられる。

「よく頑張りましたね、クロエ様。これからは私が貴方をお守りいたしますわ」

 星を見つけたのかと見紛うほどに煌めいた瞳に惚れてしまった。本当に彼女は私を守ってくれるのだと思う。手練の魔術師なのか、剣の使い手なのか、はたまた暗器でも服の下に隠しているのかは知らない。
 何が彼女の強みなのかすら未だに知らないというのに、どうしてだろう、きっと頼りにして良い人間なのだと直感が告げていた。

「……はい、よろしくお願いします。アレクシアさん」

 彼女は薔薇の蕾が開くように笑った。

 そして上機嫌のままにどこからともなく取り出した櫛で私の髪を梳き、最後にもう一度顔を合わせ、手の甲に小さなキスを落として部屋から出て行った。後ほどお手製のハーブティーを届けてくれるらしい。

 私は大切な宝物を貰ったような心地でキスを落とされた方の手を、もう一方の手でそっと握りこんだ。

「お次は私の番ですね?」

 アレクシアさんが部屋から離れていくのを確認して、今度はディミトリさんがベッドの横へ跪いた。

 騎士団長でもあるらしい彼はおそらく常に防具を身に纏っているのだろう。服の下で微かに金属の擦れる音がした。

「あまりお話する機会はありませんでしたね。改めまして、ディミトリと申します。本日は少々お聞きしたいことがありまして、お答えづらいことだとは思うのですが、一言でもお言葉をいただければ」
「はい……?」

 私が答えられることなどあるだろうか。戸惑いつつも頷くと、ぱっと顔が明るくなった。彼の笑顔には太陽のような眩しさと強さがある気がする。

「旦那様との性交はどうでしたか。どれほど快感を覚えました?」
「はい……!?」

 まるで童話に出てくる王子様のような笑顔のまま放たれた言葉はあまりにも予想外で耳を疑ったものの、どうやら聞き間違いではないらしい。

 混乱しながらエリック様を見やるが、片眉をひょいと上げて返答を促すように視線を返すだけだった。
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