捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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微睡みの朝

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「……アレクシアさんと、ディミトリさんですか?」
「あぁ。……その、……」

 わざわざ主人の部屋へ招かなければいけない何かが私の与り知らぬところに存在しているのだろうと思い、疑問というよりは確認の意で名前を復唱したのだが、彼はそれを『なぜ部屋に入れなければいけないのか』という問いに受け取ったらしい。

 珍しく歯切れの悪さを見せた後、一瞬の沈黙を挟んでほんの少しだけ音量の下げて彼は言った。

「……アレクシアから、誤って貴方を潰してはいないかと睨まれている」

 親に叱られて絶賛反省中、といった声に笑いそうになって咳払いで誤魔化す。

 この一週間でなんとなく気がついたのだが、どうやらこの城の人々は凛とした彼女の声に弱いらしい。

「ディミトリさんは、なんと?」
「…………貴方を呑み込んだのではないかと」

 今度こそ耐えきれず笑ってしまった。あんなに恐ろしく冷たく不気味だった男が、家臣にはこんなに好き勝手言われているのか。

「……やっと、笑ってくれた」

 驚いたような安心したような、柔らかい声が耳に届く。はっとして口元にあった手を開いて隠したがもう遅い。

「私の前では常に強ばった顔をしていたから、少しでも笑ってくれて何よりだ。……恥を晒した甲斐があった」

 性行為をしたことで気を許してしまえるほど単純な女ではないつもりだが、目下の試練を乗り越えたことや、少なくとも私にとっては彼が危害を加える存在ではないとわかって緊張が緩んでしまったのかもしれない。

 改めて警戒を固めようとしたところでノックの音が響いた。

「おそらくあの二人だ。それか、どちらか一人。貴方がまだ人と会いたくないなら入れないが、どうしたい?」

 できることならもう少し身なりを整えてからにしたかったが、あまり不安のまま待たせるのも良くないだろう。数秒考えた後に、結局私は頷いた。

「気遣い感謝する。まだ貴方は動けないだろうから、そのままでいい」

 たった一夜で嗅ぎなれてしまった香りを漂わせて彼は離れていく。香木の類に近い穏やかで落ち着くような香りと、それに混ざって甘く深い、心臓の内側をくすぐるものがあった。

 頭がぼうっとしそうなのにもっと嗅ぎたくなる、不思議な匂いだ。

 聞き取れそうで聞き取れない話し声を聞きながら、気持ち程度に襟元や髪を整える。

 眠りから覚めたばかりの姿など、あまりよく知らないディミトリさんに見られるのは抵抗がある。猫の毛繕いの方がずっと丁寧なものだろうが、手探りで慎重に髪を撫でつけた。
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