捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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微睡みの朝

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「どこか変わったところは? 少しでも異常があれば言ってくれ」
「いえ、何も……」

 視線を合わせないまま話すと、髪を梳かれる感覚がした。あれだけの醜態を既に見られているというのに、身支度も満足に整えていない姿を晒すことすら未だ恥ずかしくて仕方がない。仲睦まじい夫婦は皆こんな羞恥に耐えているなんて到底信じ難かった。

 しかし、ベッドの横に置かれていた椅子に腰掛けてなお私の髪に通される指はどこまでも穏やかだ。

 まるで拗ねた子どもの機嫌をとるみたいに、ゆっくり毛先まで滑ってはまた上へ静かに上っていく。

「酷いことをしてすまなかった。次からは私の誘いに無理して応じる必要はないから安心してくれ。貴方が嫌だと言えば手は出さない」

 優しい人、なのだと思う。少なくとも私が想像していたよりずっと。

 ほとんど強制的に娶った妻への態度なんて酷いものだろうと教会の皆ですら悲観していた。

 暴力に等しい性交を強制されて、権力争いや後暗い手練手管に利用され、身も心も穢され人形のように扱われるのだろうと。誰一人口にこそしなかったものの、私の婚約が決まったと聞いたときの顔が物語っていた。

 有名であるにも関わらず全く底の見えない伯爵が相手だというのだから尚更だ。想像も及ばぬ目に遭うのではないかと修道服に紛れてしまいそうなほど顔を白くしていたのを覚えている。

 そんな覚悟をしていたのに、彼ときたら。

 いくら紳士的に振る舞っていても行為が始まってしまえば想像通りの悪魔に成り果てると思ったのに、最後まで自身の快楽よりも私の快楽を優先していたように見えた。

 苦痛に歪む女に舌なめずりすることも一方的に欲をぶつけることもなく、少しでも私があの高揚感に身を任せられるようにと、執拗なまでにこの体を蕩かして刺激に慣れさせて。

 だからだろうか、こちらが許可を出さない限り行為に及ぶことはないという彼の言葉は本当なのだろうと信じられるし、どこかざわつく感覚があった。離れていく指先に名残惜しささえ感じる。

 自分でも説明できない胸の内に戸惑いながら視界の端に彼の姿を捉えた。

 表情までは見えないものの、垂れ下がった黒髪といつもより大きく開いた胸元の肌色へ目が奪われそうになってしまう。

「それと、後で……貴方が良ければだが、アレクシアとディミトリを部屋に入れても?」
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