捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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微睡みの朝

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 重い瞼を上げると、この一週間でいくらか見慣れたベッドとは違う天蓋が目に入った。

 薄らと家具の影が透ける黒い幕。記憶の隅で強固な格子と化していたそれは、今となってはただのしなやかな布でしかなかった。数枚重なった中で薄暗いベッドの上は、気を失うように眠りについたあの夜に取り残されているかのようだ。

 隣を見ればシーツのシワだけが残っていた。

 大きな体が少し身動ぎしたのだろうと察せられるほどにしか乱れていないベッドは昨夜のことが夢か幻であったとでも言いたげだが、妙な気だるさに沈む体と腹の中に残った違和感がそれを拒絶している。

 とはいえ、自分が本当にあんな行為をしたことや彼が私にあんな接し方をしたことをぼやけた頭はいまいち信じきれてはいなかった。

 ふと、私が着た記憶のないネグリジェに包まれていることに気がつく。この部屋で脱ぎ捨てたわけでも密かに持ってきたわけでもないというのに、私の部屋にあったはずのそれが一糸も残さず全て取り払っていたはずの肌を隠していた。汗に塗れていた体も、その不快感は全く残っていない。

 布の上から腹をさする。あの長い指や強大な熱が収まっていたとはとても思えない。実際に入れられていたところを見たわけではないから余計にそう思うのだろうか。

 私の腹に彼のものが入って、強く魔力が込められた体液が注がれた。おそらくそういうことが行われて、具体的に何が変わったのかはわからないが、彼の言う『正式な妻』になれたはずだ。あんなに大変な思いをしたのだから、そうでなくては困る。

 そんな取り留めのないことを考えながら腕を支えにして体を起こしていると、軋む音に混じって扉が開いたようだ。

「おや、タイミングが悪かったな……。おはようクロエ。体の具合はどうだ?」

 天蓋を手で退けて姿を現したのは私の夫。星空を人の形に切り取ったならばこの様相になるのだろうという男。

「……おはよう、ございます。エリック様」

 酷く掠れた声だった。起きたばかりだからというだけでなく、それほどまでにはしたない声を上げていたのだと気づいて喉が詰まる。

 昨夜あんなことをした相手だと思うと顔を見ることができなかった。ちらりと視界に入った首に束ねられていない髪が垂れているのも、なんとなく直視してはいけない気がする。
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