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契約の夜
九(R18)
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「どうだ、少しは楽になったか?」
「だいじょ、ぶ、ですから……はやく……!」
鮮明な感覚を取り戻す前に終わってほしい。
彼の体に腕を回すと満足気な声の後にまた私を貫き始めた。苦しい、と頭をよぎり始めたところに唇を押しつけられる。これでは落ち着いた呼吸を保つことなどできない。
抗議の意味を込めて背中を軽く叩くが、舌先にくすぐられて意図を察した。嫌だ。これ以上きもちよくなんかなりたくない。
必死に胸を押しても唇が離れることはなく、縫いつけられたように合わせられたそこから流れる蜜が喉を通って私を狂わせていく。
既に下腹部の違和感は甘い疼きに変わり始めていて、こうしてキスをされているだけで頭がぼやけていった。身勝手だ。ここに私の意思などほんの一欠片もない。
「あと少しだ。頑張れるな?」
ひゅ、と息の音がした。こんなに強烈な圧迫感だというのにまだ全部入っていないなんて。
「……ふふ、偉いぞ。苦しさが過ぎれば好くなる。今だけ我慢してくれ、クロエ」
濡れた目を強く瞑って再度背中に手を伸ばしてしがみついた。早く、早く終わってしまえ。
逃げ場をなくすように私の顔の横まで垂れ下がった彼の艶やかな黒い髪。その影で光る目はいつしか情欲で燃えていた。
その目に見つめられると心が破れてしまいそうで、顔を見ずに済むよう背にまわした手で体を引き寄せたというのに、今度は耳元に近づいた唇が甘ったるく脳を蕩かす。
狭い、と心底面白そうに漏らされた声は獣じみた吐息が混ざっていた。全てを収めてみると内臓が押し上げられている心地がして、苦痛はないものの不規則な呼吸を繰り返していると愛でるようにあちこちへキスを送られる。
その間は一度も収まった熱が動くこともなく、どこまでも丁寧に私の体を壊していく男に縋りたくなる気持ちを思い起こさせた。伯爵や騎士なんかよりも猛獣使いの方がよっぽど向いているのではないだろうか。
呼吸が一定になってきた頃、変わらぬ慎重さで出入りし始めたその感覚に唸る私の影が瞳に反射する。もはや脆弱な腕では巨体を抑えることも叶わず、射抜くようなそれが情けない女をねめつけていた。上下する喉からいやらしい声を発する私の姿を、視線だけで縛っていた。
指よりも奥へ届く熱がこの体を征服するのにそう時間はかからなかった。重くのしかかる快感が全てを薪にして芯まで私を燃やしている。少し互いが擦れるだけで爪先までどろどろに蕩けてしまうような心地で、終わりの見えないそれに脳内まで支配されていた。
彼に教えられた『きもちいい』がこの感覚を表す言葉なのかはよくわからない。全身がぞくぞくして、勝手に腰がうねって腹に力がこもる。
そうするとまた肌の下で隅々まで巡った毒が体を跳ねさせた。言葉の形を失った声を恥じらう余裕もなく、逃れることもできずそれに没頭している。
時折ひどく胸を揺さぶる艶美な声を聞きながら、少しずつ支配していく彼の魔力に身を任せた。沈む太陽が必死に燃えて、それでも虚しく迫り来る闇と混じり合って色を変えてしまっている空のような気分。それはどこか快く、一方で薄ら寒さも感じる。
とっくにこの身は私一人のものではなくなっていた。
最後に記憶に残ったのは宝石のように煌めくあの瞳、星の数ほど愛を囁く蜂蜜のような声、一片も残さずに私を染め上げた快感、そしてこちらを愛おしげに見つめる美しい顔だけ。
「だいじょ、ぶ、ですから……はやく……!」
鮮明な感覚を取り戻す前に終わってほしい。
彼の体に腕を回すと満足気な声の後にまた私を貫き始めた。苦しい、と頭をよぎり始めたところに唇を押しつけられる。これでは落ち着いた呼吸を保つことなどできない。
抗議の意味を込めて背中を軽く叩くが、舌先にくすぐられて意図を察した。嫌だ。これ以上きもちよくなんかなりたくない。
必死に胸を押しても唇が離れることはなく、縫いつけられたように合わせられたそこから流れる蜜が喉を通って私を狂わせていく。
既に下腹部の違和感は甘い疼きに変わり始めていて、こうしてキスをされているだけで頭がぼやけていった。身勝手だ。ここに私の意思などほんの一欠片もない。
「あと少しだ。頑張れるな?」
ひゅ、と息の音がした。こんなに強烈な圧迫感だというのにまだ全部入っていないなんて。
「……ふふ、偉いぞ。苦しさが過ぎれば好くなる。今だけ我慢してくれ、クロエ」
濡れた目を強く瞑って再度背中に手を伸ばしてしがみついた。早く、早く終わってしまえ。
逃げ場をなくすように私の顔の横まで垂れ下がった彼の艶やかな黒い髪。その影で光る目はいつしか情欲で燃えていた。
その目に見つめられると心が破れてしまいそうで、顔を見ずに済むよう背にまわした手で体を引き寄せたというのに、今度は耳元に近づいた唇が甘ったるく脳を蕩かす。
狭い、と心底面白そうに漏らされた声は獣じみた吐息が混ざっていた。全てを収めてみると内臓が押し上げられている心地がして、苦痛はないものの不規則な呼吸を繰り返していると愛でるようにあちこちへキスを送られる。
その間は一度も収まった熱が動くこともなく、どこまでも丁寧に私の体を壊していく男に縋りたくなる気持ちを思い起こさせた。伯爵や騎士なんかよりも猛獣使いの方がよっぽど向いているのではないだろうか。
呼吸が一定になってきた頃、変わらぬ慎重さで出入りし始めたその感覚に唸る私の影が瞳に反射する。もはや脆弱な腕では巨体を抑えることも叶わず、射抜くようなそれが情けない女をねめつけていた。上下する喉からいやらしい声を発する私の姿を、視線だけで縛っていた。
指よりも奥へ届く熱がこの体を征服するのにそう時間はかからなかった。重くのしかかる快感が全てを薪にして芯まで私を燃やしている。少し互いが擦れるだけで爪先までどろどろに蕩けてしまうような心地で、終わりの見えないそれに脳内まで支配されていた。
彼に教えられた『きもちいい』がこの感覚を表す言葉なのかはよくわからない。全身がぞくぞくして、勝手に腰がうねって腹に力がこもる。
そうするとまた肌の下で隅々まで巡った毒が体を跳ねさせた。言葉の形を失った声を恥じらう余裕もなく、逃れることもできずそれに没頭している。
時折ひどく胸を揺さぶる艶美な声を聞きながら、少しずつ支配していく彼の魔力に身を任せた。沈む太陽が必死に燃えて、それでも虚しく迫り来る闇と混じり合って色を変えてしまっている空のような気分。それはどこか快く、一方で薄ら寒さも感じる。
とっくにこの身は私一人のものではなくなっていた。
最後に記憶に残ったのは宝石のように煌めくあの瞳、星の数ほど愛を囁く蜂蜜のような声、一片も残さずに私を染め上げた快感、そしてこちらを愛おしげに見つめる美しい顔だけ。
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