捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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契約の夜

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「相性が良いというのは知っていたのですか? それとも、私が死んでも良かったとか」

 多少無礼な物言いをしてもその腕に力がこもることはない。凪いだ目でこちらを見るばかり。

「知っていたからしたんだ。……肝は冷えた。少し間違えれば、愛する女性を失うところだったからな」

 温かいとも冷たいとも言い切れない手のひらを頬に寄せるが、指一本ぴくりともしない。

 いつかに勇者様にこうして触れられたことはあるが、その手よりもずっと逞しく無骨で、指で触れたときとは違った感触を頬から受け取りながら目を閉じる。

「…………そのまま眠ってしまうのだけは遠慮していただきたいのだが」

 何も答えずにそのままゆっくり呼吸を繰り返す。

 耳に届くのは自分が空気を巡らせる音、肌と肌が擦れる音。どこか重さのある甘い香りが鼻をくすぐる。掴んだ手首から感じる脈拍は異様に遅くて、離したくないと心のどこかで思い始めた頃に目を開けた。

 彼の胸を押す。無抵抗で倒れた体に跨り、白い首を両手で覆った。ベッドに投げ出された両腕が動くことはない。

「……止めないのですね」
「貴方のすることだからな」

 約束したからではないのかと思いつつ首を撫でる。私の力では全体重をかけたとしてもこの首を絞めることなどできないのかもしれない。

 隆起した筋や喉仏をなぞり、ボタンを一つ外す。大人の男性の服を乱すなんて初めての経験で、それだけで心臓はまた騒がしく早鐘を打ち始めた。

「それだけでいいのか?」

 たった一つで手を止めてしまったところを薄く笑われる。一気に顔が燃え上がるような心地に襲われ、それを隠すようにたどたどしく二つ目、三つ目のボタンへ指を伸ばした。

 こういうときばかり上手く外れてくれない。布に引っかかったり穴に通せなかったり、奮闘の末に四つ目まで外すことができた。

「ふ、っ……愛らしい……」

 堪えきれずといった様子で漏れる笑い声と、初めて彼の声が紡いだその言葉に胸が締めつけられる。そんなことを言われるとは思っていなかった。しかもからかっているようにも見えず、本気なのだと嫌でもわかってしまう顔をしている。

 とても見ていられず胸に頭を擦り寄せた。シャツの下は凹凸がくっきりと陰影を作っていて、想定よりずっと厚みのある雄々しい肉体をしている。支配者らしく発達した、綺麗な体だ。

「………………本当に、私を愛しているのですか? 貴方のような方が、あれほど瑣末なことで?」
「貴方に嫌われてでも傍に置きたいほどに。……一目惚れとはそれほど身勝手で、どうしようもないものだよ」
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