捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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私の愛する勇者様

十一

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「……言葉が過ぎました。申し訳ございません。……お夕食を用意して参ります。その後に湯浴みをいたしましょう。本日はごゆっくりお休みくださいませ」

 どこか萎んだ様子で彼女は部屋を去る。

 残されたカップを口に運びながら彼女の言葉を一つ一つ思い返した。現実はいつだって理想通りには進まないし、この世界は甘くないってことは世間知らずの私ですらわかる。そして、それを勇者様がいまいち理解しきれていないことも。

 十五歳のときだっただろうか。街に出て教会に戻るのが少し遅くなってしまったとき、男の腕で路地裏に引き込まれたことがあった。

 そのときは通りがかった方が声を上げてくれて大したことにはならなかったのだけれど、それを機に瞬発的に発動できる攻撃用の魔術を覚えることにした。

 勇者様はこの世界に少し夢を見ているようなところがあって、そういった事件が日常的に少なくないということも知らない。私がそんな魔術を覚えなくてはいけなかったことも、足を痛めながら何時間も歩くことでしかこの城から街へ戻れなかったこともきっと知らない。

 あの人が思っているほどこの世界は平和でなく、魔術は万能ではないということをまだ知らない。

 今頃、エリック様のように瞬間的に移動する魔法の練習でもしているかもしれない。魔法を使える者は限られたごく少数ということも知らずに。

 結婚したら世界中を一緒に旅しようと誘ってくれたときは心から嬉しかった。しかし、危機感がいまいち欠けている彼は私を守ってくれるだろうか。やむを得ず魔術や魔法を使わなければいけないことがあったとして、魔力不足で倒れた私の命をすくい上げることができるだろうか。

 気がつきたくなかった。気がついても目を逸らしていたのに。

 ふと足に視線を下ろす。彼に会うためにあれほど歩き血が滲んでいたはずの肌には、まるで何事もなかったかのように傷一つなかった。
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