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私の愛する勇者様
七
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この男が憎い。私の夢も居場所も愛する人も奪って、全てを踏みにじる男が。
そしてそんな男に縋るしかない自分が情けなくて仕方がなかった。
少なくとも今は、悪魔のような男の玩具にならないと生きることはできないのだ。こんなに残酷な話があるだろうか。聖女と崇められたことさえある女が、伯爵夫人とは名ばかりの奴隷になるしかないなんて。
「…………誓います。私は貴方の妻。どうぞ貴方のお好きにしてください」
強く噛み締めた唇を開いて屈辱的な言葉を吐き捨てた。
「ならば救おう。もう二度と、他の男を訪ねるなんて酷いことをしてくれるな」
口の端を上げ、彼は私を後ろへ押し倒す。すぐに大きな体が影を落として顔を寄せた。
逃げ出す道など一つも見当たらないその姿勢に薄ら寒いものを感じる。婚約してからほとんど時間も経たない女を脅して暴こうとするなんて、卑劣極まりない。最低で汚らわしい男だ。
「また、口づけを?」
「体液を介した方が魔力を供給する効率が良いんだ。腕は私の背中に回してくれ。少し痛むが死ぬことはないから安心しろ」
言われた通りに腕を回すと性急に唇を重ねられる。無遠慮に押し入ってくる舌の感触はまだ慣れない。
そもそも唇同士の口づけ自体初めてだったのに、それすらも子どもの頃から思い描いていた甘いものにはならなかった。これから先ずっとこうして初めての経験を手酷く奪われ続けるのだと思うと気が遠くなる。
さらには、目で見たわけではないがどうやら彼の舌は私のものよりずっと長いらしい。しかも先が割れて二股になった造りをしているらしく、蛇やトカゲの獣人たちに似た形をしているのだろうとわかった。
そんなものに中をじっくり掻き回されると変な感じがする。伝ってくる唾液を喉へ流すと満足気に目を細められた。こうして彼の魔力を受け取ることで命を繋げられた事実は恥辱に塗れているが否定のしようがない。
ぞわぞわと背骨が震えるような妙な感覚と耳を塞ぎたくなるような水音に耐えているうち、全身の熱が少しずつ上がっていることに気がついた。
やがてそれは炎のように肌を痛めつけて胸は早鐘を打ち始める。喉からは唸りが漏らし、痛みを逃そうと彼の背に爪を立てて血液さえも沸騰しているかのような苦しさに耐えた。
死ぬことはないと断言した彼の声を思い返しながら、これで死んだら祟ってやると心を奮い立たせる。
体の中で何かが暴れているみたいに私の足は何度か彼を攻撃したが、それにすら眉をひそめることはなかった。そういうものだと理解しているのか、我慢強いのか。ひょっとしたら痛みを感じないのかもしれない。
ばちん、と頭の中で何かが瞬いた後、苦痛と熱は一気に引いていく。唇を離されて大きく空気を吸い込み、全身から力を抜いてベッドに体重を預けた。
すごく久しぶりにまともな呼吸と痛みのない体を取り戻した気がする。
「よく耐えた。良い子だな」
彼は大きな手で私の頭を撫で、そっと額に口づけて体を起こす。本当に魔法は解けているようだ。体のどこも触れていないのにあの痛みは襲ってこない。同じように起き上がった私の髪に長い指が通った。
そしてそんな男に縋るしかない自分が情けなくて仕方がなかった。
少なくとも今は、悪魔のような男の玩具にならないと生きることはできないのだ。こんなに残酷な話があるだろうか。聖女と崇められたことさえある女が、伯爵夫人とは名ばかりの奴隷になるしかないなんて。
「…………誓います。私は貴方の妻。どうぞ貴方のお好きにしてください」
強く噛み締めた唇を開いて屈辱的な言葉を吐き捨てた。
「ならば救おう。もう二度と、他の男を訪ねるなんて酷いことをしてくれるな」
口の端を上げ、彼は私を後ろへ押し倒す。すぐに大きな体が影を落として顔を寄せた。
逃げ出す道など一つも見当たらないその姿勢に薄ら寒いものを感じる。婚約してからほとんど時間も経たない女を脅して暴こうとするなんて、卑劣極まりない。最低で汚らわしい男だ。
「また、口づけを?」
「体液を介した方が魔力を供給する効率が良いんだ。腕は私の背中に回してくれ。少し痛むが死ぬことはないから安心しろ」
言われた通りに腕を回すと性急に唇を重ねられる。無遠慮に押し入ってくる舌の感触はまだ慣れない。
そもそも唇同士の口づけ自体初めてだったのに、それすらも子どもの頃から思い描いていた甘いものにはならなかった。これから先ずっとこうして初めての経験を手酷く奪われ続けるのだと思うと気が遠くなる。
さらには、目で見たわけではないがどうやら彼の舌は私のものよりずっと長いらしい。しかも先が割れて二股になった造りをしているらしく、蛇やトカゲの獣人たちに似た形をしているのだろうとわかった。
そんなものに中をじっくり掻き回されると変な感じがする。伝ってくる唾液を喉へ流すと満足気に目を細められた。こうして彼の魔力を受け取ることで命を繋げられた事実は恥辱に塗れているが否定のしようがない。
ぞわぞわと背骨が震えるような妙な感覚と耳を塞ぎたくなるような水音に耐えているうち、全身の熱が少しずつ上がっていることに気がついた。
やがてそれは炎のように肌を痛めつけて胸は早鐘を打ち始める。喉からは唸りが漏らし、痛みを逃そうと彼の背に爪を立てて血液さえも沸騰しているかのような苦しさに耐えた。
死ぬことはないと断言した彼の声を思い返しながら、これで死んだら祟ってやると心を奮い立たせる。
体の中で何かが暴れているみたいに私の足は何度か彼を攻撃したが、それにすら眉をひそめることはなかった。そういうものだと理解しているのか、我慢強いのか。ひょっとしたら痛みを感じないのかもしれない。
ばちん、と頭の中で何かが瞬いた後、苦痛と熱は一気に引いていく。唇を離されて大きく空気を吸い込み、全身から力を抜いてベッドに体重を預けた。
すごく久しぶりにまともな呼吸と痛みのない体を取り戻した気がする。
「よく耐えた。良い子だな」
彼は大きな手で私の頭を撫で、そっと額に口づけて体を起こす。本当に魔法は解けているようだ。体のどこも触れていないのにあの痛みは襲ってこない。同じように起き上がった私の髪に長い指が通った。
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