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天空への道
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「……ロープウェイ?」
「はい!」
目を輝かせるイグノちゃんを前に、アタシは静かに困惑していた。
例によって例のごとく、この“輜重隊の悪夢”改め魔王領の裏番長は着々と領内の近代化を進めているようなのだけれども。ロープウェイの話なんかしたんだっけ。したのよね、たぶん。なんだっけ。
「ああ、思い出したわ」
「マーケット・メレイアと温泉街をつなぐ遊覧ロープウェイです」
「そうよね。ごめんなさい、最近バタバタしてて忘れちゃってたわ。じゃあ、鉄道の方が一段落したら建設計画を進めましょうか」
「できてます」
「あら、そうなの? ありがとうね、さすがよイグノちゃん。それは、計画書か設計図……?」
……ん? 嫌な予感がするわね。嫌な、っていうのも失礼なんだけど。この幼女にしか見えない小匠族の万能チート工廠長は子犬のようにキラキラした目で褒めてくれと言わんばかりに見つめてくる。シッポでもあったらブンブン振っているところなんだろうけど、それはともかく。
「ロープウェイ、できてます♪」
「……は?」
窓から外を見ると、メレイアの正面ゲートから山側に少し行った場所には簡素な駅舎のような建物があり、既にゴンドラが停車していた。
◇ ◇
みんなで“駅舎”に近付いてみると、それは見事な再現度だった。
アタシが知ってるものとはちょっと違うけど、紛う方なきロープウェイだ。ワイヤーが移動する先は山腹まで伸びていて、一定間隔ごとに梯子型構造の支柱で支えられている。
「信じられないわね。これは、あれでしょ? 前にアタシがチョコッとだけ話した世間話から想像……というか“創造”してここまで作っちゃったのよね?」
「そうですが、構造や建設は、特に難しいものではありませんでした。貨物用の吊り下げ式移動機は文献にもありますし、帝国など工業国でも使用されていますから」
「あ、そうなのね。だからって片手間で作れるようなもんじゃないと思うんだけど……」
「ロープウェイ最大の利点は、“移動そのものに娯楽的価値をつける”という発想の方ですね。これは、画期的です!」
アタシは側に控えていたレイチェルちゃんから包みを受け取ると、熱弁をふるっていた天才工廠長さんに手渡す。
「え? なんですか、これは」
「イグノちゃん、あなたは本当に、よくやってくれてる。アタシと、みんなからお礼にこれを贈るわ」
服だとわかってイグノちゃんはいそいそと着込み、その青い上着に触れながら、幸せそうに肌触りを確かめる。なんだかいう魔物の毛皮でできた布地はゆったりしたラインで身体を包み、作業中に発生した熱や衝撃を和らげる。気を配ったポイントは青く染め上げた毛皮のモフモフ感と、お腹につけたクリーム色の大型ポケットだ。魔王領に伝わる古い魔法陣が組み込んであって、容量はトラック2台分くらいある、らしい。
これはイグノちゃんへのサプライズプレゼントとして、工廠の若いエンジニアさんたちと相談して作った。
製作を手伝ってくれた若手さんたちが拍手すると、イグノちゃんは照れながらペコペコと頭を下げる。中身は年齢不詳の彼女も、こういうときは見た目通りの子供っぽさだ。
「これであなたはまた一歩、ネコ型ロボットに近付いたわね」
背中で揺れていたフードを、アタシはイグノちゃんの頭に乗せる。彼女のチャームポイントのふわふわしたクセ毛は隠れてしまったけど、その代わりにヒョコンと飛び出した通信機能付きのネコ耳型アンテナが露わになる。
「むしろ、あの青いタヌキには勝ってるわよ?」
「……よく、わかりませんが、ありがとうございます! これからも、魔王陛下のため、魔王領のため、精いっぱい尽力させていただきます!」
「あー……っと、ほどほどにね?」
「はい!」
目を輝かせるイグノちゃんを前に、アタシは静かに困惑していた。
例によって例のごとく、この“輜重隊の悪夢”改め魔王領の裏番長は着々と領内の近代化を進めているようなのだけれども。ロープウェイの話なんかしたんだっけ。したのよね、たぶん。なんだっけ。
「ああ、思い出したわ」
「マーケット・メレイアと温泉街をつなぐ遊覧ロープウェイです」
「そうよね。ごめんなさい、最近バタバタしてて忘れちゃってたわ。じゃあ、鉄道の方が一段落したら建設計画を進めましょうか」
「できてます」
「あら、そうなの? ありがとうね、さすがよイグノちゃん。それは、計画書か設計図……?」
……ん? 嫌な予感がするわね。嫌な、っていうのも失礼なんだけど。この幼女にしか見えない小匠族の万能チート工廠長は子犬のようにキラキラした目で褒めてくれと言わんばかりに見つめてくる。シッポでもあったらブンブン振っているところなんだろうけど、それはともかく。
「ロープウェイ、できてます♪」
「……は?」
窓から外を見ると、メレイアの正面ゲートから山側に少し行った場所には簡素な駅舎のような建物があり、既にゴンドラが停車していた。
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みんなで“駅舎”に近付いてみると、それは見事な再現度だった。
アタシが知ってるものとはちょっと違うけど、紛う方なきロープウェイだ。ワイヤーが移動する先は山腹まで伸びていて、一定間隔ごとに梯子型構造の支柱で支えられている。
「信じられないわね。これは、あれでしょ? 前にアタシがチョコッとだけ話した世間話から想像……というか“創造”してここまで作っちゃったのよね?」
「そうですが、構造や建設は、特に難しいものではありませんでした。貨物用の吊り下げ式移動機は文献にもありますし、帝国など工業国でも使用されていますから」
「あ、そうなのね。だからって片手間で作れるようなもんじゃないと思うんだけど……」
「ロープウェイ最大の利点は、“移動そのものに娯楽的価値をつける”という発想の方ですね。これは、画期的です!」
アタシは側に控えていたレイチェルちゃんから包みを受け取ると、熱弁をふるっていた天才工廠長さんに手渡す。
「え? なんですか、これは」
「イグノちゃん、あなたは本当に、よくやってくれてる。アタシと、みんなからお礼にこれを贈るわ」
服だとわかってイグノちゃんはいそいそと着込み、その青い上着に触れながら、幸せそうに肌触りを確かめる。なんだかいう魔物の毛皮でできた布地はゆったりしたラインで身体を包み、作業中に発生した熱や衝撃を和らげる。気を配ったポイントは青く染め上げた毛皮のモフモフ感と、お腹につけたクリーム色の大型ポケットだ。魔王領に伝わる古い魔法陣が組み込んであって、容量はトラック2台分くらいある、らしい。
これはイグノちゃんへのサプライズプレゼントとして、工廠の若いエンジニアさんたちと相談して作った。
製作を手伝ってくれた若手さんたちが拍手すると、イグノちゃんは照れながらペコペコと頭を下げる。中身は年齢不詳の彼女も、こういうときは見た目通りの子供っぽさだ。
「これであなたはまた一歩、ネコ型ロボットに近付いたわね」
背中で揺れていたフードを、アタシはイグノちゃんの頭に乗せる。彼女のチャームポイントのふわふわしたクセ毛は隠れてしまったけど、その代わりにヒョコンと飛び出した通信機能付きのネコ耳型アンテナが露わになる。
「むしろ、あの青いタヌキには勝ってるわよ?」
「……よく、わかりませんが、ありがとうございます! これからも、魔王陛下のため、魔王領のため、精いっぱい尽力させていただきます!」
「あー……っと、ほどほどにね?」
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