婚約破棄された令嬢は森で静かに暮らしたい

しざくれ

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聖女テスト本番

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 司祭が淡々と言う。


「聖獣を傷つけた後に、順番はどちらでも構いません、お二人のどちらかが回復をしてください。その後にまた傷つけ、もう一人も回復を行います」


 そして、と司祭が続ける。


「聖獣が懐いた方が、【聖女】の称号を得ることとなります」


 大体の説明を聞いて、ソフィアは疑問に思う。


(傷つけてきた人たちの仲間に懐くの?)


 純粋な考えだった。
 しかし、あえて口にすることはない。
 なんとなく、この試験の中身が分かってきてからだ。


 押し黙るソフィアに対して、隣にいる妹は手を挙げてここぞとばかりに大声をあげた。


「私から! 私からやるわ! はやく聖獣に傷をつけて!」
「……。それでは始めましょうか」


 近衛騎士団の一人が、司祭の合図で剣を抜いて聖獣の足に傷を一つ付けた。
 聖獣は悲鳴こそあげなかったが苦々しい顔をして目を力強く閉じている。
 そんなことはお構いなしに、妹が聖獣に近づき両手を添える。


「――」


 傷は大したことないものだ。
 にも関わらず妹は時間をかけて行っていた。
 時折、


「動かないでよ! ……ああ……!」


 と、聖獣に文句を垂らすばかり。
 そして立ち上がって終わりを宣言した。


「これでどう!?」


 聖獣の傷は――治っているとはいえない雑さであった。
 誰も彼女の言葉に反応することはなかった。


「……私の番ですね。これは斬りつけなくても構いませんよね」
「はぁ。まぁ、いいでしょう」


 念のためにソフィアが司祭に確認した。
 司祭もただただ頷く。


 ソフィアが両手を患部にかざす。
 淡い光が周囲を包み、それは五秒とかからずに止んだ。
 聖獣は穏やかな顔つきになり、まじまじと傷のあった部分を見た。


 ソフィアが聖獣の背を撫でる。
 聖獣も気持ちよさそうに喉を鳴らすことで答えた。


 その場にいた誰もが、感嘆のため息をつく。
 誰もが思ったはずだ。聖女はソフィアで決定だと。


――だが予想に反して、ソフィアが背を撫で終えた聖獣は歩みを妹のほうへと向けていった。


「わ、私だ! 聖獣が私のとこにきたわ! これで私が聖女よね!?」
「……えっ? あ、ああ……たしかに……そう……だな」


 妹の言葉に、公爵は驚き隠せない様子で、しかし首を縦に振るった。
 おかしい、なにが起こっている。誰もがそう思っている。ソフィア以外の全員が目を見開いて佇んでいる。


 その場にいる職を全うするべき司祭でさえ、宣言をするには時間がかかった。


「――こ、これにて、聖女は決定しました」


 司祭の宣言が行われ、あらかじめ一人で用意していたのであろう聖女になった際の言葉を、妹が手を伸ばしながら述べる。


「私はこれから聖女として――!」


 妹の長く羅列する文に、姉のソフィアは一人で微笑を浮かべてその場を立ち去って行った。
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