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勇者とドラゴンさんの話

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 百を数えるドラゴンと、統べる黒きドラゴン王。
 王国の国内では異様な騒動となっていた。突然のことでもあり、すぐに動けるのは常駐の騎士団で他国の動きもあるため辺境の騎士団は動かせずじまいだ。
 だが常駐の騎士団は先の森での一件があり、疲労が見ずとも分かるものだった。


 そこで動いたのは勇者と一行だ。不完全なパーティーではあるが、一大事とあらば動かないわけにはいかない。なにより勇者がそうしたかったから。


 勇者の背には王都が見え、眼前にはドラゴンとその王がいる。


「何の用ですか、黒竜王」
「いやなに、ちょっと自惚れておる人を殺しに来ただけのこと。もしも差し出せば貴様らに危害は与えない」
「に、しては豪勢じゃないですか。後ろにいるお仲間さんたちは」
「ちょっとした『力』を見せただけのこと。本気を出せば何倍でも膨らむであろう。それに仲間ではない、配下だ」


 一触即発。
 どちらかが怪しい動きを見せれば、すぐにでも戦いが始まってしまわん事態となっている。


「……ちなみに、その自惚れた人っていうのは誰のことですか」
「第二王子とやらだったはずだ。知っておるか?」
「ああ……あいつか」


 思い出したくないといった表情で勇者が顔を手で覆う。


「そやつを出せば事を起こすつもりはない。出せ」
「出したい気持ちはあるが無理な相談だな。仮にも王子だ。国勢にも繋がる」


 もうドラゴンに差し出したほうが国にとってはメリットだと一瞬考えたが、勇者は一歩を譲らない。しかし勇者は争いを起こせば多大な被害が出ると考えて「ただ」と続ける。


「ある程度の話であれば私が代わりにつけよう」


 王子に対する怒りからか、勇者は敬語から一般的ものの話し方に変わっていた。


「はっ、それはないな。人は信じるに足りん生物だ」


 ギロリと勇者を睨む。
 ダメか、とドラゴンを見ながら勇者は腰に携えている剣に手をつける。


 無為な戦いが、どちらからというわけでもなく、始まってしまった。
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