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01:たぶん両親
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――ここはどこだろうか。なんだかぼやけて見えないな
何かが目の前で揺れているのはわかるが、それが何かはわからない。たぶん、手だろうと思う。そして、僕の体も揺れている。なんだか赤ちゃんの気持ちがわかるような気がする。こんな風に温かい体温の中ゆらゆらと揺らされると気持ちよくて寝てしまいそうだ。
うつらうつらとしていると目の前の何かが僕に迫り、おでこにキスをした。
「もうっ!なんて可愛いのうちの子は!私にそっくりよ!」
――うちの子?
うちの子とはなんだ。目が覚めてから視界がぼやけてることやおそらく人の腕の中にいるであろうことからうすうす気が付いてはいたが、やはり僕は今赤ん坊なんだろうか。そしてとどめに“うちの子”。いくら現実逃避してもこの状況を鑑みれば赤ん坊であること以外にあり得ない。ということは、前世のラノベやマンガでよくある転生というやつなんだろうか。まさか自分が転生するなんて思いもしなかったな。
「えぇ奥様。本当に坊ちゃまは奥様に似てお可愛らしいです。でも奥様、奥様も疲れ切っているはずですので、そんなにはしゃがないでしっかり休んでくださいね」
「そうねエリーゼ。でもね、この子フェリクスにも似ているのよ!可愛すぎて寝ていられないわ!」
「えぇ奥様。坊ちゃまは旦那様にも似ていらっしゃって、とても凛々しくあられます」
奥様、旦那様、奥様、旦那様。どこかのお金持ちか。現代日本において奥様、旦那様と言われるのはお金持ちであるだろうし、これは世界共通だと思う。僕はむしろ貧乏だったから本当のところは知らないけれど、少なくとも僕の家では奥様、旦那様なんては言わない。ここはお金持ちの家なんだろう。
「そうよねエリーゼ!私と旦那様の子ですもの、可愛くて凛々しいのは当然よね!」
テンション高めな女性(多分僕の母)と会話から察するにそのお付きの人(侍女?)が話していると大きな音を立ててドアが開いた。
「ミーア!」
僕を抱いている女せ…――もういいや、母と呼ぶことにする――の後ろからバタバタと駆け寄ってくる音がする。
「ミーア!僕たちの子が生まれたと聞いたけれど、その子かい?」
優しそうな、何ともむずがゆくなるほど優しい声で話すのは僕の父親だろうか。確認しようにも生まれたての赤ん坊の視力なんて高が知れている。ぼやぼやだ。
「お帰りなさいフェリクス。この子が私たちの子よ!私にもあなたにも似ていて可愛すぎて困っていたところなの!フェリクスはどっちに似ていると思う?」
母は僕にぞっこんらしい。そんなに可愛いのか、僕。目がちゃんと見えるようになったら鏡を見ないとな。
「そうだね、僕たち二人の良いとこ取りをしているんだろうね。もちろん、ミーアには悪いところなんて一つもないけどね」
――……なんだこの甘い会話は。ゲロ吐きそう
両親の甘い甘ぁ~い会話を聞きながら僕はそんなことを思った。僕の両親は色眼鏡が過ぎてしかもお互いラブラブ(死語)だ。前世の両親は離婚していたから、こんな夫婦には慣れないな。まぁでも、冷え切った夫婦よりは良いか。
なんて考えていたら父(ぼやけているから断定はできないけど)が母から僕を受け取って抱いた。
「この子は僕たちの子だ。この家は公爵家だから黙っていても周りが騒ぎ立てる。たくさんの困難があるだろうが僕がきっとお前を守るから、お前はお前の人生を楽しんでくれよ、レイハルト」
そう優しい声で僕にささやいた。すると母も、
「あら、フェリクスだけじゃないわよ。私だってこの子を守るって決めているんだから!」
そう言って僕のおでこに手を当てた。
なんだかまた視界がぼやけてきた。それに、遠くで赤ん坊の泣き声もする。
「あぁレイ!そんなに泣いてどうしたの。母はここにいますよ」
「僕もここにいるんだから、そんなに泣かないで」
そんな言葉を聞きながら心地良い揺れと振動に身をまかせた。
――そうか、僕は泣いているのか
この両親の言葉を聞いていると、前世のことを思い出して泣いてしまいそうだ。赤ん坊の僕は声をあげて泣いているけどね。
前世で愛されなかったわけではない。むしろ心配性の姉には良く面倒を見られていたし、遠くに住んではいるけれど父も養母も、妹たちも母も僕のことを気にかけてくれていた。たまにうちに来ていたし、上の妹なんて最期の4年間なんてうちに押しかけて来てうちから大学に通っていた。
妹は部屋を片付けるのが苦手なようで、僕の使っていたものはどんどん追いやられてリビングなんか妹の部屋と化した。慣れない炊事をしてやたら茶色い料理を食べさせられたっけな。基本的に炒め物しかレパートリーがなかった。しかも、頼んでもいないのに料理作ってやっているんだからと食費まで取られた。僕のなけなしのバイト代から飛んでいった食費たちはどこへ行っただろうか。懐かしいな。
死んでしまった今となってはどうにもならないけど、みんなにありがとうと言えたらどんなに良いだろうか。こんなに早く死んでしまってごめん。親より早く逝くなんて、なんて親不孝だろう。僕も良くなっていると思ったけど、思いのほか僕の身体は傷ついていたみたいだ。
でもね、神様は僕に2度目の人生を与えてくれたんだ。こんなに僕のことを思ってくれる両親のもとで、まさかもう一度人生をやり直すなんて思いもしなかったけど、どうせならできなかったこともたくさん挑戦して思いっきり人生を楽しもうと思う!
――前世のみんな、僕は今世で頑張ります!
だから、みんなも楽しい人生を送ってね。それで、たまにで良いから僕のことを思い出して、仏壇にチョコなパイなんてお供えしてくれると嬉しいな。
そんなことを思いながらまた心地良いまどろみに身をまかせて僕は目を閉じた。
何かが目の前で揺れているのはわかるが、それが何かはわからない。たぶん、手だろうと思う。そして、僕の体も揺れている。なんだか赤ちゃんの気持ちがわかるような気がする。こんな風に温かい体温の中ゆらゆらと揺らされると気持ちよくて寝てしまいそうだ。
うつらうつらとしていると目の前の何かが僕に迫り、おでこにキスをした。
「もうっ!なんて可愛いのうちの子は!私にそっくりよ!」
――うちの子?
うちの子とはなんだ。目が覚めてから視界がぼやけてることやおそらく人の腕の中にいるであろうことからうすうす気が付いてはいたが、やはり僕は今赤ん坊なんだろうか。そしてとどめに“うちの子”。いくら現実逃避してもこの状況を鑑みれば赤ん坊であること以外にあり得ない。ということは、前世のラノベやマンガでよくある転生というやつなんだろうか。まさか自分が転生するなんて思いもしなかったな。
「えぇ奥様。本当に坊ちゃまは奥様に似てお可愛らしいです。でも奥様、奥様も疲れ切っているはずですので、そんなにはしゃがないでしっかり休んでくださいね」
「そうねエリーゼ。でもね、この子フェリクスにも似ているのよ!可愛すぎて寝ていられないわ!」
「えぇ奥様。坊ちゃまは旦那様にも似ていらっしゃって、とても凛々しくあられます」
奥様、旦那様、奥様、旦那様。どこかのお金持ちか。現代日本において奥様、旦那様と言われるのはお金持ちであるだろうし、これは世界共通だと思う。僕はむしろ貧乏だったから本当のところは知らないけれど、少なくとも僕の家では奥様、旦那様なんては言わない。ここはお金持ちの家なんだろう。
「そうよねエリーゼ!私と旦那様の子ですもの、可愛くて凛々しいのは当然よね!」
テンション高めな女性(多分僕の母)と会話から察するにそのお付きの人(侍女?)が話していると大きな音を立ててドアが開いた。
「ミーア!」
僕を抱いている女せ…――もういいや、母と呼ぶことにする――の後ろからバタバタと駆け寄ってくる音がする。
「ミーア!僕たちの子が生まれたと聞いたけれど、その子かい?」
優しそうな、何ともむずがゆくなるほど優しい声で話すのは僕の父親だろうか。確認しようにも生まれたての赤ん坊の視力なんて高が知れている。ぼやぼやだ。
「お帰りなさいフェリクス。この子が私たちの子よ!私にもあなたにも似ていて可愛すぎて困っていたところなの!フェリクスはどっちに似ていると思う?」
母は僕にぞっこんらしい。そんなに可愛いのか、僕。目がちゃんと見えるようになったら鏡を見ないとな。
「そうだね、僕たち二人の良いとこ取りをしているんだろうね。もちろん、ミーアには悪いところなんて一つもないけどね」
――……なんだこの甘い会話は。ゲロ吐きそう
両親の甘い甘ぁ~い会話を聞きながら僕はそんなことを思った。僕の両親は色眼鏡が過ぎてしかもお互いラブラブ(死語)だ。前世の両親は離婚していたから、こんな夫婦には慣れないな。まぁでも、冷え切った夫婦よりは良いか。
なんて考えていたら父(ぼやけているから断定はできないけど)が母から僕を受け取って抱いた。
「この子は僕たちの子だ。この家は公爵家だから黙っていても周りが騒ぎ立てる。たくさんの困難があるだろうが僕がきっとお前を守るから、お前はお前の人生を楽しんでくれよ、レイハルト」
そう優しい声で僕にささやいた。すると母も、
「あら、フェリクスだけじゃないわよ。私だってこの子を守るって決めているんだから!」
そう言って僕のおでこに手を当てた。
なんだかまた視界がぼやけてきた。それに、遠くで赤ん坊の泣き声もする。
「あぁレイ!そんなに泣いてどうしたの。母はここにいますよ」
「僕もここにいるんだから、そんなに泣かないで」
そんな言葉を聞きながら心地良い揺れと振動に身をまかせた。
――そうか、僕は泣いているのか
この両親の言葉を聞いていると、前世のことを思い出して泣いてしまいそうだ。赤ん坊の僕は声をあげて泣いているけどね。
前世で愛されなかったわけではない。むしろ心配性の姉には良く面倒を見られていたし、遠くに住んではいるけれど父も養母も、妹たちも母も僕のことを気にかけてくれていた。たまにうちに来ていたし、上の妹なんて最期の4年間なんてうちに押しかけて来てうちから大学に通っていた。
妹は部屋を片付けるのが苦手なようで、僕の使っていたものはどんどん追いやられてリビングなんか妹の部屋と化した。慣れない炊事をしてやたら茶色い料理を食べさせられたっけな。基本的に炒め物しかレパートリーがなかった。しかも、頼んでもいないのに料理作ってやっているんだからと食費まで取られた。僕のなけなしのバイト代から飛んでいった食費たちはどこへ行っただろうか。懐かしいな。
死んでしまった今となってはどうにもならないけど、みんなにありがとうと言えたらどんなに良いだろうか。こんなに早く死んでしまってごめん。親より早く逝くなんて、なんて親不孝だろう。僕も良くなっていると思ったけど、思いのほか僕の身体は傷ついていたみたいだ。
でもね、神様は僕に2度目の人生を与えてくれたんだ。こんなに僕のことを思ってくれる両親のもとで、まさかもう一度人生をやり直すなんて思いもしなかったけど、どうせならできなかったこともたくさん挑戦して思いっきり人生を楽しもうと思う!
――前世のみんな、僕は今世で頑張ります!
だから、みんなも楽しい人生を送ってね。それで、たまにで良いから僕のことを思い出して、仏壇にチョコなパイなんてお供えしてくれると嬉しいな。
そんなことを思いながらまた心地良いまどろみに身をまかせて僕は目を閉じた。
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