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雨垂れ石を穿つ
しおりを挟む(七月)
翌日。
中学校の朝のホームルームでは、先生が昨日のゲリラ豪雨についての話をしていた。
「おいみんな。昨日の雨は大丈夫だったか?」
「大丈夫だよ先生!」とか、「うちなんか塀が壊れちゃって大変だよ~」とか、「昨日の宿題をサボったことがバレて神様が怒ったのかも」なんて聞こえてくる。
「ニュースでもやってるけど最近の気象は特に読めないそうだ。七月になってから既に三回もゲリラ豪雨が起こってる。先月なんて十一回だぞ十一回! いいか? 何度もいうが、ゲリラ豪雨で人が亡くなった事例も起きてるんだ。天候が荒れた時は大人しく建物の中にいるんだぞ、わかったか?」
「はーい」という声が響いた。
「それじゃあ日直の……一年、このプリントをみんなに配ってくれ」
私は席を立ち先生のもとに向かった。
黒板の端には、『七月七日、晴れ。日直、一年暦(いちねんこよみ)』と書かれていた。
◇
昼休み。
私は屋上で友達の徳井梨花(とくいりか)とお弁当を食べていた。
「ねえ、昨日も山登ったんだって?」
「登ったよ~」
「どうだった? 境界線は見えた?」
「うん! はっきりと見えたよ。すぐに雨が止んで消えちゃったけどね」
「おーすごいじゃん。何度も登った甲斐があったね~。ま! 私には真似できないというかなんというか……そもそも暦ってそんなに景色とか好きだったっけ?」
「ん~どうだろ~。でも幻想的なシーンとかは好きかも! 雨の境界線もすごく感動したし」
「ふ~ん。まあ私も最初は見たいと思ったんだけど~、な~んか熱が冷めたっていうか……」
「梨花は飽き性だもんね」
「それはあるかも」
「予報だと今週も来週も晴れが続くみたいだよ。……もしかして次の雨の日も登るの?」
「ん~。わかんない」
「ほ~お。てっきりいつもみたいに登るって即答するのかと思った」
「雨が降ったらまた登るかも」
「ほらやっぱり~」
私たちは笑いあった。
「そういえば暦聞いてよ~! 昨日ね、おばあちゃんに今日の七夕祭りに着てく浴衣の洗濯をお願いしたんだけど、その時にまーた言い伝えのことをいってきたの」
「あの言い伝え?」
「そうそう。でさあ――」
と梨花が話すかたわら、私は言い伝えのことを思い起こす。
この町には古くからのいい伝えがある。
『分かつ雨時、異界の門は開かれん。すなわちそれは雨の境界なり』
雨の境界線は二つの世界を繋ぎ、この世に別の世への入口が現れるという意味だ。
最初そんな迷信じみた言い伝えは信じていなかった。
あの日までは――。
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