雨の境界

ちさめす

文字の大きさ
上 下
2 / 9

雨垂れ石を穿つ

しおりを挟む

(七月)

 翌日。

 中学校の朝のホームルームでは、先生が昨日のゲリラ豪雨についての話をしていた。

「おいみんな。昨日の雨は大丈夫だったか?」

「大丈夫だよ先生!」とか、「うちなんか塀が壊れちゃって大変だよ~」とか、「昨日の宿題をサボったことがバレて神様が怒ったのかも」なんて聞こえてくる。

「ニュースでもやってるけど最近の気象は特に読めないそうだ。七月になってから既に三回もゲリラ豪雨が起こってる。先月なんて十一回だぞ十一回! いいか? 何度もいうが、ゲリラ豪雨で人が亡くなった事例も起きてるんだ。天候が荒れた時は大人しく建物の中にいるんだぞ、わかったか?」

「はーい」という声が響いた。

「それじゃあ日直の……一年、このプリントをみんなに配ってくれ」

 私は席を立ち先生のもとに向かった。

 黒板の端には、『七月七日、晴れ。日直、一年暦(いちねんこよみ)』と書かれていた。

 ◇

 昼休み。

 私は屋上で友達の徳井梨花(とくいりか)とお弁当を食べていた。

「ねえ、昨日も山登ったんだって?」

「登ったよ~」

「どうだった? 境界線は見えた?」

「うん! はっきりと見えたよ。すぐに雨が止んで消えちゃったけどね」

「おーすごいじゃん。何度も登った甲斐があったね~。ま! 私には真似できないというかなんというか……そもそも暦ってそんなに景色とか好きだったっけ?」

「ん~どうだろ~。でも幻想的なシーンとかは好きかも! 雨の境界線もすごく感動したし」

「ふ~ん。まあ私も最初は見たいと思ったんだけど~、な~んか熱が冷めたっていうか……」

「梨花は飽き性だもんね」

「それはあるかも」

「予報だと今週も来週も晴れが続くみたいだよ。……もしかして次の雨の日も登るの?」

「ん~。わかんない」

「ほ~お。てっきりいつもみたいに登るって即答するのかと思った」

「雨が降ったらまた登るかも」

「ほらやっぱり~」

 私たちは笑いあった。

「そういえば暦聞いてよ~! 昨日ね、おばあちゃんに今日の七夕祭りに着てく浴衣の洗濯をお願いしたんだけど、その時にまーた言い伝えのことをいってきたの」

「あの言い伝え?」

「そうそう。でさあ――」

 と梨花が話すかたわら、私は言い伝えのことを思い起こす。

 この町には古くからのいい伝えがある。

『分かつ雨時、異界の門は開かれん。すなわちそれは雨の境界なり』

 雨の境界線は二つの世界を繋ぎ、この世に別の世への入口が現れるという意味だ。

 最初そんな迷信じみた言い伝えは信じていなかった。

 あの日までは――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

プルートの逆襲

LongingMoon
SF
 今から約300年後の24世紀初頭、人類は冥王星(プルート)まで行動範囲を広げていた。 そんな中、宇宙を舞台にした不可思議な事件が多発する。一方、地球では謎のウィルスが国家中枢におかれている人物の親族に蔓延する。  2314年2月に予定されている絶大な権力を握るようになった国連事務総長の選挙をめぐって、マフィアの陰謀が蠢く。  2313年、世界中からウィルス感染者の関係者有志5人が、月の老人ホームに住むというじいさんの呼びかけで、敵の妨害を受けながらも動き出す。5人は敵の最新鋭の惑星間ロケットのあるペルーに集まって、それを奪って地球を飛び立ち、抗ウィルス剤を求めて冥王星へ旅立つ。  主人公カズはサッカー少年の高校1年生で、突然ウィルスに冒されたガールフレンドのマリアを助けるため、両親に別れを告げて旅立つ。他の4人は、カンフーレディの美鈴、道化師のクリス、パイロットのセバスチャン、ドクターのマンデラ。そして、カズたちは奪った宇宙船にミロメシアと名付ける。 5人のメンバーは、月でじいさんと合流し、2313年偶然にも直列している火星→土星→天王星を経由して冥王星へと向かう。様々な妨害工作を受けたり、期せずして土星で宗教紛争に巻き込まれたりする。  冥王星の衛星カロンへ向かうミロメシアの中で、セバスチャンがプルートとカロンに纏わるギリシア神話で、この冒険旅行にまつわる因果を語る。そのセバスチャンに見込まれたカズは、この冒険旅行の中で、ミロメシア操縦の手ほどきを受けていた。  苦難の末、冥王星の衛星カロンに着陸するも、敵の罠にはまって、いったんカロンを離れ、太陽系外縁部のエッジワースカイパーベルトへの逃避行を余儀なくされる。カズの操縦で切り抜けようとするが、・・・

月から遠いこの地球(ほし)で

青海汪
SF
宇宙に居住を移し始めた近未来。人々は技術の進化に伴い様々な恩恵を受けて暮らしていた。しかしその裏側で失った事さえ意識されずに消えていく 「想い」というものがあった。 一話完結型のSF短編集。 遥か彼方から発信されるラジオを通し語るシエルの謎が、すべてを読み終えた時に解き明かされる。 これは宇宙の片隅で生まれた、孤独な少年が紡ぐ人々の物語…

【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直
SF
青年は出会いを通じて真の『男』へと成長する 『特殊な部隊』への配属を運命づけられた青年の驚きと葛藤の物語 登場人物 気弱で胃弱で大柄左利きの主人公 愛銃:グロックG44 見た目と年齢が一致しない『ずるい大人の代表』の隊長 愛銃:VZ52 『偉大なる中佐殿』と呼ばれるかっこかわいい『体育会系無敵幼女』 愛銃:PSMピストル 明らかに主人公を『支配』しようとする邪悪な『女王様』な女サイボーグ 愛銃:スプリングフィールドXDM40 『パチンコ依存症』な美しい小隊長 愛銃:アストラM903【モーゼルM712のスペイン製コピー】 でかい糸目の『女芸人』の艦長 愛銃:H&K P7M13 『伝説の馬鹿なヤンキー』の整備班長 愛する武器:釘バット 理系脳の多趣味で気弱な若者が、どう考えても罠としか思えない課程を経てパイロットをさせられた。 そんな彼の配属されたのは司法局と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった しかも、そこにこれまで配属になった5人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという そんな『濃い』部隊で主人公は生き延びることができるか? SFドタバタコメディーアクション

スターゲイザー~楽園12~

志賀雅基
SF
◆誰より愉快に/真剣に遊んだ/悔いはないか/在った筈の明日を夢想しないか◆ 惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員Part12[全36話] 大昔にテラを旅立った世代交代艦が戻ってきた。だが艦内は未知のウイルスで全滅しており別の恒星へ投げ込み処理することに。その責を担い艦と運命を共にするのは寿命も残り数日の航空宇宙監視局長であるアンドロイド。そこに造られたばかりのアンドロイドを次期局長としてシドとハイファが連れて行くと……。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

あやつりのキサキ サイドストーリー

和泉/Irupa-na
SF
インディーズゲーム「あやつりのキサキ」のweb掲載していた短編ストーリーになります。 ゲーム本編の前日譚を、主人公である浩介とヒロインのキサキの視点で2本掲載。 □ゲームの告知サイト  http://irupa-na.repadars.org/index.html

装甲を纏い戦う者達

ブレイブ
SF
未知の物質が発見され、未知の物質はアルカディアと命名され、アルカディアが適応すれば人に驚異的な力を与える。人をほおっては置けない白黒忌子はただの学生として過ごしていたが、特異災害、アドヴァルサの侵略攻撃の中、忌子の想いによって力が目覚めた

自衛隊のロボット乗りは大変です。~頑張れ若年陸曹~

ハの字
SF
日比野 比乃(ヒビノ ヒノ)。国土防衛組織、陸上自衛隊第三師団“機士科”所属の三等陸曹、齢十七歳。 自衛隊最年少の人型機動兵器「AMW」乗りであり、通称「狂ってる師団」の期待株。そして、同僚(変人)達から愛されるマスコット的な存在……とはいかないのが、今日の世界情勢であった。 多発する重武装テロ、過激な市民団体による暴動、挙げ句の果てには正体不明の敵まで出現。 びっくり人間と言っても差し支えがない愉快なチームメンバー。 行く先々で知り合うことになる、立場も個性も豊か過ぎる友人達。 これらの対処に追われる毎日に、果たして終わりは来るのだろうか……日比野三曹の奮闘が始まる。 ▼「小説家になろう」と同時掲載です。改稿を終えたものから更新する予定です。 ▼人型ロボットが活躍する話です。実在する団体・企業・軍事・政治・世界情勢その他もろもろとはまったく関係ありません、御了承下さい。

冬に鳴く蝉

橋本洋一
SF
時は幕末。東北地方の小さな藩、天道藩の下級武士である青葉蝶次郎は怠惰な生活を送っていた。上司に叱責されながらも自分の現状を変えようとしなかった。そんなある日、酒場からの帰り道で閃光と共に現れた女性、瀬美と出会う。彼女はロボットで青葉蝶次郎を守るために六百四十年後の未来からやってきたと言う。蝶次郎は自身を守るため、彼女と一緒に暮らすことを決意する。しかし天道藩には『二十年前の物の怪』という事件があって――

処理中です...