伯爵令嬢と想いを紡ぐ子

ちさめす

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後日談

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 結婚式は無事に終わった。


 一つの気掛かりなことを除いて、全てが順調に進んでいる。


 ――チリちゃんは、いったいどこにいるのかしら。


 あの日以来、私はチリちゃんと会えてはいない。彼女は行方知れずとなってしまったのだ。


 結婚式の数日前、私はウエディングドレスの試着のために城下町を訪れた。その際にチリちゃんの住んでいた家を覗いてもそこはもぬけの殻だった。


 よくよく考えてみると、私はチリちゃんの名前以外のことは何も知らなかった。


 結婚式には顔を出してくれるかもと期待はしていたのだけど、結局チリちゃんが現れることはなかった。


 ――連絡の取れない状況が、これほどまでにもどかしいなんて思いもしなかったわ……。いったいどこにいるの、チリちゃん……。


 そして夜を迎える。


 私は殿下と同じ時を過ごした。もちろん、私にとっては愛のある一夜となった。きっとそれは殿下も同じ想いなのだと信じている。


 私は明日から城に居を移す。そしてその作業も明日には終わる。


 チリちゃんに話したいことがどんとどん膨れる一方で、また会いたいという想いも募った。


 殿下が寝静まると、眠れない私は寝室の窓から外を眺める。空には半円を描く月が色濃く見えた。


「あれは二十三夜……下弦の月……」


 ふと、私は月にお祈りをするように手を組んだ。


 ――チリちゃん、本当にありがとうございます……。チリちゃんがくれたこの運命を、私は必ず紡いでいきます。そうしていつまでもいつまでも、私は殿下のことを想い続けます……。


 チリちゃんはいっていた。


『赤い糸』が結ばれてもそれで終わりではない。想いが途切れてしまうと『糸』は灰色となって消えてしまう。運命を変えて紡いだこの『糸』を、これからも鮮やかな『赤い糸』ままに私と殿下を結び続けるのはこれからの私次第だと。


 そして。


 想いと想いは繋がっている。


 ――だからきっといつかは、私の想いが殿下の想いと繋がるように……。


『運命の赤い糸』になるように――。



 ◇◇◇



 結婚式が執り行われた翌月、ある大道芸の一行が城下町を訪れた。


 広場のロープで作った即席の会場には、歳は十前後の綺麗な緑色のドレスを着た女の子が席に着いていた。


「あなたをば~わらわとぞ思ふ~望月の~欠けたることも~なしと思へば~」


 女の子は自分で書いた札の文字を読むと満足そうに微笑んだ。


「あは! 我ながら中々にいい出来なんじゃないかな!?」


 一人盛り上がっているその女の子に、とある令嬢が近づく。


「にしても~あのネックレスはほしかったな~。あ~もう! あれは絶対この世に一つしかないパターンのやつだよ~!」


「あなたはもしや――」


 女の子は近づいてくるその令嬢に気がついた。


 見るとその令嬢の首元には、月を模した銀色のネックレスが掛けられていた――。




 おわり


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