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父と子④
しおりを挟む「変わらなきゃいけない」
「・・・ハル?」
うつむいたまま、手を握りしめて僕は呟いた。
無意識に言葉を口にしていたことも、ロイが聞き返したことにも気付かず、僕はただ真っ直ぐと前を見る。
今の僕はハルだ。
だから、ハルの父さんは僕の父さんだ。
僕は、父さんを救いたい。
僕は出した答えを伝える。
「父さん、僕がいくよ。政府の特命は僕がやるよ!」
領主は驚いた表情をするが、しかし間を置かず反応する。
「いかんぞハル!危険だ。襲撃による傷や記憶喪失で満身創痍なのは分かっておるのだ。それにハルは七曜の加護を受けてはおらん。ここは親に任せておれば良いのだ。ハルよ、それは無用の心配だ」
大広間に来るまでの間、僕はロイから、前のハルは周りの人間に対してかなり反発をしていたと聞いた。
ハルの部屋の状況からみても、相当父さんにも負担を掛けていたのは容易に想像出来る。
それなのに、僕たちがこの部屋に入って来た時の最初に見せたあの優しい目。
あの時に感じたのは、紛れもなく昔父が僕に向けていた瞳だった。
僕が父にしてあげたかったことを、父さんに応えることで叶えられる。
自分自身の問題として、僕はそう思った。
僕はこの世界の父さんを救いたい。
「もう、決めたんだ!父さん。僕は・・・自分の為にも僕が行くんだ!」
僕は玉座に座る父さんを見る。
視線を切ることなく、訴えるように見続ける。
しかし・・・。と、これまでに一度も見せたことが無かった息子の決意に、領主は思わずたじろいでしまう。
マリーンが口を開く。
「領主様、信じましょうよ息子様を。これまでのように、今も信じてあげましょうよ」
マリーンの言葉に、にやりとしたロイも口を開く。
「領主様。このロイ、使用人として最後まで息子様にお供し、特命を経て無事に帰すことをここに誓います」
そう言うとロイは片膝を付き頭を下げた。
僕はロイの方に身体を向いて、ありがとうと感謝した。
領主は考え込む。
そして。
「ふう、私の負けだ。ハルよ、成長したな」
ため息とともに領主は白旗をあげた。
「父さん、ありがとう。僕、必ず成し遂げるから見ていてほしい」
この気持ちは心の中で父にも向けていた。
すべてがうまくいくために、今を好きにやっていこうと強く思った。
「ハルよ、そなたを使節団長に任命する。出発は明日、護衛の者に特命の内容を伝えておるのでな、今日はゆっくりと休むがよい。ああそれと、長旅になる故、出発の準備を怠るでないぞ」
僕は頭を下げた。
マリーンにも頭を下げ、僕たちは大広間を出る。
「ハルよ、必ず生きて戻れよ」
領主の言葉は部屋を出た後のハルには届かなかったが、横で聞いていたマリーンが代わりに答える。
「息子様、かわりましたな」
「見違える程にかわった。これまでいろいろとあったが信じてきてよかった。本当に強くなった」
これほどの愛を感じられて、きっと息子様は幸せですよ。
「ああ、そうだと良いな」
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