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走馬灯②

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「うああああっ!」

気が付くとベットから勢いよく身体を起こしていた。
全身から汗が吹き出し呼吸が乱れている。

「夢か・・・」

僕は、この夢を知っている。
不思議な栞の力を使って始めて小説の世界に入った時、僕は薄暗い暗闇の中に居た。

小舟に乗った僕はそこで出会った女性に栞や玉のことを聞いた記憶だった。
ただ、雨の音に思い当たる節はなかった。

「何だったんた今の夢は。でもなんだか懐かしかった。あれから最初の冒険が始まったんだよな。あれ、そういえばここは一体どこだ?」

誰かの部屋のようだ。

僕はベットから降りる為に、布団をめくろうと腕を動かした。
途端に激痛が走った。

「痛っ・・・!」

顔をしかめて痛む箇所に目を向けると、腕に巻かれた包帯に気付く。

「これは、あの狼の噛み傷か。手当てを受けたのか?」

また痛み出さないよう慎重にベットから降りた僕は部屋を見渡す。

綺麗に整頓されてはいるが、壁や床のところどころに物をぶつけた跡がある。
向かいの棚には様々な小物が並べられているが、そのほとんどが破損している。

壁には何枚かのポスターが張られていて、そのほとんどが破れてはいるが一番端にあるポスターは無傷に見えた。

僕はそのポスターのもとへ行く。
アカデミーへようこそ、というポップアップ文字の上に5人の踊り子がポーズを取っていた。

ふと、センターで両手を広げた踊り子に目を留める。

「あれ、そういえばこの子どっかで見たことあるような・・・」

見たことのある顔をしているが、思い出せない。
思い出そうと思考を巡らせていると、部屋のドアが開いた。

「おっハル目が覚めたか」

ロイが部屋に入ってきた。

「具合はどうだい?今、水を持って来たから淹れてやるよ」
「ありがとう」
「別にいいって。それはそうとハル、あまり無理をしたらダメだぞ。あの後ハルは失血で意識を失ったのだからな」

ロイはコップに水を注ぐ。

「ロイ、介抱してくれてありがとう。助かったよ」
「だから別にいいって。何度も言われると照れちまうよ」

ロイから溢れそうなコップを受け取った僕はその水を飲み干した。

「なあ、ロイ。あの後は一体どうなったんだ?」
「シールドレインだよ」

「ギリギリのところでシールドレインに助けてもらったんだ。襲撃にきた魔物は全部倒したそうだ。それからはハルを抱え込んで、病院はかなりの被害で機能していないからハルの部屋まで運んできたってわけだ」

「なるほど。そうすると、ここが僕の部屋だって?」

「やっぱり覚えてないか。あ、そうだハル。落ち着いたら顔を出すようにとハルのお父上から伝言を受けているんだ。どうする?一応病み上がりだから明日でもいいと思うが」

僕は腕を見た。
話を聞くぐらいなら平気だと思った。

「いや、もう大丈夫だよ。行こう」
「そうか。でもしんどくなってきたらちゃんと言うんだぞ」
「分かったよ」

お父上のもとへ向かう為、僕とロイは部屋を出た。
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