6 / 16
窮地②
しおりを挟むロイが呟きを聞いた僕はポケットに視線を落とす。
ポケットにはあの玉が入っている。僕をこの世界に導いた栞の玉。
(この状況はもうゲームオーバーか。展開が早くてセーブが出来なかった。リセットをすると最初からになるな)
僕はポケットに手を伸ばした。
僕の動きを察知した狼が吠えると同時に一斉に飛び掛かってきた。
「来たぞハルー!」
狼は鋭い歯をむき出しにしながら迫ってくる。
こちらの動きよりも機敏な狼たちは簡単に僕らの間合いに入ってきた。
玉を握りしめた手を勢いよくポケットから振り出すが、その動作中、二の腕あたりを後ろから迫ってきた狼に噛みつかれてしまった。
激痛が走る。
何本の歯が腕の肉に食い込まれているのか、腕の骨は折れてしまったのか、そんなことを考えられる余裕が無いほど、脳は痛みと危険でいっぱいになる。
言葉にならない声で叫ぶ。反射的に噛まれていない方の手で噛みついた狼の口を開けようとするがびくともしない。
「ぐあああっ!ぐ、離れろこのやろおおお!」
身体をひねり狼を引き剝がそうとするが、バランスを崩して倒れこんでしまった。
その衝撃で玉を手放してしまう。
倒れこむ僕に狼は馬乗りになると、更に嚙む力をより強めた。
「あああああああっ!!!」
耐えがたい激痛に頭は真っ白になる。
何も考えずにただ渾身の力を振り絞って狼の頭を殴るがびくともしない。
2発、3発と繰り返し殴った。
4発目を殴る時、握りしめた拳は狼の目に当たった。
キャンと鳴きながら狼は口を開け跳ね回った。
態勢を整える為に立ち上がろうとするが、腕の痛みに耐えられず片膝をついてしまう。
噛まれた腕の歯の跡に手をあてがう。
おびただしい程に血が出ていた。
「ロイは・・・」
僕は半開きの目でロイを見た。
彼はがれきの山から拾ったのか、鉄の棒を振り回しながら狼を牽制していた。
だが、壁に背を向けたロイに2匹の狼は徐々に近づいている。
「ロイも時間の問題か。くそっ、玉を探さないと・・・」
少しの動作でも反応したように腕に激痛が走る。首だけを動かし周りを見ても玉は見つからない。
「玉は一体どこにあるんだ・・・」
ハルを襲った片目の狼は呼吸を整えて再びこちらを見据え始めた。
口元にしわがどんどん集まってきている。
僕は傷口を押さえ、狼に目線を合わせながらゆっくりと片膝で後退りする。
「くそっ一体どうする?」
僕は自分の心に訴えた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる