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窮地②
しおりを挟むロイが呟きを聞いた僕はポケットに視線を落とす。
ポケットにはあの玉が入っている。僕をこの世界に導いた栞の玉。
(この状況はもうゲームオーバーか。展開が早くてセーブが出来なかった。リセットをすると最初からになるな)
僕はポケットに手を伸ばした。
僕の動きを察知した狼が吠えると同時に一斉に飛び掛かってきた。
「来たぞハルー!」
狼は鋭い歯をむき出しにしながら迫ってくる。
こちらの動きよりも機敏な狼たちは簡単に僕らの間合いに入ってきた。
玉を握りしめた手を勢いよくポケットから振り出すが、その動作中、二の腕あたりを後ろから迫ってきた狼に噛みつかれてしまった。
激痛が走る。
何本の歯が腕の肉に食い込まれているのか、腕の骨は折れてしまったのか、そんなことを考えられる余裕が無いほど、脳は痛みと危険でいっぱいになる。
言葉にならない声で叫ぶ。反射的に噛まれていない方の手で噛みついた狼の口を開けようとするがびくともしない。
「ぐあああっ!ぐ、離れろこのやろおおお!」
身体をひねり狼を引き剝がそうとするが、バランスを崩して倒れこんでしまった。
その衝撃で玉を手放してしまう。
倒れこむ僕に狼は馬乗りになると、更に嚙む力をより強めた。
「あああああああっ!!!」
耐えがたい激痛に頭は真っ白になる。
何も考えずにただ渾身の力を振り絞って狼の頭を殴るがびくともしない。
2発、3発と繰り返し殴った。
4発目を殴る時、握りしめた拳は狼の目に当たった。
キャンと鳴きながら狼は口を開け跳ね回った。
態勢を整える為に立ち上がろうとするが、腕の痛みに耐えられず片膝をついてしまう。
噛まれた腕の歯の跡に手をあてがう。
おびただしい程に血が出ていた。
「ロイは・・・」
僕は半開きの目でロイを見た。
彼はがれきの山から拾ったのか、鉄の棒を振り回しながら狼を牽制していた。
だが、壁に背を向けたロイに2匹の狼は徐々に近づいている。
「ロイも時間の問題か。くそっ、玉を探さないと・・・」
少しの動作でも反応したように腕に激痛が走る。首だけを動かし周りを見ても玉は見つからない。
「玉は一体どこにあるんだ・・・」
ハルを襲った片目の狼は呼吸を整えて再びこちらを見据え始めた。
口元にしわがどんどん集まってきている。
僕は傷口を押さえ、狼に目線を合わせながらゆっくりと片膝で後退りする。
「くそっ一体どうする?」
僕は自分の心に訴えた。
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