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目覚め
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太陽の眩しさで目を覚ました。
身体を起こすと目の前は草原が広がっていた。
程よい気候、日の温もり、草の匂い、肌に感じる風の感触。
すべてが本物だ。
「目を覚ましたか?」
座り込んでいる僕に、金髪の男が話し掛けてきた。
「ここは、どこ?」
「ここはいつもの草原だよ。それよりもハルは大丈夫なのか?」
(なるほど。この小説では僕はハルという人に転移したのか)
「えっと、大丈夫って何のこと?」
金髪の男は手に持っている黒の丸い玉を僕に見せて、
「ものすごい勢いで空からこれが降ってきてハルに当たったんだ。結構すごい音が鳴っていたけど、頭は大丈夫なのか?」
「え、頭?」
と、僕が頭に意識を向けた途端、強烈な痛みが走った。
「いや、大丈・・・い、痛ってええええ!」
僕は頭を両手でおさえながら必死に堪えている傍ら、金髪の男の笑い声が聞こえてくる。
「ははは。その調子なら大丈夫そうだな。なあハル。覚えているか?この玉がハルの頭にぶつかる時、変な音が鳴ったんだ。何かこう、鐘のような音だったけど」
痛みが引かず涙が出ていた僕の目は、こちらを向いた金髪の男をぼやっと映す。
胸元が少し開いた白い服に茶色の模様が入った灰色のズボンという身なりの男は僕の返答を待っている。
「ごめん、分からないよ。ところでその、申し訳ないけど、君は誰だい?」
(初めて来る本の世界は、全くの無知からスタートするんだった。まずは情報収集から始めないとね。それよりもさっきの頭の痛みは何だったんだ?これまでに3度、他の小説世界を冒険して来たけど、こんなのは初めてだ)
僕の返答を聞いた金髪の男は手に持っていた黒い玉を落とした。
しかしそのことには気付かず、こちらを見たままゆっくりと口を動かした。
「お、おいハル。お前・・・記憶がないのか。俺だよ、ロイだよ。俺のこと覚えてないのか。ロイだよハル!」
金髪の男は僕の両肩をがっと掴んだ。
掴んだ腕越しに少し震えているのが伝わる。
「ごめん。何も覚えてないんだ。その、ロイ、さん」
ロイは僕の肩を掴んだまま下を向いた。
ゆっくりと僕の肩から両手を離し、
「一旦町まで戻って医者に診てもらおう。悪化するといけないからな。ハル、立てるか。手を貸すよ」
差し出された手を掴んで僕は立ち上がった。
そして周りを見回した。
(本に栞を差し込むとその本の中に行くことが出来る。今僕の目の前に広がっているこの世界は、第4巻という小説の世界だ。これから僕はこの世界を冒険するんだ)
僕はロイに先導されながら町に向けて歩き出す。
道中、僕はロイから家族のことや町のことを聞かれたが何一つ答えられなかった。
そのことにロイは、一時的な記憶喪失で気づいたら思い出してるよ、と励ましてくれた。
「ここから町まではそう遠くない。幸いこの辺りに魔物はいないし無事に着きそうだ」
「魔物なんているんですか?ロイさん」
「おいおい、ロイさんはやめてくれよ。ロイでいいよ」
「わかったよ、ロイ」
「分かれば良しだ。この世界には魔物という凶悪な生き物がいる。町を出るときは気を付けないといけないよ。あ、そうだハル。これ持っておきなよ」
ロイはポケットから黒い玉を取り出して僕に渡す。
「ありがとうロイ」
(危なかった。本の世界では栞は玉の形をしている。この栞の玉で僕はまた現実の世界へと戻ることが出来るんだ。無くすと大変なことになるところだった)
僕はロイから受け取った、3本の紺のラインが入った黒い玉をポケットにしまい込んだ。
町に着くまで、ロイからいろんな話をしてもらった。
会話の中で玉のことや鐘の音のことも話したが、僕はそのことについては何も答えなかった。
身体を起こすと目の前は草原が広がっていた。
程よい気候、日の温もり、草の匂い、肌に感じる風の感触。
すべてが本物だ。
「目を覚ましたか?」
座り込んでいる僕に、金髪の男が話し掛けてきた。
「ここは、どこ?」
「ここはいつもの草原だよ。それよりもハルは大丈夫なのか?」
(なるほど。この小説では僕はハルという人に転移したのか)
「えっと、大丈夫って何のこと?」
金髪の男は手に持っている黒の丸い玉を僕に見せて、
「ものすごい勢いで空からこれが降ってきてハルに当たったんだ。結構すごい音が鳴っていたけど、頭は大丈夫なのか?」
「え、頭?」
と、僕が頭に意識を向けた途端、強烈な痛みが走った。
「いや、大丈・・・い、痛ってええええ!」
僕は頭を両手でおさえながら必死に堪えている傍ら、金髪の男の笑い声が聞こえてくる。
「ははは。その調子なら大丈夫そうだな。なあハル。覚えているか?この玉がハルの頭にぶつかる時、変な音が鳴ったんだ。何かこう、鐘のような音だったけど」
痛みが引かず涙が出ていた僕の目は、こちらを向いた金髪の男をぼやっと映す。
胸元が少し開いた白い服に茶色の模様が入った灰色のズボンという身なりの男は僕の返答を待っている。
「ごめん、分からないよ。ところでその、申し訳ないけど、君は誰だい?」
(初めて来る本の世界は、全くの無知からスタートするんだった。まずは情報収集から始めないとね。それよりもさっきの頭の痛みは何だったんだ?これまでに3度、他の小説世界を冒険して来たけど、こんなのは初めてだ)
僕の返答を聞いた金髪の男は手に持っていた黒い玉を落とした。
しかしそのことには気付かず、こちらを見たままゆっくりと口を動かした。
「お、おいハル。お前・・・記憶がないのか。俺だよ、ロイだよ。俺のこと覚えてないのか。ロイだよハル!」
金髪の男は僕の両肩をがっと掴んだ。
掴んだ腕越しに少し震えているのが伝わる。
「ごめん。何も覚えてないんだ。その、ロイ、さん」
ロイは僕の肩を掴んだまま下を向いた。
ゆっくりと僕の肩から両手を離し、
「一旦町まで戻って医者に診てもらおう。悪化するといけないからな。ハル、立てるか。手を貸すよ」
差し出された手を掴んで僕は立ち上がった。
そして周りを見回した。
(本に栞を差し込むとその本の中に行くことが出来る。今僕の目の前に広がっているこの世界は、第4巻という小説の世界だ。これから僕はこの世界を冒険するんだ)
僕はロイに先導されながら町に向けて歩き出す。
道中、僕はロイから家族のことや町のことを聞かれたが何一つ答えられなかった。
そのことにロイは、一時的な記憶喪失で気づいたら思い出してるよ、と励ましてくれた。
「ここから町まではそう遠くない。幸いこの辺りに魔物はいないし無事に着きそうだ」
「魔物なんているんですか?ロイさん」
「おいおい、ロイさんはやめてくれよ。ロイでいいよ」
「わかったよ、ロイ」
「分かれば良しだ。この世界には魔物という凶悪な生き物がいる。町を出るときは気を付けないといけないよ。あ、そうだハル。これ持っておきなよ」
ロイはポケットから黒い玉を取り出して僕に渡す。
「ありがとうロイ」
(危なかった。本の世界では栞は玉の形をしている。この栞の玉で僕はまた現実の世界へと戻ることが出来るんだ。無くすと大変なことになるところだった)
僕はロイから受け取った、3本の紺のラインが入った黒い玉をポケットにしまい込んだ。
町に着くまで、ロイからいろんな話をしてもらった。
会話の中で玉のことや鐘の音のことも話したが、僕はそのことについては何も答えなかった。
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