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プロローグ
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始まりはいつも雨。
休日は出来る限り家に居たい性格だ。でも、今日は行きたい場所がある。
予報では晴れていたのに、外出する時に限って雨が降る。
「そういえば先週も雨が降っていたな」
自分は雨男なのだと思いながら玄関ドアを開ける。
「結構どしゃ降りだな」
黒色に紺のラインが入った傘を広げ僕は家を出た。
特に時間に追われているわけではないが、自然と足が早まる。
目的地は家から5分と掛からない為に直ぐに着いた。
ここは町の大きな図書館。
膨大な数の本が眠っている。
部活をしていた時はバスケに関する本、受験の時には苦手な数学の本、初めて好きな人が出来た時は、嫌われないように心理学の本を借りた。
あの時の心理学の本は役には立たなかった。けれど、全てを忘れて本に夢中になることの良さを知れるいい機会になった。
この図書館はいつ来てもガラガラだけど、利用し始めてもう2年になる。
図書館の入口で傘を専用の袋に包み、自動ドアを抜けて受付に目を向ける。と、丁度髪の長い司書さんと目が合った。手招きしてくれている。
顔を覚えてもらってからはよく本の貸し出し状況などを教えてくれる。
「あの本、返却あったわよ。すぐまた他の人に借りられないよう取っておいたわ」
「ありがとうございます、お姉さん」
礼を言い、用意された鉛筆で本のタイトルと自分の名前を貸出票に書く。
「返却が数日遅れることはざらにあるけど、3週間も返って来ないのは中々だよ。私何度も催促しちゃったわ」
「そうなんですね。昨日の返却のご連絡といい、いろいろとありがとうございます」
「気にしないで。また何か読みたい本があったらいつでも連絡ちょうだいね」
僕はお姉さんに感謝し本を受け取る。
自動ドアを抜けると、先程までの雨は上がり、雨雲の端からは少し太陽が見えていた。
僕は足早に自宅を目指した。
3週間も待った本をやっと読むことが出来る。帰路はその喜びでいっぱいだった。
ただいま、と玄関ドアを開け靴を脱ぐ。母はまだ買い物から帰ってはいないようだ。
僕はそのまま自分の部屋に向かった。
椅子に座り、鞄から本を取り出す。本の表紙は黒を基調としていて、タイトルを囲うように紺のラインが入っている。
本を机に置いた僕は、机の引き出しから1枚の栞(しおり)を取り出した。そして、本と並べるようにその栞も置いた。
黒に紺のラインが入ったその栞を見ながら、僕はそれを初めて手にしたエピソードを思い起こした。
・・・
僕は学校の昼休みに好きだった人に想いを伝えたが、やんわりと断られてしまった。
その日の夕方、僕は心理学の本を返すため図書館に立ち寄った。
本を返す時、三つ編みをした司書さんになにか悲しいことでもあったのかと声を掛けられた。
気持ちが顔に出ていたのだろう。
そんな君には、と司書が座っている椅子を回し、後ろに積み上げられた本の山から1冊を抜き取った。
「この本はね、作者が死んじゃって未完結で終わってしまった小説なんだけどね、とっっても面白いのよ。つらい時は一度こういった小説の世界に浸るのも悪くないわよ」
そう言いながら司書は黒い本を僕の前に置いた。
僕は適当に相槌を打つだけだった。そして、流れのままに借りたその本を自室で開いた時に挟まっていたのがこの栞だ。
・・・
「あの司書さんといろいろ話をしたいけど、司書辞めちゃったんだよな」
その日以降あの司書とは会えてはいない。
それじゃあ、と。僕は栞を手に取った。
「さて、行きますか」
僕は第4巻と書かれたその本の表紙をめくり、栞を差し込んだ。
僕の意識は、何かに吸い寄せられるような感覚とともに目の前の景色が真っ暗になった。
雨雲はすっかり無くなり、太陽は家を照らしていた。
休日は出来る限り家に居たい性格だ。でも、今日は行きたい場所がある。
予報では晴れていたのに、外出する時に限って雨が降る。
「そういえば先週も雨が降っていたな」
自分は雨男なのだと思いながら玄関ドアを開ける。
「結構どしゃ降りだな」
黒色に紺のラインが入った傘を広げ僕は家を出た。
特に時間に追われているわけではないが、自然と足が早まる。
目的地は家から5分と掛からない為に直ぐに着いた。
ここは町の大きな図書館。
膨大な数の本が眠っている。
部活をしていた時はバスケに関する本、受験の時には苦手な数学の本、初めて好きな人が出来た時は、嫌われないように心理学の本を借りた。
あの時の心理学の本は役には立たなかった。けれど、全てを忘れて本に夢中になることの良さを知れるいい機会になった。
この図書館はいつ来てもガラガラだけど、利用し始めてもう2年になる。
図書館の入口で傘を専用の袋に包み、自動ドアを抜けて受付に目を向ける。と、丁度髪の長い司書さんと目が合った。手招きしてくれている。
顔を覚えてもらってからはよく本の貸し出し状況などを教えてくれる。
「あの本、返却あったわよ。すぐまた他の人に借りられないよう取っておいたわ」
「ありがとうございます、お姉さん」
礼を言い、用意された鉛筆で本のタイトルと自分の名前を貸出票に書く。
「返却が数日遅れることはざらにあるけど、3週間も返って来ないのは中々だよ。私何度も催促しちゃったわ」
「そうなんですね。昨日の返却のご連絡といい、いろいろとありがとうございます」
「気にしないで。また何か読みたい本があったらいつでも連絡ちょうだいね」
僕はお姉さんに感謝し本を受け取る。
自動ドアを抜けると、先程までの雨は上がり、雨雲の端からは少し太陽が見えていた。
僕は足早に自宅を目指した。
3週間も待った本をやっと読むことが出来る。帰路はその喜びでいっぱいだった。
ただいま、と玄関ドアを開け靴を脱ぐ。母はまだ買い物から帰ってはいないようだ。
僕はそのまま自分の部屋に向かった。
椅子に座り、鞄から本を取り出す。本の表紙は黒を基調としていて、タイトルを囲うように紺のラインが入っている。
本を机に置いた僕は、机の引き出しから1枚の栞(しおり)を取り出した。そして、本と並べるようにその栞も置いた。
黒に紺のラインが入ったその栞を見ながら、僕はそれを初めて手にしたエピソードを思い起こした。
・・・
僕は学校の昼休みに好きだった人に想いを伝えたが、やんわりと断られてしまった。
その日の夕方、僕は心理学の本を返すため図書館に立ち寄った。
本を返す時、三つ編みをした司書さんになにか悲しいことでもあったのかと声を掛けられた。
気持ちが顔に出ていたのだろう。
そんな君には、と司書が座っている椅子を回し、後ろに積み上げられた本の山から1冊を抜き取った。
「この本はね、作者が死んじゃって未完結で終わってしまった小説なんだけどね、とっっても面白いのよ。つらい時は一度こういった小説の世界に浸るのも悪くないわよ」
そう言いながら司書は黒い本を僕の前に置いた。
僕は適当に相槌を打つだけだった。そして、流れのままに借りたその本を自室で開いた時に挟まっていたのがこの栞だ。
・・・
「あの司書さんといろいろ話をしたいけど、司書辞めちゃったんだよな」
その日以降あの司書とは会えてはいない。
それじゃあ、と。僕は栞を手に取った。
「さて、行きますか」
僕は第4巻と書かれたその本の表紙をめくり、栞を差し込んだ。
僕の意識は、何かに吸い寄せられるような感覚とともに目の前の景色が真っ暗になった。
雨雲はすっかり無くなり、太陽は家を照らしていた。
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